※この記事は2019年12月22日にBLOGOSで公開されたものです

味噌がこってり効いて、独特の食感とほどよいクセのある香り、そして濃厚な脂。
寒い季節の仕事帰りに、1杯ひっかけて食べたくなる”もつ煮込み”。

東京でホルモンというと、下町の居酒屋などで親しまれてきた。

独立行政法人農畜産業振興機構の「食肉販売動向調査結果」では、平成28年度下半期に内臓肉の取り扱い量の増加がトピックに挙げられるなど、一般化が進んでいるようにも見える。

果たして実際はどうなのか、ホルモン料理の受け入れられ方について「東京三大煮込み」の1つにも挙げられる江東区・森下にある大衆酒場「山利喜」の四代目・山田研一さんに話を聞いた。

戦後に広がった”もつ”を食べる文化

「戦前は”もつ”を一般的に食べる文化はなかったですから」。

大正14年創業の老舗である山利喜は、昭和20年3月10日の東京大空襲で一度店が焼失。牛の内臓を使った料理を提供するようになったのは、戦後に店を再開するときのことだったという。

「焼肉の文化史」(佐々木道雄著)によると、内臓食の文化は、戦前にもまったくなかったわけではないが、終戦という出来事が浸透する1つのターニングポイントになったようだ。

戦後、森下の街は日雇い労働者の宿泊施設で栄え、山利喜もそういった職人たちをターゲットにして営業していた。

それまで馴染みのなかった”もつ”を使った料理。客の反応がどうだったのか気になるところだが、

「とにかく肉には変わりないのでみんな喜んで食べていたそうです。食べるものも大してない時代だったようですからね」

”ホルモンが一般的になった”とはまだいえない

山利喜では、豊富な焼きとんのメニューが用意されており、様々な部位が楽しまれているのかと思ったが、山田さんは”今でもホルモンが一般的になったとは思えない”という。

実際に注文が入るのは、ハラミ、タン、レバーのような焼肉にもあるような部位くらいで、他はほとんど出ないそうだ。

そのため店ではメニューで、部位の特徴や、塩・タレのいずれが合うかなどを詳しく説明を始めた。

かつては、足しげく通う客たちは飲み屋に行き慣れていて、ホルモンについてよく知っていた。今でこそ安定して仕入れられるようになった”もつ”だが、昔は部位によっては入荷のない日も普通。「入荷がある」というだけで、こぞって常連が1人で7本も8本も食べることもあったのだという。

ごはんよりパンとワインに合う煮込みの秘密

もつは、鮮度が落ちると臭みが出やすく、もつを使った煮込み料理は、臭みを隠すために濃い味噌味にするのが一般的だ。そのため、日本酒、ビールやごはんと合う料理として親しまれてきた。

しかし山利喜の煮込みは、ガーリックトーストやワインを合わせるのが定番となっている。

その理由は、材料に八丁味噌、ザラメに加えて、赤ワインが入っていること。

1980年代になって、フランス料理の修業をしていた3代目が社長になり、臭みを消すのに洋風の手法を取り入れて進化させたのだという。

もつ煮込みにワインとパン。常連客たちは”下町”の人間なだけに、変化に対して当初「昔の方がよかった」という意見があったものの、いつの間にか「これじゃなきゃ嫌だ」と変わっていたそうだ。

「最近は、ネットで見て『煮込みの店』というイメージだけで来る人も多い」

テレビで紹介され、東京三大煮込みの1つに挙げられるようになったことで、客足は一段と増えたという。一方、焼きとんの注文はなかなか入らず、「知ってもらわないことには、頼んでもらえないので」とも語る。

「変えないでいつまでも同じことをやっていては商売が行き詰まってしまいます」

新しいことに挑戦し、新しくついた客層がホルモン料理に馴染んだとき、東京でも「ホルモンが一般的になった」といえるのかもしれない。

山利喜・本館
【住所】東京都江東区森下2-18-8
【営業時間】17:00~23:00(ラストオーダー: 22:00)
日、祝日定休

山利喜・新館
【住所】東京都江東区森下1-14-6
【営業時間】17:00~23:00(ラストオーダー: 22:00)
日、月、祝日定休