「書き初めはもっと自由でOK」墨汁を生み出したメーカーに聞く、実は親しみやすい書道の話 - 島村優

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※この記事は2020年01月05日にBLOGOSで公開されたものです

墨汁は簡単に書を始めるために生まれた

お正月の行事の一つとして親しまれ、冬休みの子どもの宿題にもなっている「書き初め」。新たな目標への気持ちの盛り上がる年初に、一年の抱負を書き上げるのは清々しいものです。ただ、字が上手じゃない、出されたお題が面白くない…といった理由で苦手意識を持っていた人も多いのではないでしょうか。

近年は減ってきていると聞きますが、「墨をすってこそ書道」という考え方を持つ先生も多く、個人的にも書き初めは準備がとても大変だと感じたのを覚えています。

このように、ひと昔前は「便利だけど書道の道からは外れている」との考えが強くあった墨汁ですが、その誕生は明治20年代に遡ります。紙や硯など書道で使われる道具の大半は中国由来である一方、墨汁は日本で誕生しました。

現在も墨汁に特化したメーカーとして業界を牽引する、さいたま市に拠点を持つ開明株式会社。その創業者・田口精爾氏は、岐阜の小学校で教員をしていた時代に「寒い中で生徒たちが墨をするのがかわいそうだ」「墨をする時間がもったいない」と感じ、子どもたちがもっと簡単に書の道に入れるよう、試行錯誤の末に墨汁を発明したといいます。

同社の三代目社長・田中葉子さんは次のように話します。

書道は「道」なので、最初は硯で墨をすって、心を落ち着けてから始める、というのが心得のようになっているので、墨汁はそうした作業を省いていることになります。ただ、もっと簡単に書に親しめるために作り出されたものなので、まず硯から墨をすって…と考えすぎずに、気軽に使ってもらえればと思います。

「墨汁を使うとラクしてる気がしますが、それでもいいんですか?」と聞くと、「私はそれでいいと思います。まず書いてみることが大事だと思います」と田中さん。「書道」をあまり堅苦しくとらえる必要はなく、書くことを楽しめば良いということなのです。

書き初めは英語でもカタカナでも良い

小学校、中学校で習う書道は「書写」という科目の名前の通り、手本を書き写すことで筆遣いの基本を学ぶ授業。そのため、宿題として課される書き初めも「初日の出」など定番の文言を書くことが多くなりますが、本来は自分の好きなように書いて良いものなのだとか。

「年頭に自分の一年の抱負を書くのが書き初めで、書く内容は自分の夢でもなんでも良いんです。同じような言葉を書くのは、やはりつまらないと感じてしまう人もいますからね。

だからカタカナでも英語でも、あまり構えないで、自分の好きな言葉を好きなように書いてもらればいいと思います。書家の方で英語の詩を書く方もいますし、そういった書き初めが書の世界から外れているとは思いません。書というのは自由なものなんです。

田中さんは、少子化や趣味・習い事の多様化の影響で、書道人口が減りつつあり「書道離れ」のような側面があることは認めつつ「依然として趣味で書を楽しんでいる方は多いように思います」と話します。

書道は若い人にはとっつきにくい存在かもしませんが、筆と半紙と墨汁があればできるんです。みなさん「私は字が下手だから」と言いますが、個性的ならそれでいいんじゃないかな、と。気楽におやりになったらいいと思うんです。どうもハードルが上がりすぎちゃっているような気がしていて。

日本の一つの伝統文化であり、大人になってからの趣味としても人気の高い書道。大人の方も新年のこのタイミングに久しぶりに筆をとってみてはいかがでしょうか。