下戸がバーに行ったらダメですか?銀座の名店「スタアバー」で聞いたノンアルで楽しむ作法 - 川島透

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※この記事は2019年12月25日にBLOGOSで公開されたものです

お酒が飲めない人間にとって、まったく無縁の世界と思われる”バー”。飲み会や夜の外食自体、飲めないというだけで負い目を感じてしまいがちだが、中でもバーなど行こうと考えたこともない人が多いのではないか。

しかし、実はバーの側では、酒を飲まない客にも胸襟を開いているという。

お酒が飲めない下戸や、お酒に強くない、他の店で飲んでしまってもう飲めない、という人でもノンアルコールでバーを楽しむための作法を、銀座の名店「スタアバー」のバーテンダーに聞いた。

下戸がバーに行ったらダメですか?

――ズバリ最初に聞かせていただきます。バーは「お酒を飲む場所」というイメージが強いですが、アルコールを飲めない、飲まない人がバーに来るとやはり「ウッ」と思ったりしますか…?

そういうお客様は実際にいるので、身構えることはありません。常連の方でも「今日はノンアルコールカクテルで」という方はいらっしゃいます。

お客様がバーに来る理由はいくつかあると思いますが、まずは単にお酒が好きだということ。バーには多くの種類のお酒が揃っていて、それを1杯ずつ飲めるという利点があります。
ただそれだけではなくて、バーの空間、雰囲気が好きという方。また、バーテンダーと話すのが好きだという方もいらっしゃいます。

――他にバーのイメージというと、「深夜に行くお店」という印象も強かったのですが、夕方くらいから開いていたりするものなんですね。

早い時間にいらっしゃるお客様は、食前酒を飲まれる方が多いです。アルコールを摂取することで胃が活発になるとされているんです。
一方で、ただ単純に次の予定のために時間調整をする方も多くいらっしゃいますね。

――時間調整!案外気軽に使われる存在だったんですね。
バーは外から店内が見えなかったり、地下にあったり、看板が目立たなかったり、と気軽には入りにくいイメージがありました。

よく「隠れ家的な店」などと表現されますが、日本のバーは” Cozy Corner(コージーコーナー)”、つまり居心地のいい自分だけの憩いの場とされることが多いようです。

そのため、バーでは日常を少し遮断することで、非日常的な空間を演出してあります。

――閉じた空間なのは、入りにくくすることが目的なのではなくて、非日常を作り出す演出なんですね。

普段と違う自分を楽しんだりとか、家に帰る前に寄ってオンオフの切り替えに使ったりとか。日常の空間だったらそういったことがしづらいですよね。
非日常の空間であることが、バーという存在の特別なところだと思っております。

memo.1 バーが"閉じた空間"なのは、居心地のいい空間の演出

「お好きな席へどうぞ」どこへ座る?

――少しだけバーの扉を押す勇気が湧きました。
ただ、慣れない身としては、一歩お店に踏み込んでも、声を出してお店の方を呼ぶべきなのか、その場で待つべきなのか。バーの雰囲気に飲まれてしまいそうです。

バーの中では、お席へのご案内からバーテンダーとのやりとりを楽しむつもりでいていただけるといいですね。

「バーテンダー」という言葉自体、バー(カウンター)のテンダー(番人)という意味。バーを管理するバーテンダーとやりとりをすることで、お客様にとって居心地よくお過ごしいただけると思います。

――身をゆだねる気でいた方がいいんですね。

お店の側で人数、性別、などによって良い状態になるように席へご案内いたします。
ご希望に沿うようにはいたしますが、お客様自身で座られてしまうと、次のお客様が来たときに間が空いていなくて座れないということになってしまうこともあります。また女性のお客様なら、見知らぬ男性のすぐ隣にご案内することはなるべく避けています。

――例えば「お好きな席にどうぞ」と言われた場合、おすすめの席はありますか。

スタアバーでは「お好きなところへどうぞ」というご案内はしませんが、バー好きな方は、テーブル席があるお店でも、カウンター席に座りたいというのはあると思います。
バックバーの棚に並ぶお酒を一望できる、そしてバーテンダーと会話ができるのが魅力です。

