「負の遺産」と化すか!? 新国立競技場を含む東京五輪の各施設 - 渡邉裕二
※この記事は2019年12月20日にBLOGOSで公開されたものです
2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、マラソンと競歩が札幌開催になって、一気にモチベーションが下がった。しかも、そのマラソンコースについても開催8ヶ月前になって、ようやく全コースが決定する有様だ。この状況が本当に「アスリートファースト」なのかどうか疑うばかりである。
それでもメインスタジアムとなる新国立競技場など主要施設がほぼ完成したことや、開催100日前にスタートする「聖火リレー」の情報を発表したことで、何とかムードを高めたいというのがJOCなど関係者の思惑のようだ。
聖火台がない?トラブル続きの東京五輪
それにしても、東京五輪は開催決定以来、トラブルの連続だった。
エンブレム盗用騒動なんていうのは序の口。本来なら、ラグビーW杯に合わせて完成させたかったはずの新国立競技場。当初は、英国に事務所を置いていた建築家のザハ・ハディド氏の案が採用されていた。ところが、2520億円にも高騰した総工費が「高すぎる」との批判を浴び、安倍晋三総理が「白紙撤回」(15年7月)を命じたことから、新しくコンペをし直し、最終的に「木と緑のスタジアム」を基本コンセプトに、建築家の隅研吾氏と大成建設、梓設計が提案した現在のものが採用された。
ふんだんに緑を取り入れ、屋根にも沢山の木材を用いているのが大きな特徴。ところが、そのスタジアムにも重大な問題が。何とオリンピックの象徴とも言うべき「聖火台」がどこにもないのである。さらに言うなら設置する空間(場所)さえない。
そもそも、「聖火台」についてはザハ・ハディド氏の案でもなかった。要するに「想定していなかった」と言うのだ。唖然茫然である。
全国都道府県を回る「聖火リレー」で盛り上げようとしているが、その「聖火リレー」最終地点の新国立競技場が、この有様である。
聖火台については「新しいデザインの策定にあたって、東京オリパラ組織委は事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)に伝えたと主張していますが、実際にはデザインコンペの募集要項の中にも設置に関する記載がなかった」(社会部記者)と言う。
信じがたいのは建設の途中になって、ようやく「聖火台がないことに気づいた」というのだ。これは「ミス」というより「いい加減」「無責任」と言った方がいいだろう。もはや一事が万事だ。「東京五輪」では次々にトラブルが起こるのも当然のことである。ある五輪ウォッチャーが呆れ顔で言う。
「気づくのが遅いということ以上に、聖火台を設置するというのは、設計者がデザイン以前にまず思い浮かべるモノでしょう。それを募集要項に記されていなかったから組み込まなかったということ自体が五輪の仕事をしているという意識ではないと疑うしかない。『自然と調和』という考えはいいとしても、木材を使った屋根でスタンドが覆われているので、そもそも聖火台の設置は無理。東京五輪のメインスタジアムは、デザインした設計者が自分の作品作りとしか考えていなかったと言われても仕方ありません」。
さらに言う。
「国際オリンピック委員会(IOC)にしても聖火台について承認を必要としていて『すべての観客席から見え、外から見えるようにもする』などルールを定めているわけですからね。こんな初歩的なこともチェックが出来なかったわけですから、マラソンや競歩を突然に東京から札幌に移すことだって、アスリートファーストでも何でもない。ただ思いつきのようなものです。とにかく五輪開催の取り組みがいい加減なんです。こんな状況では、これからも、まだまだトラブルが出てきますよ」。
結局、聖火台に関しては「開会式のサプライズで…」と苦肉の策。しかも設計者の隅氏も「どうするのか聞かされていない」と言うのだから、もはや究極の「失態隠し」と言ったところ。
日に日に膨れ上がる五輪費用
とはいえ、新国立競技場に関しては完成までの工期が3年間で、1590億円という当初予定していた工費についても一応、上限を超えなかったことだけは評価されるべきことかもしれない。
それ以上に大きな問題となっているのは、五輪が近づくにつれ日に日に膨れ上がっていく費用である。
会計検査院が準備状況を調べたところ、18年度までに関連事業に支出した国の費用は約1兆600億円。これに組織委が公表している経費1兆3500億円、さらに東京都の関連費用を合わせたら、今回の五輪にかけられた費用は最終的に総額で3兆円を超えることが予想されている。五輪誘致で招致委がIOCに提示した総予算は7340億円とされ「コンパクト五輪を目指す」はずだったが…この責任は一体誰が取るのだろうか?
