益子直美、大黒摩季も告白した不妊治療の葛藤…“母になることがすべてではない”という選択肢を
2人の50代女性有名人の不妊治療にまつわる告白が話題になっている。その苦しさや葛藤に共感する声も多くーー。女性たちを最前線で診療する不妊治療の専門家に話を聞いた。
《不妊治療中に「急ぎなさい」とか「ご主人が若いから大丈夫よ」とか「あなたもスポーツをやってたんだから大丈夫」とか、本当にたくさん声をかけていただきましたが、そのたびに心はズキズキしてました》(5月17日配信「Yahoo!ニュースVoice」、益子分引用は以下同)
こんな苦悩を明かしたのは、元バレーボール女子日本代表の益子直美(56)。
今年4月から、不妊治療の保険適用が始まった。そんななかで、このところ不妊治療の体験を告白する女性有名人が相次いでいる。
益子や、歌手の大黒摩季(52)らがそうだ。
益子は、40歳で結婚後、3年ほど不妊治療を試みたが、子どもを授からず、45歳で治療をやめている。
大黒は、子宮疾患を抱えつつ30代から不妊治療を行い、何度か妊娠したものの流産。米国で代理母出産を試みたが成功に至らず、40代後半で不妊治療を卒業した。
2人に共通するのは、不妊治療がうまくいかず、妊娠・出産を断念したこと。そしてその過程で、精神的にも追い詰められ、自分を責めていたことーー。
不妊治療が専門で、自身も不妊治療の経験がある、オーク住吉産婦人科の船曳美也子医師は、
「不妊治療がうまくいかなくて自分を追い詰めてしまうという方は、やはり多いです」
と、話す。たとえば大黒は、度重なる流産の末に感じた自責の念をこう表現している。
《自分のポンコツな子宮のせいで、せっかく妊娠しても受精卵を自ら殺してしまっているのではないか》(『週刊新潮』5月5・12日号、大黒分引用は以下同)
益子も、治療中に「またダメだった〜!」と明るく夫に報告するようにしていたというが、《主人には申し訳ない気持ちでいっぱいで、どんどん追い詰められていきましたね》と話している。
「不妊治療を受ける方は“どうして?”と原因を知りたいと思っていますから、そんなときに子宮内膜症や加齢によって『卵子の質が低下しているんです』といったことを説明されると、“自分のせいだ”と感じてしまうのだと思います。
男性に比べて、女性は妊娠の可能性が高い時期がすごく短いです。
また、不妊の原因が男性にある場合、たとえば無精子症だったら、今は人工授精はドナーのものでできるようになっています。非配偶者間人工授精ですね。それを受け入れるかどうかは別としても、選択肢があるということで、少なくとも女性ほど追い詰められないのではないかと思います。
しかし女性の場合、日本ではドナーも認められていないため、“自分の卵子がダメだったら子供ができない”と自分を責めることになります」(以下、「」は船曳医師)
■“罪悪感”と“後悔”で思い悩む女性たち
さらに、不妊治療の先の見えなさも、女性たちを追い詰める。
「不妊治療は1回やったら終わりではなくて、毎月毎月繰り返されます。“今回もまたダメだった”というふうに不成功体験が反復してストレスが増え、毎月どんどん追い詰められていくということはあると思います」
船曳医師は、不妊を思い悩む女性が自分を責めるのに多い考え方として、2つのことを挙げる。
「ひとつは“罪悪感”。愛している人の子どもを産んであげられないという気持ちや、親に孫を見せたいのに見せられないという気持ちです。
そして、もうひとつは“後悔”。結婚なり、子づくりなり、“もっと早くに何とかしておけばよかった”と後悔するんです」
また、益子の冒頭のコメントのように、周囲の言動によって傷つくこともあるほか、不妊治療を受けていることを話しづらかったり、悩みを共有できる人が見つかりづらいことも苦しみの一因だろう。
大黒は、妊娠を断念し、落ち込んでいる時期に、
《同情してくれる人がいても、あなたに私の何が分かるのかと邪悪な気持ちになり、そんな自分がイヤになって余計自己嫌悪に陥り、どんどん暗闇に落ちていく》
と感じていたというし、益子は不妊治療中であったことを、
《子どもができない子を産んでしまったと思わせたら申し訳ないと思って、私を産んだ母にも言えなかった》
と、話す。
「同じ立場の方だったら悩みを共有できると思いますが、誰が同じ悩みを持っているかもわからないですよね。それに自分が“かわいそうな立場”であると見せたくないという気持ちもあるでしょう。自尊心が傷つけられるんだと思います。
本当は“劣っている”ということではありませんから、“今こんな治療をしています”と言える環境にあればいいのですが」
その背景には、無意識の“呪縛”がありそうだーー。益子は、
《「結婚したら子どもを産んで当然」とか「子どもができないと女性失格」みたいな価値観を自分のなかに持ってしまっていたんですよね》
と話し、また大黒も次のように。
《望んでいた出産は永遠に叶わない。私はもう「女」ではなくなってしまうのだろうか。真っ暗闇の絶望》
「いまだに“産めないと女性失格”と思い込んでいる方も多いのではないでしょうか。みんなそれぞれいろいろな役割があっていいし、いろいろな幸せがあるはずなのに、“お母さんになることがいちばん幸せ”という思いを、無意識のうちに持っている方が、日本には特に多いからではないかと思います」
つらい経験を経たいま、益子はバレーボールを通じて、子どもたちと触れ合うことで前向きな日々を送れているそうだ。
大黒も、これからは歌手として《人を鼓舞し、癒し、盛り上げる》と明るく宣言している。
「体験をお話しされることはつらかったと思いますが、不妊治療に悩む方たちの救いになっているのは間違いありません。
お2人は、不妊治療の結果は出なかったかもしれませんが、改めて自分の役割、生き方を見つけていらっしゃいます。
やはり、不妊治療に臨む女性の心の負担を減らすためにも、“母親になることがすべてではない”ということ、多様な選択肢があるんだということを知らしめていくべきでしょう」