※この記事は2018年05月31日にBLOGOSで公開されたものです

張本勲氏に対するバッシングがネットでやまない。それらは基本的には張本氏が『サンデーモーニング』(TBS系)で発言した内容についての批判だ。その根底には「保守的な野球観・スポーツ観」を示す張本氏の考えを「老害」扱いする視聴者、そしてその発言がネットニュース化された後の読者による同様の気持ちが存在する。張本氏の主張の根幹を成すのは以下のものだ。

アメリカの野球はダメだ。レベルが低い 日本人選手がアメリカに行くことは日本のフアン(ファンのこと)を考えると由々しき事態であると考える サッカー欧州CLなども含め、遠い国の話には興味がないと考える 新しいトレーニング方法には批判的で「走り込んで足腰を鍛えよ」と主張する 女性アスリートに対する「あっぱれ」が多く、「ちゃん」づけをする Red Bull等が主催する危険なスポーツに対しては「何が楽しいのかね」と言う バドミントンや柔道、卓球等のスポーツで日本人選手が活躍すると「あっぱれ」を入れるが、なぜか錦織圭だけに対しては厳しい。「またケガしたよ」とも言う 乱暴にまとめてしまえば「保守的」といえることだろう。彼に対する批判はこれらへの対抗論説となる。まぁ、いちいちここでそれらを挙げる必要もなかろう。張本氏の発言に同意できない皆様方が思っていることこそ、ネットに書き込まれる同氏への批判だ。

ハリー、ついに大谷翔平の二刀流を認める!?

そんなハリーこと張本氏は大谷翔平の二刀流に対しても日本ハム入団以前より懐疑的だったが、ついに5月17日に発売された週刊文春で認めるような発言をした。その前段階たる5月16日の文春オンラインに抜粋版が掲載された。

記事のタイトルは『大谷翔平の“天敵”張本勲が本音をポロリ「二刀流いけるかも」』である。「そうだねえ。今のバッティングを見ていると、私はちょっと訂正せないかんかもねえ。これは二刀流でもいけるんじゃないかと」と張本氏は語っている。

あの張本氏が全面的ではないにしても、こうして大谷の二刀流を認める発言をしたことについては、『サンデーモーニング』の熱狂的ファンである小生からすれば「大あっぱれ」である。

この前段階として、張本氏に対する「まだ認めないのか!」といった批判がネットで炸裂したことを忘れてはならない。4月8日の張本氏の番組登場時、大谷は3号HRをすでに打っていた。投手としてもすでに初先発初勝利を挙げていただけに、開幕直後のインパクトは凄まじいものがあったといえよう。オープン戦ではその実力に懐疑的だった米メディアを黙らせる活躍ぶりだった。大谷に批判的だった米の記者もさすがに前言撤回し、ツイッターで大谷をホメたりもした。これには日本人も「潔い」と拍手喝采だった。

一方、張本氏は「まぐれかアメリカのピッチャーのレベルが下がっただけ」的な発言をしたのだ。これを受け、翌日放送された『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)でメジャー経験者である岡島秀樹氏は「まぐれでもなく、あれは大谷の実力。むしろアメリカのピッチャーのレベルは上がってきている」的な反論を行った。さらに、もしも『サンデーモーニング』に出演することがあったら張本氏に反論するとも宣言したのである。

こうした時期を経ての張本氏からの大谷を認める発言である。これに対しネットでは「自分には見る目がなかった。すいません。だろ」などと張本氏を叩く意見が相次いだ。まさに日本No.1の嫌われ野球評論家のごとき状況にある。

大谷を心配する張本氏なりの「親心」

しかし、張本氏の発言を長年見ていると二刀流に懐疑的なのは、「もしかしたら世界一のピッチャーになれるかもしれないのに、そのチャンスをみすみす逃すのはもったいない」という理由と「二刀流はケガをする可能性が高まる。あそこまでの逸材をそんなことで失うのは球界・世界にとって損失である」という親心が含まれているのである。それは、我々無責任なフアンが「規格外の男を見たいんだよね~」という野次馬根性から大谷の二刀流を支持しているのとは別次元の話である。

