ミヤゲンが開発したコンビニコーヒー用の手提げ袋

(清永 健一:展示会営業コンサルタント、中小企業診断士 )

 レジ袋有料化とコロナ禍のダブルパンチを食らいながらも、たくましく存在感を発揮している会社が福井県敦賀市にある。宮元武利氏(51歳)が代表取締役を務めるミヤゲンだ。

 1953年に紙袋の製造加工からスタートしたミヤゲンは、その後、ポリ袋メーカーとして成長。主力のレジ袋やゴミ袋の包装資材をはじめ、ホテル向け消耗品などの各種産業資材を製造販売している。

 リーマンショック、レジ袋有料化、コロナ禍と数々の試練を乗り越えると、2021年には医療用の長袖プラスチックガウン「EASY脱着ガウン」を発表。グッドデザイン賞金賞を受賞した。

 従業員は31人、売上高は約8億5000万円と地方の中小企業の域を出ないが、年々、存在感を高めている。

 3代目の宮元武利社長が、14年間の総合商社勤務を経て、家業のミヤゲンに入社したのは2007年のこと。すると、翌年、リーマンショックの逆風がミヤゲンを襲った。

 自己資本で2001年に設立した中国江蘇省の生産拠点が軌道に乗り、海外調達比率が上昇したため、その対策として為替を長期予約していた。そこにリーマンショックによる急激な円高が襲ったのだ。

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中国の現地幹部による横領のダブルパンチ

 父親である先代が推し進めた海外展開は2000年代のミヤゲンの成長の原動力だった。それが、一転してリスクになった格好だ。この為替差損は、累計で3億円にも上った。

 入社したばかりの宮元氏は、金融機関や関係先と粘り強く交渉を重ね、なんとかこの苦境を乗り切ったが、試練はこれで終わりではなかった。

 それは、2012年のこと。中国の現地法人で、中国人幹部による横領が発覚したのだ。

 当時、現地法人トップの役職にあった宮元氏は弁護士や通訳とともに現地に乗り込み、横領した幹部には責任を取ってもらい、最終的に現地法人を売却することで解決を図った。2015年のことだ。

 試練に揉まれながら地力を付けた宮元氏は2016年に社長に就任すると、反転攻勢に出た。コンビニのカップコーヒーを持ち運べる手提げ袋の開発だ。

 この手提げ袋は、ポリエチレン製の袋の側面から中央に向けて斜め下に破線で溶着している。カップを押し込むと、カップの形状や大きさに合わせて、破線シール部分(図中、斜めになっている2本の破線)が剥がれてカップが固定される仕組みだ。

手提げ袋の図面

キャリーカップの開発につながった発想の転換

 開発のきっかけは、「コンビニコーヒー前年比3割増、19億杯」という新聞記事だ。手軽に本格的な入れたてコーヒーを飲めるということで、急激に売り上げを伸ばしてきたコンビニコーヒーだが、「持ち運びに不便」「厚紙や段ボールの持ち運び容器だとかさばる」などの不満があった。この状況が「袋屋」としてのプライドを刺激した。

 ところが、袋のまま机に置くと倒れてしまったり、試作はできたものの工程が複雑すぎて量産できなかったりと、開発は一筋縄ではいかなかった。「もう無理かもしれない」と皆があきらめかけたその時、宮元氏からあるアイデアが出た。それは、「剥がれやすい袋」というアイデアだ。

「剥がれやすい袋」という逆転の発送にたどり着いたミヤゲンの宮元武利氏

 袋メーカーにとって、袋の継ぎ目が「剥がれやすい」状態はあってはならないことだ。底が剥がれて中身が落下してしまっては袋としての役割を果たせないからだ。でも、本当にそうだろうか。もしも「剥がれやすい」を「適度に剥がれる」と捉えなおすことができたとしたらどうだろうか。

 この逆転の発想が突破口になり、剥がれた破線シール部分でカップを固定するというアイデアが生まれた。この方法なら、保管がかさばる厚紙が不要になり、袋だけで運ぶことができる。ゴミの削減にもつながる。

 こうして完成した「キャリーカップ」は、シンプルで環境にやさしい点が評価され、2016年度グッドデザイン賞で、特に優れた100件「グッドデザイン・ベスト100」に選出された。「特別賞[ものづくり]」まで受賞している。

