女の告白LINEを既読スルーした男。返信せず、男が裏でしていたコト【選ばれし女 vol.7】
ハイスペ男に”選ばれる女”は、一体何が違うのか？
「俺は結婚に向いていないし、結婚しなくても十分幸せだ…」
と、思っていたバツイチ男が“ある女”と再婚した。
彼の結婚の決め手は何だったのか――。
6人の女性の中から、彼に選ばれたのは誰？
▶前回：Case3：2018年の椎名由起子（29歳）
Case3（回答編）：2018年の桜井和真（31歳）
タクシーが代官山の鎗ヶ崎交差点に差しかかかったころ。桜井和真は同乗者に突然、指摘された。
同乗者の名は椎名由起子。広告系映像制作会社のプロデューサーだ。打ち上げの帰り道、2人きりでタクシーに乗っていたタイミングでの出来事だった。
「自分の都合に合わせて、女性を振り回しているだけだと思います」
酒が入っているとはいえ、知り合ってまだ2週間だ。それでもそう言い切る彼女に、和真は呆気に取られた。
しかし否定もできない指摘だ。
「そうかもしれませんね」
離婚後、この2年で知り合った玉城玲奈や行野澪に対し、罪悪感がないと言えば嘘になる。
「俺、結局、椎名さんに嫌われてしまいましたね…」
2週間前に出会った由起子と打ち合わせや作業を重ねる中で、和真はすっかり彼女の有能さに魅了されていた。
自分の会社にヘッドハンティングしたいと思ったほどだ。
だからこそ、打ち上げの席で質問されるがままに答えた自分の恋愛事情が、由起子に嫌悪感を抱かせる結果になったことが残念だった。
彼女を先にタクシーから降ろし、1人帰り着いた自宅で、和真はやけ酒のようにワインを空ける。そして気づけば、リビングのソファで朝を迎えていた。
かなり酔っていたのだろう。
由起子たちと作った仕事用LINEグループに、和真は記憶にもないメッセージを送っていた。
『打ち上げが楽しかったですし、今後もこの4人で飲んだりしましょう』と。
深まりそうで深まらない、由起子との仲に…
2人きりのタクシーが続いた結果
それから2週間おきのペースで、和真は由起子と飲んだ。
とはいえ2人きりではない。毎回、彼女と同じ会社の男性2名が一緒だった。いずれも打ち上げの席にいたメンバーだ。
ただし、帰りのタクシーではいつも2人きりとなる。
酒の席でもタクシーの後部座席でも、和真が自らの恋愛事情をあけっぴろげに語ってきたせいか、いつからか由起子も自分のプライベートを語るようになっていた。
彼女には2年付き合った男性がいたそうだが、別れたばかりだという。
「未練はない？って、よく聞かれるんですけど…。それが全然、ないんですよ。完全燃焼したって感覚なんで」
「わかります。俺も離婚したとき、その感覚になりました」
そう言ったものの、次の瞬間、和真の脳裏には玲奈と澪のことが浮かんだ。
― でも、あの2人とは中途半端なままかもしれない…。
彼女に「自分の都合で女性を振り回しているだけ」と非難され、あらためて玲奈と澪のことを思い返す機会が増えていた。
― 男として、これじゃダメだ。
そして由起子と帰りのタクシーを相乗りするたび、玲奈や澪ともう一度、向き合わなきゃいけないという気持ちが募っていったのだ。
出会いから3ヶ月後
その日は『カンテサンス』の予約を4人で取っていたが、そのうち1人が来られないと判明し、和真は由起子を誘った。
同席した男友達2人は「和真の新しいカノジョか」と色めき立ったが、由起子が到着する前に、和真は強めに否定した。
「椎名さんは、俺に興味ないんだよ」
ついでに、ここ2年間の恋愛事情をダメ出しされたことを教えておいた。
「あくまで仕事相手だから、失礼な真似はするなよ？」
…けれどその夜、和真自身が彼女に失礼なことをしてしまったのだ。
由起子が自分の友人たちに自然と馴染んで、楽しそうに会話してくれる姿を見て、和真は心の底から嬉しくなった。
嬉しいと酒が進む。酔いも回る。
2軒目で訪れた五反田のバーに居座り、彼女を先に帰らせるタイミングを失ったまま、気づくと深夜3時を超えていた。由起子は口数も減り、さすがに不機嫌な顔をしている。
「椎名さん、すみません。そろそろ帰りましょうね」
だがさらに、そこから1時間も和真は飲み続けてしまう。由起子はすっかり無言となっていた。
「ごめんなさい。帰りましょう。本当に帰りましょう」
店から連れ出し、帰りのタクシーで和真は努めて冷静に尋ねる。
