ラグビー観戦で来日する外国人に呼びかける海外メディアのアドバイスが興味深い「日本のハイテクなトイレを怖がるな」 - 小林恭子
※この記事は2019年10月31日にBLOGOSで公開されたものです
10月13日、ラグビーワールドカップ日本大会で、スコットランドを破って初の決勝トーナメント出場を果たした日本。20日の準々決勝では南アフリカに敗れたものの、これまでの最高記録に達したことで、世界が「日本のラグビー」を見る目は大きく変わったと言えよう。11月2日の最終日を前に、日本について海外メディアはどのように報じたのかを紹介してみたい。
欧米にとって日本は「不思議な国」
英語圏のメディアによる、ラグビー観戦で日本を初めて訪れる人たちへのアドバイスの数々は、日本人が読むと非常に興味深い。
私たち日本人の多くは、アメリカやイギリス、欧州各国などの文化や市民の暮らしをテレビや映画を通じて知っている。実際に訪れたことがある人も少なくない。大部分の人は、こうした国々を訪れて、それほどの違和感を持つことはないのではないだろうか。
しかし、彼らからすると、日本は「自分たちの文化・伝統・価値観とは大きく異なる国」という印象があるようだ。筆者自身、イギリスに住みだして17年になるが、初めて会うイギリス人に「習慣や価値観が大きく異なる国」日本からやってきて、「さぞ大変だったでしょう」とよく聞かれる。知的なイギリス人も含めて、そうである。
米CNNの記事(9月12日付)も同様の視点から書かれている。
「一生忘れられない体験の旅になるかもしれない」(つまり、「あまりにも違う、あるいは地理的に遠いので、もう二度と来ないかもしれないが、忘れがたい体験になるだろう」)という前提がある。
記事の最初には、「こんなに(自国とは)違うように見える日本に来て、一体どんな歓迎を受けるのかと不思議に思っていることだろう」、と書かれている。「不思議の国、日本」というわけである。
日本に対する偏見があってこう書いているわけではなく、話には聞いたことがあっても実際にはほとんど知らない国=日本を紹介するために、読者の立場に立ってこう書きだしたわけである。
日本人は「礼儀正しく、友好的で、歓迎してくれる」国民なので、「助けが必要だったら、遠慮なく声をかけてみよう」と続く。
日本旅行のアドバイス「ハイテク仕様になっている日本のトイレを怖がるな」
ただし、いくつか気を付けるべきこともあると記事では述べられている。
まずは「ぜひやるべきこと」として、7項目挙げられている。
(1)心と目をオープンにして、非常に異なる文化を受け入れよう
(2)相違点を楽しもう。世界中どこにも日本のような国はない
(3)少し言葉を学ぼう。大概の国では「どうぞ」と「ありがとう」をその国の言葉で言うだけで好感を与えることができる
(4)礼儀正しくしよう、物事のやり方が異なることに敬意を払おう。例えば、神社でお参りする前には手を水で洗おう
(5)素晴らしいコンビニエンスストアを使おう。全国に5万店舗あり、スナック、コーヒーなど、ありとあらゆるものがある
(6)電車を使おう。素晴らしいサービスだ
(7)タクシー運転手の中で英語を使える人は少ない。ホテルあるいは行こうと思っているレストランのカードをホテルの受付からもらうか、名前・電話番号を書いてもらおう。
逆に、「やってはいけないこと」は何か。
(1)ハイテク仕様のトイレを怖がること。ウォシュレットは下半身を洗浄し、乾かしてくれる。これはすごい
(2)標識が読めるかどうかを心配すること。電車、地下鉄、主要な通りの標識は英語でも書かれている
(3)畳の部屋で靴を履くこと
(4)露店・屋台以外で、路上でものを食べること
(5)ラグビー観戦以外のことを体験しないこと
ハイテク仕様のトイレを怖がるな、という項目には、筆者も思わず笑ってしまった。日本にいると普通だが、外国ではあのようなトイレはほとんどない。
筆者自身も日本でトイレに入って、どこを押せばいいのか分からないことがあった。押してはいけないボタンを押して水が思わぬところから出てくるのではないかと心配したり、どこを押しても流せなくて困ってしまったりなど。そんな悩みは日本以外に住む人にとってはよくあることなのだ。
ラグビー観戦以外では「カラオケ」や「居酒屋」がおすすめ
日本を訪れたラグビーファンに、海外メディアが試合観戦以外で勧めるアクティビティはなんだろうか?
