大河に続いて…「紅白歌合戦」も視聴率ワースト記録更新 - 渡邉裕二

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※この記事は2020年01月03日にBLOGOSで公開されたものです

大河ドラマに続く看板番組のワースト記録更新に衝撃走る!? 昨年の大晦日に放送された「第70回NHK紅白歌合戦」の視聴率がビデオリサーチから公表された。それによると関東地区の前半の第1部(7時15分~8時55分)は34・7%で、後半の第2部(9時~11時45分)が37・3%だった。前年に比較して1部は3ポイント、2部に至っては3・8ポイントものダウンとなった。

「紅白歌合戦」視聴率39%割れの衝撃

「紅白」の視聴率は、2部構成となった1989年以降、1部と2部に分けて視聴率が公表されてきた。しかし、実際には2部が「実質的な平均視聴率」となっている。

過去を紐解いていくと、「紅白」のワースト記録は、04年の第55回が39・3%で最も低く、その後も06年、07年、15年、そして17年と4回の39%台があったものの、そのボーダーラインを割るようなことは過去にはなかった。

それだけに今回の数字は、「皆様のNHK」を揺るがす事件と言っても過言ではないだろう。さすがにNHK内でも「まさか、こんなに落ちるとは…」と驚きと戸惑いの声が上がったという。

「いくら落ちても、39%以下にはならないと思っていました。『紅白』の潜在視聴率は39%だと思われていましたから…。それが、まさか38%まで割り込むとは想像もしていませんでした。前年の第1部(37・7%)を下回る数字でしたからね」。

平成から令和に代わって最初の「紅白」。しかも70回目の〝Wアニバーサリー〟が「ワースト記録更新」とあっては、制作スタッフの衝撃度は正月気分も吹き飛ぶ。これでは新年早々モチベーションが上がるはずもない。

振り返ってみると、昨年の年末は、「桜を見る会」騒動が冷めやらぬうちに、カジノを含む統合型リゾート(IR)事業をめぐる汚職事件で中国企業から賄賂を受け取り、東京地検特捜部に逮捕される国会議員が出てきたり、保釈中だった元日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告がレバノンに〝無断出国〟する前代未聞の事件まで起こった。

そんな中でもスポーツ紙やネットメディアは「紅白」の話題で連日盛り上がっていた。その光景は、まるで「紅白」を中心に日本が回っているかのようだった。

もちろん「大晦日ぐらいは」という気持ちはあるが、さすがにこの状況はノーテンキ過ぎる。令和元年を代表するようなヒット曲も生まれてこなかった中での「紅白」。視聴者にソッポを向かれても仕方がない。

もはや「歌は世につれ世は歌につれ」なんて言事は死語に化してしまった感じさえある。

「確かに、民放各局で放送している長時間音楽番組は前年以上の高視聴率となっています。音楽番組の中身は80~90年代のナツメロで構成。後はジャニーズとAKBなどのアイドルを盛り込んだ内容でした。ただ、現実を見渡すと若者のテレビ離れは急速に進んでいます」(芸能関係者)。

「特別枠」の優遇はもはや歌合戦ではない

では、今回の「紅白」はどこに問題があったのか?

ここ数年の「紅白」は視聴率をアップだけを狙い、出場歌手とは別に「特別枠」を設けるようになった。

業界内では〝桃組〟なんて揶揄する声もあるが、NHKは、「特別枠」の歌手を出場歌手発表後の〝話題作り〟として利用するようになった。

「NHKは出場歌手より特別枠の歌手を優遇するようになった。これまでも矢沢永吉や中島みゆき、松任谷由実、宇多田ヒカル、サザンオールスターズなど、挙げればキリがありません。結局はアーティスト側も差別意識が出てきて、紅白に分かれての出場歌手とは一緒にされたくはない、出て欲しいなら別扱いをしてくれと主張するようになった。その時点で『紅白歌合戦』という基本的なコンセプトが失われてしまった。要は、大晦日にバラエティー歌番組をNHKが放送しているだけのことなんですよ」(音楽関係者)。

「紅白歌合戦」は本来、「紅白」に別れた出場歌手が、一年の最後に、自分の〝持ち歌〟で競い合うのが基本だ。もちろん近年はヒット曲が生まれにくくなっているだけに、その年を振り返る曲だけを歌唱することは難しい。過去の代表曲を歌うのもいいと思う。ここ数年、自分の曲を歌わせてもらえない島津亜矢の扱いは如何かと思うが…。

ただ、制作現場の内情を見ると、近年は出場歌手から演歌やベテラン歌手を外し、若者向けに内容を変えようとしている。スタッフの若返りや時代の流れから見ると当然だろう。

そんな流れを見せている一方で、「特別枠」として交渉しているのが70年代、80年代ではご都合主義だしチグハグ過ぎる。今年も目玉で出演したのは竹内まりや(64)で、ビートたけし(70)の「東京キッド」、さらには没30年を迎えた美空ひばりさんのA I復活…だった。結局、「視聴者ターゲットが絞り切れていないのも『紅白』が迷走している証し」(プロダクション関係者)だ。

NHKエンターテインメント番組部の二谷裕真部長は「今年は、東京でオリンピック・パラリンピックが開催される。そんな夢と希望にあふれる2020年への橋渡しとして、『紅白』は『夢を歌おう』というテーマを4年計画で掲げてきた」とした上で「今回の『紅白』では嵐と米津玄師さんという夢のコラボNHK2020ソングで『カイト』を初披露するなど、歌の力でたくさんの夢を応援することができた」とコメントしているが、4年計画で掲げてきたテーマは、最後にコケたことになる?

もっとも、これには「とにかく最初から最後までラグビー選手を引っ張り出し、さらに東京五輪を無理に押し出した演出にも問題がありそう」なんて声もある。

「とにかく、いろいろな映像を盛り込んで作り過ぎ。大晦日の夜にあれほどゴチャゴチャした番組を見せられたら視聴者だって疲れるんじゃないでしょうか。今の時代だからこそ、もっとシンプルな歌番組でいいと思いますけどね。前年はサザンとユーミン、それに米津玄師が大きな話題になりましたが、今回は、前回ほどの目玉というほどのものもなかったですしね。大河ドラマ『いだてん』もそうでしたが、NHKの東京五輪を扱った番組が、結果的に視聴率でワースト記録を出したことになります。これは新しいジンクスになるかもしれません」(放送記者)。

民放の裏番組が健闘 紅白一強時代は終焉か

ちなみに「紅白」の裏番組視聴率トップは、日本テレビが放送した「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!大晦日スペシャル 絶対に笑ってはいけない青春ハイスクール24時!」(6時30分~深夜0時30分)で、平均視聴率は、第1部(6時30分~)が16・2%で、第2部(9時~)は14・6%だった。

特に、元SMAPのメンバーで、現在は「新しい地図」として活動している草磲剛(45)、稲垣吾郎(46)、香取慎吾(42)のサプライズ出演には注目が集まった。

また、テレビ朝日「ザワつく!大晦日一茂良純ちさ子の会」も、午後6時からの1時間で10・0%、7時以降の3時間は8・2%だった。

この数字に「もはや『紅白』一強の時代は終わった」なんて声が、民放の制作現場には出てきており、この流れが深まれば、一気に今年は「紅白」の〝打倒番組〟が出来る可能性すら出てきた。

いずれにしても、70回目の「紅白」が〝終わりの始まり〟なのかもしれない。

なお、関西地区は第2部の平均視聴率は36・2%(前年比4・3ポイント減)だった。