◎2016年 グッドデザイン特別賞[ものづくり](https://www.g-mark.org/award/describe/44123)

 技術面においても、国内特許に加えて米国特許も取得。2019年には、新たなJIS規格として、「ポリエチレンフィルム製キャリー袋」が制定されるに至った。

◎「JIS Z 1718:2019 ポリエチレンフィルム製キャリー袋」(https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JIS+Z+1718%3A2019)

 さらに、タピオカドリンクブームの追い風も、同社の売り上げに貢献した。

キャリーカップの開発を可能にした社内制度

「剥がれやすい袋」という柔軟な発想から生まれた「キャリーカップ」。その開発の切り札となったのが、同社の業務改善提案制度だ。この制度は、以前から存在していたが、提案書類の書式が煩雑でほとんど活用されていなかった。

 そこで、宮元氏はテレビ番組からヒントを得て、Before(提案前)とAfter(提案後)をシンプルに記載するだけの書式に変更。提案に対する心理的な障壁を取り除いた。

 また、誰がどのような提案をしているかをオープンにし、提案内容だけでなく、提案数など多くの評価項目にインセンティブを設定し、ゲーム感覚で取り組んだ。

 こうした改善により、以前は年間数件だったものが、年間1000件以上の提案が集まるようになった。社員一人が月に3回程度、何らかの提案している計算だ。

 提案は、製造現場の従業員による道具などの置き場所変更のような小さな工夫から、駐車場を舗装することで除雪の手間を減らすといった予算取りを伴うものまでさまざまだ。

 業務改善提案制度の活性化によって、社員の参画意識が高まっていたこともあり、一人ひとりが「キャリーカップ」をはじめとする新製品開発を自分事として主体的に取り組んだのだ。

「キャリーカップ」は、企画からネーミング、販促物の作成まで、社内の衆知を結集して、すべて自社で手掛けた初めての商品として生まれた。だから、社員の愛着が強い。ミヤゲンは、「キャリーカップ」の開発を通じて、社内の団結力を高めることにも成功した。

ミヤゲンの工場

「レジ袋有料化」というさらなる試練

「キャリーカップ」の開発に成功したことで、宮元氏は社内の結束と自身に対する社内の信頼も獲得した。ところが、次なる試練が襲いかかる。2020年7月からのレジ袋の有料化だ。

 レジ袋は、ミヤゲンの当時の売り上げ構成比20%を占める主力商品。その需要が有料化によって大幅に減少することになる。しかも、2020年7月はコロナ禍でホテル向け資材の需要が激減していた。

 絶体絶命の危機を前に、ミヤゲンは初めての分野である「医療用防護ガウン」を超短期間で開発、市場に投入することで乗り切った。

 きっかけは、宮元氏が偶然目にしたテレビだった。テレビ映像には、レジ袋をハサミで切って腕や体に通し、ゴムで巻き付けて、コロナ患者の治療をする医師や看護師の姿があった。

「60年の歴史を持つ袋メーカーとして、この状況で社会の役に立てることがあるはず」

 宮元氏は強く思った。社内も宮元氏の想いに共鳴する。ここで、全社一丸で取り組んだ「キャリーカップ」開発の経験が活きた。自社技術を生かして新製品を開発し、新しい販路を開拓することへの成功体験だ。そして、わずか半年で完成させたのが、簡単に着脱できる使い切り防護ガウンだ。

簡単に着脱できる使い切り防護ガウン

 着用時に、首元や袖口が頭や手の大きさに合わせて必要な範囲だけ開く。背面に縦一本のミシン目を付けることで、簡単に破って、感染の危険性が高い前面を内側に巻き込んで脱ぐことができる。まさに、キャリーカップで培った技術である。

 そして、量産体制を整備し、1枚約50円という低価格を実現。展示会などで積極的に拡販した結果、看護協会や医療機関に採用されるようになった。21年度グッドデザイン賞では過去最高の金賞を受賞した。

◎2021年 グッドデザイン金賞(https://www.g-mark.org/award/describe/51440)

 宮元氏に同社の強みを聞くと、すかさず「社員の結束力」と答えた。社内を見渡すと社員たちは整然と仕事をしつつも楽しそうに見える。数々の試練に直面しても、包容力のある社風が社員に安心感を与え、それが皆で協力して活路を切り開く力にもつながっていることが実感できる会社だ。

筆者:清永 健一