さらに、専門家の間で問題視されているのが、五輪後の施設利用と維持費だ。維持費だけをとっても「もはや青天井」と言われているのである。
完成したばかりの「新国立競技場」は、五輪終了後に民間に売却する方針らしいが、その肝心な売却先が決まらない。しかも「今後、民営化に手を挙げる事業者が出てくるのかも不透明」と言われ始めている。
「年間24億円の維持管理費がかかると言われています。大会後は陸上トラックを撤去して、集客が期待できるサッカーなどの球技専用にする案もありましたが、それも流動的です。コンサートなどイベントに使用することもありますが、それだけで維持管理費をカバーするのは不可能です。しかも、競技場に天井や空調設備もないのもマイナス要因。とにかく冬は積雪、夏から秋にかけてはゲリラ豪雨や台風、気候の温暖化などに対応出来ないことも利用度を下げる結果になります」(五輪の担当記者)
読売巨人軍がホームにするという噂も
先頃の内覧会に参加したメディア関係者からも、10度前後の気温に「場内に吹き込む風で底冷えした」「ダウンジャケットは必需品」なんて声が出る始末。イベント関係者は「コンサートやイベントでは、さすがに冬は使いづらいかもしれません。とにかく会場が広いので中止や延期などの場合を考えたらリスクが大き過ぎる。どうしても利用するとしたら春か秋の2シーズンでしょうね」。
一部には、読売巨人軍がホーム球場にするなんて情報もあるのだが、たとえ、屋根を設置したとしても費用対効果が見込めるかどうかは不透明だ。
問題は、その新国立競技場だけではない。
東京・江東区辰巳の東京アクアティクスセンターも厄介な施設の一つである。
この施設は隣接する「辰巳国際水泳場」が五輪施設としての規模が問われたことから新設されたのだが、規模が大き過ぎて維持費の問題が指摘されている。
いまさら「2つも同じ施設があるのは無駄」なんて声が上がっており、現在設置されている1万5000席は、五輪後に「さらに費用をかけて」5000席に縮小するというが、現時点で年間6億4000万円もの赤字が予想されているという。「辰巳国際水泳場の維持管理費でさえ年間5億円もかかっているのに、この先、共倒れになりかねない」(取材記者)。
そんな中で唯一、維持管理費で「黒字」が見込まれているのが江東区有明に完成したバレーボール会場の「有明アリーナ」だという。新都市交通の「ゆりかもめ」の新豊洲駅、有明テニスの森から近く「利便性もいい」と関係者も太鼓判を押すのだが…。
こけら落としに嵐も出演へ
その根拠は、コンサートの開催による収益だという。「第2の日本武道館」と考えられていて、1万人規模のコンサートが可能となる。「公演関係者から喜ばれる施設になりそう」と言われ、すでに12億4500万円の収入が見込まれている。
しかしそれも「机上の話」。現実的に日本武道館や国立代々木競技場、さらには近郊に横浜アリーナやさいたまスーパーアリーナ、幕張メッセがある中で、どこまで需要があるのか疑問だ。
「コンサート観客数が増えていることは事実ですが、現実的にフェスのようなコンサートは厳しいのが現状です。今必要とされているのはアリーナなどの大会場より単独で出来る2000~3000人クラスの、ちゃんとしたコンサートホールかもしれません。横浜などには、さらに2万人クラスのアリーナやライブ会場が出来てきます。そう考えると、有明アリーナは〝帯に短し襷(たすき)に長し〟といった感じになりかねませんね」(事情通)。
いずれにしても「東京五輪」の施設は、多くの動員が見込めるジャニーズか声優アイドル、あるいは韓流アイドルといったところの利用を頼るしかないかもしれない。すでに新国立競技場では、12月21日の〝こけら落とし〟でジャニーズのアイドル・グループ〝嵐〟も出演するイベントを行う。このイベントに「打ち上げ花火」的な要素が含まれているとしたら、何と心許無いことか。
ここで楽観視していたら、新国立競技場も含め五輪施設は〝負の遺産〟と化すことは確実。もしかしたら将来、維持出来なくなり「施設の取り壊し」なんてことも現実味を帯びてくるかもしれない。