「子どもが死んだら、あるいは、大きな事故が起きたら、一週間、休校にすればいい」 学校事故・事件を語る会の大集会(下) - 渋井哲也
※この記事は2018年06月15日にBLOGOSで公開されたものです
第89回の「全国学校事故・事件を語る会」の大集会が6月2、3日の両日、兵庫県神戸市内で開かれ、学校事故・事件の当事者や遺族、研究者、弁護士、報道関係者ら120人以上が参加した。
今回のテーマは「被害者・遺族が望む現場対応(学校・教委・調査委員会=現状と課題=」。学校で事故や事件が起きた際に、どのように情報を提供してもらうか、学校等との話し合いをどうすべきか、調査委の現状などついて話し合いがされた。
ラグビー部の練習中での熱中症事故 兵庫県川西市の中学校
大会では基調講演として、「現場での対応として当事者は何を望んできたのか!!」というタイトルで、1999年7月27日に兵庫県川西市の中学校で熱中症の事故で中学一年生の息子を亡くした宮脇勝哉さんが話をした。宮脇さんの息子はラグビー部の練習中に意識不明の状態で倒れ、救急搬送された。翌日夕方に亡くなった。死因は熱中症による多臓器不全だった。
「学校とのボタンのかけ違いはたくさんありました。葬儀の二日後、教委の幹部が我が家に弔問に訪れました。持ってきた資料は、A3の紙で4枚。顧問への聞き取り内容でした。ただ、ざっと読んでおかしいと思ったんです。顧問の一方的な見方であり、体調不良ではあったが、原因は息子自身にあるわけではないのでは?と感じました」
校長の英断だけで様々な情報が遺族に入る
結局、部員の聞き取りをすることになった。また、グラウンドが空くのを待機していたサッカー部や陸上部の部員にも話を聞いた。聞き取りメモは原本のコピーも入手することができた。2週間後の8月10日、部員の証言や練習の時系列、対比などが書かれた「ご報告」が出された。9月8日は「記録」が出た。『できるだけ事実に近づく基本姿勢で臨んだ』と書かれていた。
資料を用いて、初期調査の重要性について話した宮脇さん
9月初旬には追悼集会も開かれ、一年生が作文を書いた。中には「顧問の先生は裏表があって、気に入った子には相手をするが、そうではない人にはほとんど相手にしない」とか、「指導は熱心だけれど、僕たちを殴るんだ」と書かれていた。学校事故では被害者家族や遺族に情報が隠されることがある。しかし、19年前だが、遺族に多くの情報が集まってきていた。
「校長の英断だけで、これだけのことができるんです」
様々な情報提供を受ける中で、顧問があまりにもひどいことをしていると判断し、99年年10月、業務上過失致死の疑いで刑事告訴した。翌年2月、顧問は書類送検された。12月、不起訴処分になるものの、検察審査会で不起訴不当と判断され、04年4月、略式起訴されて、有罪。罰金刑となった。
その間、「息子さんはもともと体が弱かったはず」「先生を厳罰に、という署名を集めているらしい」「バックアップしている宗教団体がある」など、多くの誹謗中傷が飛び交った。反対に、「学校を早く正常に戻して」「先生を厳罰にしないで」という署名が集まった。
「子どもの人権オンブズパーソン制度」を活用
「そんな中で思ったのが、オンブズパーソンだったんです」
川西市には子どもの人権オンブズパーソン制度がある。98年12月に条例ができ、日本で初めて、子どもの権利条約に基づいた市長附属の機関として制度化されていた。2000年2月、宮脇さんは子どもの人権オンブズパーソンに人権救済申し立てをした。7月には教育委員会に対し、事故原因究明の遅滞に関して速やかな是正を求める勧告と、再発防止に関する制度改善を含む意見表明がされた。
*この件のレポートが掲載されている年次報告「子どもオンブズ・レポート2000(PDF)」
http://www.city.kawanishi.hyogo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/001/742/report2000.pdf
「事故原因がどこにあったのか。詳細に書かれていました。学校と私たちが共有していた情報を評価した上で、公表してくれました。市教委は勧告をうけて、半年かかって事故報告書を書くことになります。先生の過失割合いが少し減るようなトーンではありましたが、ほぼ追認する内容です。それが保護者全家庭に配られました。やっと地域の中で理解されるようになったのです」
この熱中症による死亡事故があったことで、宮脇さんは「語る会」に関わるようになった。「語る会」のシンポジウムでは当事者だけでなく、弁護士やトラウマの研究者が話をしてきた。
「語る会」に参画。要望を繰り返す
「語る会」では第2回目の大集会の開催後、「迅速且つ公正に事実関係を究明するための独立した第三者機関を設置すること」「学校が、当事者や遺族等の気持ちに十分に配慮をして対応するとともに、有する全ての情報を速やかに当事者や遺族等に伝えるよう指導すること」といった要望書を提出した。2017年12月にも「被害者救済の視点に立った学校事故・事件の事後対応の充実について」として、以下の要望を出している。
1 被害者救済と当事者参加・合意重視の観点にたった事後対応を実施すること
2 当事者の「事実を知りたい」という願いに寄り添った初期(基本)調査の体制整備を行うこと