――バーの醍醐味、という感じがしますね。

memo.2 バーテンダーとのコミュニケーションに身をゆだねよう

――それではいよいよ注文の仕方を教えてください。ノンアルコールのドリンクはどのように頼めばいいのでしょうか。

まず大前提として、基本的にはバーはお酒を提供する場なので、スタアバーではコーヒーやコーラといったソフトドリンクの注文はお断りしています。

ノンアルコールで楽しみたい方には「ノンアルコールカクテル」ということでお願いしています。

――カクテルの知識がないので、注文の仕方が難しそうですね…。

お酒が入ったカクテルも同じですが、お好みや気分、そのときの状況を伺うとバーテンダーからおすすめを提案しやすいですね。

――今の状況や気分でいいんですか?急いで来たので、少し暑いなと思っていました。

でしたら「喉が渇いている」でも大丈夫です。
あとは、お寿司で生の魚を食べたあとだから「切り替えたいな」という気分や、「柑橘が好き」「炭酸が入っているものがいい」というお好みをおっしゃってください。

――バーテンダーさんがおすすめを考えるヒントを出すような感じですね。

あとは、大事なのが甘さの加減。
「すべてお任せで」と言われて、女性だからと甘いものを作っても「甘いものは苦手だからこんなの飲めないわ」ということになりかねません。

お出ししたものに対してはお金を頂戴しなければならないので、残されてお金を頂戴するのは忍びない。なるべく綺麗に飲んでいただきたいので、それも込みでお好みの味わい、どういう状況か、食前か食後なのかを伺っています。

――お互いのために大事なことなんですね。

実を言えば、常連の方であれば「お任せで作ってよ」と言われても作れるんです。それはなぜかというと、その方の味わいの好みを知っているから。

その点、一見さんでいらっしゃった方が「私のイメージで」と言われたら、常套手段として、お召し物や宝石の色に合わせてコーディネートしてお出しするのは容易いのですが、その方のお口に合うかどうかはまた別問題ということになってしまいます。

なので一見の方については細かく聞くようにしています。

――ではまずは、喉が渇いているのでさっぱりしたもので、甘さ控えめのものをお願いします!

かしこまりました。

memo.3 注文は、気分、状況、好みや甘さの加減を伝える

お待たせいたしました。ノンアルコールのモスコミュールでございます。

――カクテルの写真は撮っても大丈夫ですか?

スタアバーでは、撮影していただけます。最近ではSNSに上げていただくことも多いようです。
ただし、他のお客様が写りこまないように、またフラッシュはご遠慮いただいています。

そしてこれはスタアバーのお通しです。

いらっしゃったお客様には必ずこれをお出しして、チャージを1000円いただいています。

――バーにもお通しがあるんですね!

日本のバーでは多いと思います。居酒屋と同じ、日本でお酒を飲む場所での文化として、ですね。

――バーというと海外の文化という先入観がありましたが、「日本のバー」としての文化があるんですね。

海外のお客様にはそれが通じないことがあります。スタアバーでは必ず最初に「テーブルチャージとしておひとり様1000円いただいています。それでもよろしいですか」という説明をします。
それを聞いて「じゃあいいです」と帰るお客様も結構いらっしゃいますね。

――海外からの来客自体は多いんですか?

スタアバーは、オーナーが世界的に有名ですので、「日本に来たらスタアバーに行きたい」という方が多く、その方が帰国後に口コミをしてくれたりするようで、増えています。ありがたいことです。

――喉が渇いている今にぴったりのカクテルで、大変美味しくいただいていますが、これはどれくらいのペースで飲むといいのでしょうか。
あまりだらだら飲んではいけないと思いつつ、あんまり勢いよく飲むのも違うかと思い…。

よく「ショートスタイルのカクテル*だと3口で飲むもの」とはいわれます。しかしご自分のペースで飲まれるといいと思います。

※逆三角形などの小さなグラスに入ったカクテル

「ショート」と「ロング」カクテルというのは、グラスの長さの違いだと勘違いされがちですが、本来は「ショートタイムカクテル」「ロングタイムカクテル」のことで、長い、短いは時間の経過のことを言っています。

ショートというのは、氷が入らないカクテル。したがって、時間が経つと温度が上がってしまいます。そのため美味しさが損なわれる時間が短い、「短い間に飲んでいただきたい」という意味でショートタイムカクテルなのです。

