※この記事は2018年05月17日にBLOGOSで公開されたものです

東京都内の区立小学校に通っていた当時5年生の女児に対して、男性の担任教諭(30代)が、女児の右側のこめかみあたりを指で撫でたなどとして、女児の両親が、都迷惑防止条例違反(著しく羞恥させ、または不安を覚えさせる行為)で告訴し、受理された。今後は書類送検されるか、起訴されるかが焦点となる。

「かわいいね」と言われ、こめかみ部分を触る。一人だけ名前で呼ぶ・・・

学校現場におけるセクシャル・ハラスメントは「スクール・セクハラ」とも呼ばれる。文部科学省によると、16年度に懲戒処分を受けた教員8038人のうち、わいせつ行為等が理由なのは226人で、全体の2.8%。前年度よりも2人増えている。そのうち、東京都では26人が懲戒処分を受けている。

告訴状によると、17年4月13日、被害女児は「かわいいね」などと人前で容姿について言われたり、右側のこめかみあたりを触られた。また、他の児童が「苗字+さん」でよばれるのに対して、被害女児だけが「名前+さん」でよばれていることから嫌悪感を持った。こうした他の児童と違った扱いによって、17年9月から、被害女児は心身を壊し、不登校が続き、18年1月には転校せざるを得なかった。そのため、心療内科に通っている。新しい学校にも通えていない。

母親は言う。

「もともと子どもが少なかったんですが、転入生が多くなる中で、友達を開拓し、お泊り会や東京ディズニーランドへ一緒に出掛けたり、児童館や公園遊びもしていたんです。4年生までは、学校の生活も楽しく過ごせていました。5年生になり、担任教師の『○○さん(被害女児のこと)、可愛いですね』の頻繁な言葉かけで、周りの児童たちが自分には言ってもらえないということから、『○○ちゃんだけひいきされていいよね』と言われ、仲間外れになってしまいました。担任の不適切な言葉かけで、わが子は友達も奪われました」

「10月の終わりごろから考えていましたが、転校には悩みました。転校の理由について区教委に提出する書類には『先生のいじめ』と書いたのですが、区教委からは『消してください』と言われて、理由の欄は何も書きませんでした。転校先へは問題児として申し送りされました。娘が悪いことにしないと転校ができなかったのではないでしょうか。しかし、転校先では問題児扱いはされていません。新しい担任は『全く問題が無いし、学校へ慣れようと努力している」と高評価でした。それもあって、新しい学校の校長が娘のスクールカウンセラー(SC)を打ち切りにしてくれました。今は月一で親がSCと面談している状態です」

母親は転校先の校長と話し合い、親だけが月一回、SCの面談を受けるようになった。現在でもこうした対応は続いている。

訴えの背景には、さらなるハラスメントが

しかし、嫌悪感や不快に思う行為は、告訴状の部分だけではない。

4月10日に、「きょう、気持ち悪いことをされた」と母親に言ったことから始まる。告訴状にある日時以外にも「かわいいね」と言われた(学校の調査では、担任が認めたのは1回だけ)。こめかみ以外でも、頬をさわられたとしている(私語を慎むという意味合いで触ったことは認めている)。

母親に対しても保護者会総会の日、「○○さんのお母さん、お疲れ様です。いやー、○○さんはかわいいですね」と他の保護者にも聞こえるように言っている(母親に言ったことをはっきり記憶しているのは、このときではなく、5月の移動教室のとき。しかし、周囲に聞こえるような音量で話してはいない)。

給食の時間でも、被害女児に近づき、左手を自分の左頬に当て、「ねえ、先生が今、考えていることわかる?」と言ったという。その後、両肘を机につき、「オレンジの皮をはさんで、ニッとやって」と言ったという(これについて担任は、女児が指摘する日時ではないときに、不特定多数に言い、楽しい雰囲気づくりをしようとしたとした)。

5月には国語の時間に、「○○さん(苗字で。被害女児のこと)、背が伸びましたね。コブも伸びてますね」と、被害女児がシニヨン(髪を束ねた部分)をした髪を笑いながらつんつんとつつき、むにゅっと掴んだ(「背が伸びましたね」とは言ったことは認めるが、手のひらで身長を測る仕草をしたのを記憶している、という。つんつんと突いたり、シニヨンをつかんだ記憶はない)。

「上級生の保護者から。娘は担任の好みのタイプということで、『危ないよ、気をつけたほうがいい』と言われていました。『ひいきと冷遇の差が激しい。特定の子どもをかわいがる』という噂もありました。『中学受験するもんじゃない』ともよく言っているとの話を聞いています」(母親)

