結婚1年目“夜を拒む理由”を夫に問い詰めたら。男の返事に思わず妻が…
ハイスペックといわれる男性は、小さなころから母親に大切に育てられていることが多い。
それゆえ、結婚してから、子離れできていない母親、マザコン夫の本性が露呈することもある。
あなたは、この義母・サチ子に耐えられますか―？
◆これまでのあらすじ
完全なレス状態が続いているにもかかわらず、サチ子からの孫の催促には「任せて」と返答した将暉。春乃は、将暉と話し合いたいと考えて…。
Vol.11 夫の気持ち
11月下旬の土曜日。
私は、将暉と伊豆のオーベルジュ『arcana izu』を訪れていた。
サチ子の誕生祝いの席で、彼女から孫を催促されたとき、将暉は「任せて」と答えていたが、その後も相変わらずレス状態は続いたまま。
夫の本心を聞き出して2人でゆっくり話し合いたいと思い、私から誘ったのだ。
昼間はゴルフのラウンドを楽しみ、夕食を終えたところで、部屋付の露天風呂に入ってきたら？と将暉に促される。
言われるがままに1人でお風呂に入ったあと、部屋に戻ると、ソファに寝転んでスマホでビデオ通話をする将暉の姿が目に入ってきた。
「夕飯、めちゃくちゃ美味しくて感動したよ。今度母さんも一緒に来ようね」
― またサチ子ね、まったくいつもこの調子なんだから。
結婚当初は、あまりにも頻回にサチ子と連絡をとる将暉に驚いたが、今となっては、日常の光景だ。
「あっ、春乃が風呂から上がってきたから、そろそろ切るよ。えっ、春乃にかわるの？ちょっと待ってね」
突如将暉から、スマホの画面を向けられる。
すると、ピンクのネグリジェ姿のサチ子が、意味深な笑みを浮かべて言い放ってきた。
「春乃さん、今晩は勝負ね。期待してるわよ」
― わざわざ口に出さなくてもいいじゃない…。
気まずさを感じながらも、笑顔を作って「はい」と答える。
「それじゃあ、あとは若い人だけでごゆっくり〜」
まるで一昔前のお見合いのようなセリフを言い残して、サチ子は、一方的にビデオ通話を終了させた。
将暉にレスの理由を追及した春乃。将暉の言い分は…
「まだ23時前だけど、今朝早かったしもう寝るよ」
将暉が寝室に向かったので、すぐに後を追う。ベッドは2つあるが、彼と同じベッドに潜り込んだ。
部屋の明かりを消すと、将暉は、いつも通り私に背を向けた。
「……」
暗闇と静寂に包まれた部屋…。旅行に来ればもしかしてという淡い期待も虚しく、何かが起こる気配はない。
既に半年以上ベッドでは背を向けられ続けていて、抱きしめられることも、手を繋ぐこともない。
私がどういう気持ちでいるか、彼は理解しているのだろうか。寂しさが込み上げてきて、泣きたくなる。
でも、今日は彼と冷静に話し合いをする覚悟を決めてやってきた。勇気をふりしぼって彼に話しかける。
「ねえ、将暉？」
「……」
彼は起きているのに、何も返事をしてくれない。いきなり気持ちがそがれるが、なんとか言葉を続ける。
「負担になりたくないって思って言えなかったんだけど、私、寂しいよ…」
そう言って、私は将暉の背中に抱きついた。彼は私の手を振り払うことはなかったが、抱きしめ返してくれることもなかった。
「……」
長い沈黙の後、ようやく彼が私のほうを向いた、そして、静かな口調で語り始めた。
「結婚したらさ、春乃のことを家族にしか見れなくなっちゃって。春乃を抱くことに違和感があるんだ」
違和感、という抽象的な言葉の意味がよくわからなかった。でも、将暉の言い分は、ネットで調べたマザコンレスタイプに一致しているような気がする。
「違和感ってなに？お義母さまに子どもを催促されたときに『任せて』って言ってたけど、子どもは欲しくないの？」
責めたくなる気持ちをグッとこらえて、努めて冷静に尋ねる。
「母さんを落胆させたくなくて、喜びそうな言葉を選んだだけ。もちろん、母さんの期待に応えたいから、将来的には子どもは欲しいけど、今すぐにってわけじゃない」
子どもが欲しい理由が“母親のため”であることに、ショックを受ける。
だけど、私に対して愛情がなければ、子どもが欲しいとは言わないはず。
一呼吸置いてから、私は、かねてから思っていたことを提案する。
「色々調べてみたんだけどね、もし将来的に子どもが欲しいなら、一度2人でカウンセリングを受けてみない？」