反対にロングは氷が入っていて、ある程度の時間が経過しても冷たいまま、美味しく召し上がっていただける、という意味です。

――では、ショートカクテルは早めに飲むことを意識した方がいいんですね。

冷たいものは冷たいうちに、熱いものは熱いうちに。美味しいうちに、というのが基本だと思います。それはお寿司などでいわれるのも同じで、カクテルが特別というわけではないかもしれません。

memo.4 マイペースで飲む。でも美味しいものは美味しいうちに

――それでは2杯目のカクテルをお願いします。ミーハーなことを言いますが、初めてだと「シェイク」するのを見てみたいという気持ちがあります。そういうリクエストもマナー違反ではないでしょうか。

構いませんよ。実際にそういった方もいらっしゃいます。

シェイクは、年数を重ねたバーテンダーだったり、振り方だったり、性別やそれぞれの骨格だったりによって得意・不得意、個性が出る技法です。

――では、次はシェイクするもので、甘めのものをお願いします。

お待たせいたしました。

――いただきます。…おお!これは純粋にフルーツジュースということでしょうか。

はい。季節によっては、マンゴー、スイカ、ゴールデンキウイや桃を使ったものなどがございます。今はイチゴも使っていて、完熟したものは非常に赤く、綺麗に仕上がります。
常連さんですと、「〇〇は入った?」と開口一番おっしゃる方もいますね。

――やりとりがお寿司屋さんみたいですね。
バーテンダーとの間で、会話は生まれるものですか。また盛り上がりやすい話題や、バーテンダーの立場から、一見客が来たらこれを知りたい、ということはありますか。

お客様が居心地のいいようにしていただけたらと思います。お話したいという方でしたら、我々も応じられるように、色んな方面に目を向けて、日々勉強をしています。

お酒を飲まれるお客様ですと、普段飲むお酒の話をすることが多いかもしれません。そういう意味では「好み」を教えていただけるといいですね。逆にお客様も、自分の好みを知っているバーテンダーがいれば、またいらっしゃっていただきやすくなります。

あとはバーテンダーの側から「今日のご予定は?」とお聞きすることもありますし、美容室の会話みたいなものだと思っていただければいいと思います。

――バーにハマったら、おすすめのバーの巡り方はありますか?

色んなバーを巡るのも楽しいですが、ひとつのお店、いくつかのお店の常連になる人が多いかもしれません。

バー好きは、バーテンダーに付くことが多いです。あのバーテンダーが作る○○が飲みたい、と。

例えば、いくつかの店で常連になっている方は、「今日はA,B,Cの3杯のカクテルを飲もう」と思ったら、まず決めたバーの決まったバーテンダーのAを。次に別のバーに移動して、決まったバーテンダーが作るBを。また次の店でCをと飲んだりするわけです。

――それは聞くからに通ですね。お店に入って「いつもの」と注文したりするやつですか。

こちらから「いつものでよろしいですか?」とお聞きする場合もあれば、何も言わずにお出しすることもありますね。
いつも決まった注文の方、いつも違った飲み方をされる方、それぞれの飲み方がありますし、「レモンを使うところをライムにしてくれ」といった細かい注文を受けることもあります。

――わがままにも答えていただけるんですね。

私どもの方でそれを「わがまま」と思うことはありませんね。

――そうか、コミュニケーションをとりながら好みや気分を伝えればいいということでしたね。
自分の好みや、その伝え方を知るためには色んなお店で、色んなドリンクを飲んでみるのも意味がありそうです。

それが一番いいと思います。我々もそうしていただけると安心です。

memo.5 美容室の会話をイメージしてバーテンダーと話せばOK

――これだけは気を付けて、というマナーみたいなものはありますか。

他のお客様のご迷惑にならないように、ということですね。声のトーンを考えていただくことと、隣のお客様に不用意に声をかけたりしないこと。
海外では声をかけることはあるようですが、日本では、特に銀座では昔から嫌われる行為です。

――最後に改めて確認させてください。ノンアルコールのカクテルを飲みにバーに入るのはまったく問題ありませんか。

全然問題ありません。

――カクテルの知識がなくても大丈夫ですか。

そのときの気分をお伝えいただければ十分です。

――本日はありがとうございました!またお邪魔します。

STAR BAR
〒100-0006東京都千代田区有楽町1-1-2 東京ミッドタウン日比谷
TEL:03-6206-1560
営業時間: 16:00~24:00(ラストオーダー23:30)
定休日: 毎週月曜日および第一火曜日
全席禁煙