※この記事は2020年01月03日にBLOGOSで公開されたものです

業績不振とは裏腹に久美子社長のプライドが目立った会見

経営不振にあえぐ大塚家具が、業務提携先の家電量販店ヤマダ電機宛に約44億円の第三者割当増資を実施。ヤマダ電機(以下ヤマダ)は持ち株比率で51%の大塚家具株式を取得し、大塚家具はヤマダの子会社となることが発表されました。

会見での大塚久美子社長の応対は、ひどいものでした。業績不振、他社資本傘下への子会社化、社長続投可否に対して、経営責任を問う声にも全く悪びれるところはなく、むしろ自身の成果として新たな路線を見出したかのような晴れ晴れとした物言いは、違和感以外の何ものでもありませんでした。

今回の件をあくまで資本業務提携と表現し、経営支援、子会社化、傘下入りといった単語が、久美子社長の口から聞かれることはなし。大塚家具の置かれた立場とは裏腹に、久美子社長の不要なプライドばかりが鼻についた会見でした。

父との和解案決裂でハイラインズからの支援も白紙状態に

大塚家具は3年半前、創業者である大塚勝久氏と長女久美子氏の経営権争いによって久美子氏が社長に座り、父が築き上げた高級家具路線から大衆化に舵を切り経営近代化をはかったものの大きく思惑が外れて、2016年3月期から3期連続で大幅な赤字を計上。

今年3月には中国資本ハイラインズからの資本供与が発表され、一度は中国資本の軍門に下るかに見えた名門家具販売企業でしたが、急転直下、大手家電量販店の多角化戦略に飲み込まれる道を余儀なくされました。

「大塚家具『買収』へのカウントダウン。久美子社長は父との復縁で企業存続を目指すべき」

そもそも3月のハイラインズとの当初第三者割当増資38億円、加えて同額の新株予約権で最大76億円と公表された資本供与による提携話はどうなったのか。メディア報道の悪い癖でそのあたりの続報が聞こえてこなかったのですが、調べてみると、当初の38億円は結果的に26億円でストップ。その後は追加支援の見通しが立たず、白紙状態になったといいます。

ハイラインズが提携発表の際に話していた戦略は、同社が懇意にしている中国の家具販売大手イージーホームを通じた中国本土での販路拡大でした。特にイージーホームは中国富裕層取引に強く、大塚家具元来の対富裕層コンサルティング営業ノウハウの取り込みが最大の狙いであったのです。

そのノウハウは創業者勝久氏と側近たちが持っており、現実に勝久氏が側近たちと立ち上げた匠大塚は、業績好調が伝えられてもいます。それゆえ、当時会見の席上で陳海波社長はさかんに勝久氏との和解を望む旨を強調しており、勝久氏の持つノウハウや人脈を求めての資本支援であることは明白でした。

ほどなく久美子社長から勝久氏への和解案が、新たな業界団体立ち上げと勝久氏にその代表の座を用意するという形で具体的に提案されましたが、勝久氏の答えはノーでした。

言ってみれば、娘に自宅を追い出された父が、今度は娘の都合で自宅そばにいてもらいたいので別宅を用意するからそこに住んでくれ、と今更娘に言われたわけです。「はい分かりました」とならないのは当然といえば当然です。

こうして、ハイラインズが最も欲しかった創業者が持つ対富裕層取り込みノウハウは得られずに終わり、結果当初予定された資本支援は完全履行されることなく尻切れトンボに終わってしまったということなのです。

久美子社長続投の背景にあるヤマダ電機の事情

頼みの中国資本に逃げられこのままでは倒産が目前に迫った大塚家具は、最後の砦である業務提携先のヤマダに支援を求めます。これまでヤマダの資本支援は、久美子社長の退任がセットという条件で折り合っていないと伝えられていたのですが、なぜかここに来て久美子社長続投でも資本支援可という方針に変更されました。

この裏には、ヤマダなりの事情が存在します。売上こそ家電量販業界トップでありながら、郊外への過剰な多店舗化が人口減少のあおりを受けて、収益は一人負け状態という現状。起死回生策としての郊外型店舗を活かした多角化戦略が、住宅関連事業への進出でした。

具体的には中堅住宅メーカー、エス・バイ・エル(現ヤマダホームズ)を買収し、高級注文住宅販売事業に参入。家電販売との相乗効果を狙った住宅関連総合提案ビジネス拠点「インテリアリフォームYAMADA」をオープンさせるなど積極的に資本投下していますが、事業そのものは赤字が続くなどなかなか思うような相乗効果は出せていません。

そもそも安売りがモットーの家電量販と高級注文住宅販売のミスマッチは常識的に疑問符を感じる部分であり、加えて買い換えを前提とする家電と一生モノの買い物である住宅との商品特性的ミスマッチもあります。相乗効果を見込むのは無理があると感じさせられるわけです。そこで、新たな提携先として今春手を結んだのが大塚家具というわけです。

久美子社長の高いプライドをヤマダ電機会長は制御できるか

問題は、会見でもしつこく質問されていた久美子社長の不可解な「続投」です。3年で企業価値を6分の1以下にまで貶めた経営者を続投させるということ自体が、常識では考えられません。

それでもヤマダが社長続投を飲んだ裏には、相手が“死に体”とは言えこちらもスネに傷持つ立場として、久美子社長のプライドに負け交換条件を飲まざるを得なかったのか。

はたまた、山田昇会長が「大塚家具の高級路線での強みを発揮させたい」と話しているように、ハイラインズ同様創業者勝久氏のノウハウ取り込みを狙って、一旦相手のプライドを立てての久美子社長温存であるのか。

今回の会見で、改めて浮き彫りになった久美子社長の空気を読めない高すぎるプライド。このプライドが父との決別を決定づけ、また決別後も業績低迷してなお自らの戦略的過ちを正すことなく突き進み、名門家具販売業を瀕死の状態に陥れてきたのではなかったでしょうか。

実の父ですら御することができなかった「家具屋姫」社長の高慢なプライドに、山田昇会長の老獪な手腕はどのように御していくのか、あるいは父同様振り回されることになるのか。

大塚家具、ヤマダ電機一蓮托生の運命は、「家具屋姫」社長のどこまでも高すぎるプライドの扱い如何にかかっているように思います。