先のCNNの記事が推奨するのは、それほどお金がかからず、かつ万人に受けそうな選択肢だ。
例えば「神社やお寺を訪ねる」、「庭園や公園を歩く」、「温泉でリラックスする」、「ハイテク設備があるスタジオでカラオケを楽しむ」、「デパ地下の食品売り場で目と胃を楽しませる」、「レストランよりも居酒屋に行く」など。
食べ物のお勧めとしては、定食、日本酒、そば・うどん・ラーメン類、お好み焼き、たこ焼き、焼き鳥、どら焼き、お餅など。書き手が普段何を食べているかが伝わってくるような選択である。
タトゥーを入れている選手には隠すよう国際団体が指示
今回、世界中からやってくる様々な異なる文化、伝統、考え方を持つ選手やサポーターたちの間で話題になったのが、「タトゥーをどうするか」だった。
タトゥー、つまり入れ墨である。「入れ墨」と聞いて、暴力団を連想しない日本人はいないだろう。
しかし、海外ではファッションの一部として取り入れたり(例えばイギリスの元サッカー選手デービッド・ベッカム)、昔からの文化や伝統だったり(ニュージーランド、サモア、トンガ、フィジーなど)する。
しかしラグビーの国際統括組織「ワールドラグビー」は今回、開催地である日本の文化を尊重し、選手にはタトゥーを隠すことを推奨した。
▽BBCニュース【ラグビーW杯】国際ラグビー団体、選手に日本ではタトゥー隠すよう指示
ニュージーランド代表オールブラックス、アイルランド、イタリア、サモア、ナミビア、ウェールズなどのチームが試合後に一列に並んで日本式のお辞儀をしたり、イタリアやナミビア代表選手たちがほうきを持ってロッカールームを掃除したりなど、日本文化を尊重する行動も話題となった。
「移民政策は進まないが”日本人化した外国人”は受け入れる」
また、日本の文化や慣習だけではなく、日本代表に所属する外国籍選手の存在に着目し、日本の移民政策について報じる海外メディアがあった。
香港で発行されている日刊英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」だ。
同紙のニュースサイトに掲載された記事(10月2日付)では、ジュリアン・ライアル記者が、人口が減る一方の日本で、政府が外国人労働者の受け入れを推進し始めたことを紹介。
保守的主張を持つ人々は、「外国人労働者が地元の人々の職を奪う、『社会の調和』を崩す」などの理由で、外国人労働者の受け入れ拡大に否定的だったと指摘する。
しかし、ラグビーW杯では「人口減少問題が脇に置かれた」格好になる、という。
ラグビー日本代表31人のうち、15人が外国出身だ。記事の中で福井県立大学の島田洋一教授は「全員が日本のためにあれほど一生懸命戦っていることに驚いている」「感銘を受けた」と語る。
日本の保守系メディアは選手の国籍問題を取り上げたものの、「試合の前にいかに日本の国歌を心から大きな声で歌ったかに焦点を当てた」という。
教授は「選手たち全員が完璧な日本語を話すことに気付いた」が、韓国では反日感情が高まっていると言われており、韓国生まれの具智元選手が「批判のターゲットになるのではないかと懸念している」。
記事は、日本の与党・自由民主党党員でビジネスマンの「カトウ・ケン」という人物のコメントを最後に紹介している。
カトウ氏はラグビーファンというわけではなかったが、ラグビーW杯が開始されると夢中になった。「外国出身の選手は日本を代表することを選んだ。日本語を話し、日本の習慣を知っている。日本社会に貢献しているのだと思う」
「今や、日本人と言ってもいい。元々どこから来たかは関係ない」。君が代を歌う姿を見れば「分かる」。
「日本人の血を持っているから日本人とは、あまり考えない。それよりも、その人がどれほど日本の文化を受け入れ、日本社会に前向きに貢献するかだ」。
ライアル記者は、記事を通じて、「移民」としての外国人労働者の流入には懸念を持つ一方で「日本人化した外国人」を受け入れるという保守系日本人の姿を浮き彫りにしている。
日本代表の活躍ぶり、食文化、トイレ、畳の感触や日本人との触れ合いなど、日本を訪れた外国からのサポーターたちが、よい思い出を持って帰ってくれたら、筆者としてもこれほど喜ばしいことはない。