中学受験をさせない姿勢は、母親にも示された。5月の面談で、「私が○○ちゃん(被害女児のこと)の、塾でのストレスを癒してあげます」「娘さんは本当に塾通いを望んでいるんですか?」「先生は勉強ができず、公立中学へ進んだ。それでも私のように教師になれる」などと長々と話し、時間が終わってしまったという。

担任の行為を不快に感じている被害女児は「誰も信用できない。家ならいいんだけど、外の人は信用できない」と話す。「担任はキモい、という話はだんだん広まっていった。だいたいの女子は知っている」ともいう。

嫌われようとすると、ロッカーにしまっていたものが紛失。ノイローゼになり、転校へ

被害女児は「嫌われたらいいじゃないか」と考え、担任が嫌がることをした。しかし、「ひいきと冷遇の差が激しい」という通り、冷遇が始まった。

9月上旬、運動会で応援団をするために練習をしていた。その応援団グッズをロッカーにしまっていたところ、見つからなくなってしまった。応援団担当の教師には「ロッカーから消えた」と言ったのに、「お前が失くした」と言い換えられ、「毎日、探したかどうかを報告しろ」と言われてしまった。

さらに9月11日、「健康記録カード」もなくなった。女児は、2週間ほど、家でも「見つからない」「見つからない」と言いながら、探し続けた。夜3時になるまで探し、睡眠時間が3時間ということもあり、ノイローゼになった。食事ができない状態にもなり、泣きわめくようになった。

母親は「学校を休みなさい」と言ったが、被害女児はそれでも「行く。毎日報告しないと怒鳴られるんだよ。怖いんだよ」と言い、ノイローゼになりながらも登校し続けた。

「9月6日に身体測定があった。その時点で道具箱に入れて、ロッカーにしまった。毎日、ロッカーに道具箱を入れているので、健康記録カードがなくなるのはおかしい」(被害女児)

「被害にあったことのすべてを認められるのは無理かもしれない。しかし、(訴えていない)9月のこともひどい。できれば、9月のことも謝ってもらいたい」(母親)

結局、9月25日、健康記録カードが見つかった。朝10時過ぎに副校長から母親に連絡があった。説明では、健康記録カードはクリアファイルに入っており、それが社会科の資料集に挟まっていたという。「ちゃんと探せていなかったですね」とも言われた。

しかし、児童たちは毎日、ロッカーに入っている道具箱を開ける。健康記録カードは黄色でA4サイズ。資料集にはさまれていたとしたら、道具箱は閉まらない大きさになる。ならば、すぐに見つかり、紛失したとは思わないはずだ。しかも当初は副校長と担任で探したと説明していたが、のちに、学年主任を含めた三人で探していたと説明を変えた。問いただすと、副校長は「もう済んだこと。早く学校へ来るように促してください」と言うだけだった。

こうした混乱があったために、被害女児が転校をした。

「目をつけられた理由はわからない。私は塾のストレスなんかない。ストレスは担任のことです。それに、2学期になって、他の女子にも被害が出た。担任が謝っても、許せることはないかもしれない。とにかくいなくなってほしい。これだけはかわらない。出て行ってほしい」(被害女児)

学校は、迷惑防止条例でいう「公共の場所」か?禁止場所としては明示されていない

こうした担任による行為が条例違反になるためには、「学校」が「公共の場所」と解釈される必要がある。都条例第5条では、以下のように規定されている。

迷惑防止条例 第5条
何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行 為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(1)公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人 の身体に触れること。

「公共の場所」とは、不特定多数が利用する場所のこと。一般に学校は、「公共の場所」とは認定されない。しかし、被害女児が通っていた学校は、学校教育以外にも、社会教育でも利用されているため、告訴状では、「公共の場所」ではないかとしている。

2011年8月、宮崎県都城市で、小学校教諭が夏休みの補修をしていた教室内で女子児童(当時9)のスカートの中をビデオカメラで盗撮した疑いで都城区検に逮捕され、罰金20万円の略式命令が出された。この事件で「夏休みの補修をしていた教室」が「公共の場所」として認められたことになる。東京都ではこれを意識してか、迷惑防止条例の盗撮の部分には「学校」を含めている。

迷惑防止条例 5条
(2)次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体 を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用 し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)

しかし、5条(1)の「著しく羞恥させ、または不安を覚えさせる行為」を禁止する場所としては「公共の場所又は公共の乗り物」とはあるが、盗撮の禁止場所にあるような「学校」は明記されていない。この解釈は一つの争点になるだろう。