「長引かせてしまって、すみません。椎名さん、明日も仕事ですよね？」
「はい。10時からミーティングです」
「今、もう4時過ぎですよ…。ほとんど寝れないですね…。本当にすみません」
和真は何度も謝った。
「10時からミーティングで、何時に起きれば間に合うんですか？」
「9時に起きれば、なんとか…」
「わかりました。そしたら俺、電話で椎名さんのこと起こしますから！絶対に起こします！約束します！」
酔いが回っている自覚はあった。しかし、この夜は「いつもと違う」と感じていたのだ。
― いつもは酔って寝落ちしてしまうが、今日は元気だし大丈夫だ。仮眠を取れば絶対に起床できる。だから椎名さんを電話で起こせる。これで椎名さんの機嫌が少しでも直ってくれればいい。
心で強く思った。強く思ったまま、和真は寝落ちした。
大失態を犯した和真。…由起子の反応は？
衝撃のLINE
意識を取り戻したのは昼の12時を回ったあとだ。時計を確認した途端、和真はゾッとした。
嘘だと思ってもう一度、時計を見る。12時10分。間違いなく12時10分。時計を見ている間に12時11分になる。由起子に電話すると約束した時間から、3時間以上も過ぎていた。
― 終わった…。椎名さんに今度こそ完全に嫌われた。
二日酔いでもおかしくない和真の脳は、完全にクリアな状態だった。
『すいません。寝落ちしたまま、電話できませんでした』
和真は、その一文から始まる長い謝罪文を、由起子にLINEした。
『大丈夫です。気にしてません』
彼女はほどなくして返事をくれた。しかしその内容は、想定外のものだったのだ。
『むしろ、こちらこそ気を使わせてしまったみたいで、ごめんなさい。和真さんは、友達と楽しそうに飲んでいたのに…。最後のほうは、私は眠くて不機嫌そうにしてましたよね』
和真は反射的に、返事をする。
『そんなことないです！悪いのは俺だけです！』
そのLINEを送ったあと、衝撃でしばらく和真はその場から動けなかった。
― 俺が悪いのに、椎名さんが謝ってくるなんて…。
想定外の決断
長男だった和真は、幼少期から「男の子なんだから」と言われて育ってきた。6つ下の妹が生まれてからは、それに拍車がかかった。
両親の、特に父の影響もあって「男は強い。だから、か弱き女を守らなきゃいけない」と考えてきたのである。
のちに離婚することにはなるが、28歳のときに結婚を決めた理由の1つは「妻を生涯守れるほど稼げる」という“自信”だった。女もそういう“男の自信”に惚れるのだと思っていたのだ。
男にとって、自信がすべてだ。
だが今回、和真は自信満々に約束しておきながら、見事にミスをした。情けない。恥ずかしさで死にたくなる。
実際、前妻に同じような失敗をして怒られたことがあった。
「酔っ払って、できない約束するなんて最低だね」
吐き捨てるように告げられた前妻の言葉が、今でも忘れられない。
でも由起子は違った。怒るどころか謝ってきたのだ。
― まあ仕事相手だから、怒ることなんてできないよな。このLINEはただの社交辞令だろう。
しかし数分後、彼女から送られてきたメッセージに、さらなる衝撃が走ることになる。
『突然でドン引きするかもしれませんが、私は桜井さんのことが好きです。結婚を前提に付き合いたいです。2人きりで会ってくれませんか？』
頭の中がクエスチョンマークで溢れた。
― なんで？どうして？いつから？
疑問をすべて由起子にぶつけたかった。けれど、できない。
「どうして俺のことが好きなの？」
「いつから俺のことが好きなの？」
そんな野暮な言葉を投げかけるわけにはいかない。
返事に困ったまま時間だけが過ぎていく。そして時が経てば経つほど、返信の難易度は上がっていった。
目を背けるようにパソコンに向かい、仕事をしてみたが集中できない。
夕方になって和真はやっと1つの答えを出し、2通のLINEメッセージを送った。
それは由起子に対する返信ではなく、玲奈と澪に宛てた『久しぶりに会いませんか？』という内容のものだった。
…由起子と向き合う前に、その2人と向き合わなければならないと思ったのだ。
▶前回：いつも複数で飲む男女。帰りのタクシーで２人きりになり、約束したコトとは
▶1話目はこちら：結婚願望のないハイスペ男が“結婚”を決意。絶対手に入れたかった女とは
▶Next：4月10日 日曜更新予定
“過去の女”にLINEしてみた結果…
