「ジビエは地方創生に大きな可能性」菅官房長官が官邸主導でジビエ振興に取り組む理由とは - BLOGOS編集部

写真拡大

※この記事は2019年12月26日にBLOGOSで公開されたものです

近年ジビエブームが続き、大型外食チェーンレストランでもジビエを扱った商品が展開されるようになってきている。一方イノシシやシカは「有害鳥獣」として農地を荒らしたり、近年では住宅地にも出没したりするなど、各地で社会問題となっている。

シェフとしてレストランを運営する傍ら、振興協会理事長として全国の現場の声を取りまとめる藤木徳彦氏が聞き手となり、「ジビエ利用拡大に関する関係省庁連絡会議」の議長として陣頭指揮を取る菅官房長官にジビエ利活用の可能性や課題について聞いた。

ジビエの旗振り役になぜ

――官房長官は秋田県ご出身。ジビエは幼少期から身近だったのでしょうか。

ジビエというと私にとっては「クマ」ですね。秋田では昔から熊肉を食べる文化があります。私は奥羽山脈のふもとにある県南部の村出身ですが、幼少期は毎年秋頃になると年に1~2回は口にしていました。今でもうちの田舎にはクマの革が玄関に飾ってあります。

私が子どものころは今のように臭みを抜くような処理はされておらず…強烈な脂と、独特なにおいが特に印象に残っています。

――ジビエ問題については現在、官房長官がトップに立ち旗振り役となって取り組んでいらっしゃいます。その背景には何があるのでしょうか。

安倍政権は「地方創生」を大きな柱に位置付けており、農業改革はその中のひとつです。

私は農家の出身ですが、農業改革を地方創生の柱として取り組み始めるまで、鳥獣被害がいま農家の人々にとってここまで深刻な状況になっているということをあまりわかっていませんでした。

しかし、出席した農業関係の会合では、必ずといっていいほど鳥獣被害の窮状を訴える声が農家の方たちから寄せられました。「せっかく農作物を作っても鳥獣被害で一挙にやられてしまう」と。それは営農意欲が低下する要因になっていました。このまま深刻な被害を受け続けると日本における農業は大変なことになると、危機感が生まれました。

そこでさらに色々調べ始めると、有害鳥獣をジビエとして利活用するという取り組みが進んではいるけれども、活用できている割合は捕獲頭数のうち10%にも届いていないことを知りました。

――国内のレストランなどで提供されているジビエ料理には、ニュージーランドのシカやカナダのイノシシなども使われています。

近年国内でもジビエ人気は高まってきていますし、2020年には東京五輪・パラリンピックを迎え世界から多くの方が訪れます。様々な点で非常に高い可能性があると判断し、政府をあげて取り組むことにしました。

――官房長官はさらに、ジビエの普及について「スピード感を持って取り組む」といつも仰っています

ジビエの普及を進めるには捕獲や食の衛生管理など様々な分野での整備が必要ですが、官公庁が「縦割り」の状態ではなかなか進まないのが実情です。

たとえば狩猟者たちが所属する「大日本猟友会」は環境省が所管し、食肉への処理に関する衛生・安全面は厚生労働省、そして農作物などの被害対応は農水省の管轄でした。

よりスピード感のある対策を取るためにも、2017年4月、私が議長を務める「ジビエ利用拡大に関する関係省庁連絡会議」を官邸で開き、官邸主導で進めていくことにしました。

国の認証施設はまだ9箇所しかない

―― 首相官邸の主導で進めて3年弱。手応えはどのように感じていらっしゃいますか

この数年間は、特に被害が大きい地域から重点的に行なってきましたが、いくつか成功事例が出てきています。日本は一箇所で成功すると横展開が早い。今後は全国に広げていく段階です。

一方、利用拡大を進めていくにあたり、いくつかの課題が浮き彫りになってきました。ひとつは「安定的に」ジビエの提供を望む購入側の声です。

ジビエは、これまで「たまたま狩猟で捕れたので販売する」という流通が主流でしたが、拡大するにあたっては安定した供給が可能なネットワークを構築することが非常に重要だと思っています。

――11月にはハンバーガーのロッテリアなどでジビエを使ったフェアが実施されるなど大手外食からの注目も高まっていますが、全国展開するには肉の量が足りないという課題がありました。また、そうした外食大手は「食の安全」について特に敏感です。外食産業からは、去年から始まった「国産ジビエ認証」を取得した施設の肉でなければ買えないという声が多く寄せられています。しかし、その認証施設が全国でまだ9箇所しかありません。新規認証取得費用には国の助成がありますが、更新等のランニングコストがかさむことで認証取得に消極的な施設もあるようです。

その部分は改善したいと思っています。シカやイノシシは対策を取らない限り、どんどん子どもを産み増え続けていき、増加を止めないと農業への被害はさらに深刻になっていきます。必要な処理加工施設の認証を増やしていくのは当然政府としての役割ですし、思い切って進めていきたいと思います。

地方から若者が減っているワケ

――いま長野に住んでいますが、「田舎の若い人は東京に行きたいから出ていくのではなく、田舎には仕事がないから出て行かざるを得ない」との声をよく聞きます。仕事になるならぜひ地元の若者のためにもジビエ振興をしてくれとも地元の方から言われます。

地方から若者が減っているのは、求人が減っているということに加え、所得が低いということも背景にあると思います。

ジビエ振興を進めていくことは、鳥獣被害を減らすとともに、新たな職を生み出し、結果として地方の所得向上につながり市町村が活性化する大きな可能性を秘めており、まさに一石二鳥の取り組みだと思っています。

――今後、ジビエを一過性のブームで終わらせないための政府としての取り組みはありますか

現場における処理加工施設を増やし、鳥獣被害で困っている全国の市町村が有害鳥獣をジビエへと転換していけるような仕組みを引続き整えていくことや、捕獲から流通に至る一連の情報を関係者が共有する仕組みを作ること、また、全国チェーンレストランでのジビエフェアや料理教室の開催など、国民のみなさんにもっとジビエに馴染んでもらうことも重要です。

ジビエは今後日本の地方創生において極めて高い可能性を持っていますし、特にしっかりと取り組んでいきたいと思っている分野です。

最終的には現状10%程度にとどまっているジビエの利活用をほぼ100%に上げていきたいと思いますし、そのために政府としても環境整備を含め後押ししていきます。