3 当事者の参加・合意形成とその前提となる事実関係等の説明を重視した調査委員会の運営をすること
4 被害者救済の観点に立った各種相談・支援を実施すること
5 事後対応に関わる指針類等の内容及びその周知のあり方の点検・見直しを行うこと。特に「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針(改訂版)」と整合性のある形で、新しい「子どもの自殺が起きた時の緊急対応の手引き」を作成すること
6 重大事故・事件防止等に関する教員養成段階及び教員養成段階及び教職員研修等の取り組みの点検、見直しに行う。
7 重大事故・事件の起きた学校及び教職員(集団)の「再生」に関する取り組みを充実させること
8 事後対応にかかわる教職員、行政職員、研究者、専門職の養成・研修を充実させること
「被害者や遺族は決して、望んで学校とのトラブルになっているわけではないのです。何があったのか、どうしてそうなったのかを知らせるのは学校や園の義務です。子どもが死んだら、あるいは、大きな事故が起きたら、一週間、休校にすればいい。その間にアンケートをとればいいんです。書かれた内容がおかしいと思ったら、面談し、書きとめておけばいい。そして関係者に公開すればいいんです。インフルエンザだって休校になります。(事故や事件は)それ以上のことです」
「調査検証をすべき人間が、何をやらなければいけないのかわかっていない」 京都精華大学の住友剛教授
学校事故事件対応について詳しい京都精華大学の住友剛教授は、当事者の発表を聞いた上でまとめの発言をした。
「語る会」が発足し、被害者、被害者家族、遺族らが要望していく中で、09年に学校保健法の改正として学校保健安全法ができたり、13年には、いじめ防止対策推進法ができた。また、11年には「子どもの自殺が起きたときの調査の指針」ができ、14年には改訂版が作られた。16年には「学校事故対応に関する指針」ができた。
*「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」の改定について
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/063_5/gaiyou/1351858.htm
*「学校事故対応に関する指針」の公表について
http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/1369565.htm
「ある程度調査・検証作業が行われるようになりました。限定はされるものの、マスメディアを通じて発信できるようにもなりました。(語る会にも)参加する弁護士、研究者、専門職も増えた。いろんな人が出入りするようになり、当事者が発信する情報に注目する人も出てきました」
状況は変わってきている。住友教授は「事態の沈静化、事実の隠蔽は以前よりはやりにくい」としながらも、報告があった広島大学附属三原中の組体操事故の例をあげて、こう指摘した。
「文科省は何をしているのか。まずは国立大学の附属学校から重大事故が起きたら指針通りに動けるようにすべきだろう。この事故は、指針リリースの3ヶ月後です。ちゃんと初期調査をし、遺族に伝える。わからないことがあれば、調査委員会を立ち上げる。なんで手順通りに動いていないのでしょうか。指針の徹底というのなら、担当官を派遣すべきです」
当事者参加の重要性ついて話をした住友教授
一方で、形式上は法令や指針に基づいて、調査をしているが、当事者や遺族にとっては納得いくものではないというものもある。住友教授は、報告のあった山口県や東京都のいじめ自殺の調査委について「中身が良くない」としながら、
「調査検証をすべき人間が、何をやらなければいけないのかわかっていません。いくら制度を作っても値打ちがない。調査検証システムを作れ、と言ってきた立場からすれば、非常に腹立たしい。やはり、当事者の調査委へ参加が大切で、直接的に働きけるノウハウを磨いていく。今ある制度を前提に、初期調査をどう動かすのか。調査委に働きかける必要があります」
社会システムと当事者間に溝 埋めていくには当事者参加が大切
さらに、「保護者・遺族は、あったことをなかったことに絶対にできません」と言いながらも、こう話す。
「役所からすれば、調査委が結論を出したとなれば。それで終わりという仕組みになっています。裁判になっても、判決が出ればそこで終わりです。でも、当事者としては『ここから始めたい』と思っています。こうした社会システムと当事者とのギャップがあります。埋めていくには当事者参加が大事になってきます。少なくとも被害者家族や遺族が意見を言えることが必要です」
これらのことを前提に、以下の3つのことは事後対応や調査委ではすべき点だとして、強調していた。
1 なくなった子どもの人権や名誉を守る、誹謗中傷に対して名誉回復
2 亡くなった子どもの遺族、子どもの保護者に対して「子育てが間違っている」「面倒をみていなかったらこうなった」という誹謗中傷に関して「違うぞ」ということ。つまり、家族・遺族への二次被害を防ぐこと
3 誹謗中傷の対抗をするには、できるだけ正確な事実を掴んで発信していくこと。これらを基礎として、再発防止、学校再建をしていく。