「えっ、カウンセリング？」
「専門のカウンセラーがいて、効果があるみたいなの。すぐにとは言わないから、少し考えてみてくれない？」
これまで自分で解決しようと色々考えて行動してきたが、まったく効果がなかった。
調べた結果、心理的要因がレスに結びついている場合には、カウンセリングが有効であるということに行き着いたのだ。
良好な夫婦関係を築いていくために、きちんとこの問題には向き合ってほしい。祈るような気持ちで、返答を待つ。
しかし彼の言葉は、私を消沈させるものだった。
「他人にプライベートなことを話すなんて絶対に嫌だよ。“しなくても”子どもを作る手段はあるんだから、時期がきたら考えよう。それじゃあ不満？」
「……」
言葉を返せないでいると、将暉が続けた。
「春乃には悪いけど、こういう話は苦痛なんだ。今後は勘弁してほしい。それと、母さんに何か言われても調子を合わせておいて。悲しませたくないから」
将暉は、一刻も早くこの話を終わらせたい様子で不機嫌そうに言う。
そして、私の返答を待たずに、もう1つのベッドへと移っていってしまった。
レスに向き合う気がない将暉。春乃が取る次の行動はまさかの…！？
広々としたベッドの中で、私は、天井を見つめながら、ぐるぐると考えていた。
私は、将暉のことが好きだから抱き合いたいって思う。でも、彼にとってそれが苦痛なら、受け入れるしかないのかな。でも、やっぱり寂しい…。
将暉の思いと自分の感情に折り合いがつけられず、眠りにつくことができなかった。
◆
3週間後、12月中旬の金曜の18時。
大学時代からの親友・由梨恵と、クリスマスイルミネーションが綺麗な丸の内仲通りを歩いていた。
「そのペンダントとお揃いのパールのピアス、また将暉さんからのプレゼント？ほんと気前いいよね、春乃は愛されてるよ」
由梨恵が指差したピアスは、伊豆旅行から帰った翌週に、将暉から突然プレゼントされたものだ。
謝罪のつもりなのか、もうレスについては追求しないでほしいという強いメッセージなのか、彼の真意はわからない。
ただ、レスの問題から目を逸らし続ける彼を見ていると、私に対して愛情がないのでは？と疑う気持ちが、日増しに大きくなっている。
「春乃、どうしたの？私、何か変なこと言った？」
思わず黙り込んでいると、由梨恵が心配そうな表情で問いかけてきた。
「そんなことない。実はね、ずっと言えなかったんだけどさ」
「将暉さんとなんかあったの？」
「ううん。何かあったんじゃない、何もないの。もう半年以上、夜を拒否されてるし、手さえ繋いでいない。だからね、高価なプレゼントをもらっても、愛されてる自信なんて全然ない…」
「…そうだったの。1人でずっと頑張ってたんだね。春乃ごめん、無神経なこと言って」
由梨恵が優しく受け止めてくれたことに安堵する私。これまでの将暉との経緯を一通り説明する。
「レスも寂しいけど、それ以上に将暉が向き合おうとしてくれないから、私に対して気持ちが無いのかなって思っちゃって。もうどうすればいいかわからないの」
少し考えたあと、由梨恵は、思いもよらぬ言葉を口にした。
「この際、サチ子に相談してみるのは？将暉さん、サチ子の言うことには耳を傾けるんじゃないかな？」
「うーん…。親にレスだなんて告げたら、将暉のプライドを傷つけちゃいそうだし、サチ子には言わないようにって、将暉から釘刺されてるんだよね」
そもそも強すぎる母性愛がマザコンの要因で、レスの要因がマザコンである可能性が高いのだ。サチ子にこの問題を相談することに不安を感じる。
「でも、他に方法ある？こういうことって時間が経つほど解決が難しくなるから、早めに対処したほうがいいって何かで見たことあるよ」
確かに由梨恵の言うことも一理ある。
もう手は尽くして、他に方法は思い浮かばない。だからといってこのまま放置していると、夫婦関係は悪化していく一方だろう。
「そうだね、サチ子に相談してみる。どんな反応されるか未知数すぎて、ちょっと怖いけど」
シャンパンゴールドに輝くイルミネーションを見ながら、私は、サチ子への切り出し方を考え始めていた。
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次週、まあくんのことなら、サチ子にお任せ…！？