落合博満氏が『サンデーモーニング』に出演した時は「外野がとやかく言うことではない」といった発言をし絶賛され、同時に張本氏が批判された。そりゃそうだろう。自分の人生は自分で決める。コーチでも何でもない人間(張本氏)があれやこれや批判することへの嫌悪感を持たれたのだと思われる。落合氏の発言の方がそりゃあ筋が通っている。

そうした経緯がありつつも、大谷が世界最高峰のレベルでここまでの実績を残したところで張本氏もついに認める発言をした。ここは素直に「ハリー、よくぞ言った」と称賛しても良いかもしれない。人間、誰しも自説を撤回するではないか。それを頑なに認めない「謝ったら死ぬ病」がまかり通っている中、張本氏の文春への対応は立派である。

「30試合」というタイムリミット

しかも張本氏はシーズン開始後、「30試合を見て大谷が本物だったら私も認める」といった発言をしており、条件付きながら大谷を認める布石は置いていたのだ。いや、これは自らの主張を変えざるを得ないデッドラインを区切ったと言ってもいいかもしれない。シーズン開始直後の日本中の大騒ぎを見て「今は冷静に見ようよ」と言えた評論家がどれほどいただろうか。あの時は二刀流に批判的だった評論家も宗旨替えをサッとし、大谷が規格外であることを率直に認めた。だが、張本氏は「30試合」という条件をつけた。そしてそのタイムリミットが過ぎたところでついに大谷を認める発言をしたのだ。

「アメリカの野球はレベルが低い」と言い続ける張本氏だが、それはポジショントークではなかろうか。「アメリカはすごい」「日本の野球は劣っている」と言う空気が世間に蔓延し、メジャー帰りの選手・元選手がアメリカの野球のすごさを次々と称える様を見て、日本のプロ野球を背負ってきた自負を持つ70代後半の男がそれに反発する気持ちまで我々は否定していいのだろうか。

サンモニはハリーの”ツンデレ”を楽しむ番組

さて、この文春が出た後の張本氏の『サンデーモーニング』での発言を振り返ってみよう。まずは20日、「他の日本の選手かすんでるね」と同様に素直に大谷を認めた(「アメリカに行った日本人をボロクソに言うばかりだから別にこれだってホメてねぇよ!」という反論があるのも理解する)。

そして、二刀流については「今でも反対していますよ。ピッチャー一本のほうがいい。あの打ち方見れば、代打ぐらいでいいなと思う。あの投げ方見たらアメリカのバッターは打てない。一回腕を下げてボールが見えなくなる。上からドーンとまっすぐが来る。元々そういう投げ方をしていた。ちょっと打てないと思う」と同様に容認の姿勢を見せた。

そうである。張本氏は若干照れ屋でツンデレなのである。むしろそういったところを視聴者としては「ハリー、かわいいな」と同氏の意見を聞いた方がいい。いちいち「この老害!」「お前は選手に対するリスペクトがない!」「お前の時代の野球とは違う!」と頭から湯気を出すことほどバカげたことはない。

ちなみにその翌週の27日、張本氏は大谷についてこう絶賛していた。

「大谷は浮いたことをしない。手がかからない」としたうえで、「女性の問題もない?」と問題提起。そこで一体何を続けるかと思えば、「私の現役時代のようなもんだ」と自らの品行方正をアピールするお茶目さを見せたのである! その一方で「心配はケガだな」と昔ながらの主張通り、二刀流がもたらす体の負担を心配しているのである。

というわけで実績を出し続ける大谷、そして設定した試合数が過ぎた後、ついに大谷を認めた張本氏にあっぱれだ。いや、もっと言うと毎度その発言がいちいちニュースになり、人々の感情を揺さぶる稀代の「コメント力」を誇る張本氏のその話術にこそ「あっぱれ」を入れたいものである。