初デートは意外な“あの場所”！？お礼LINEで彼がそっけなかったワケ【好きって言わせたい！vol.8】
同じ会社、同じ部署。そこで働く、27歳・同い年の美女ふたり。
世渡り上手のあざとい女子と、真面目過ぎて融通が利かない女子。
彼女たちは見た目から性格、そして行動まで、何もかもが“正反対”なのだ。
そんなふたりが恋に落ちたのは、同じ会社のイケメン次期社長！？
美女ふたりからアプローチを受ける御曹司は、一体どちらの女性を選ぶのか。
◆これまでのあらすじ
大手製菓会社の御曹司・英琉は、バレンタインのお返しに同じ広報部で働く紗良をアフタヌーンティーに誘う。だが、このことを紗良が同僚に話したせいで、部内では2人のうわさが広まってしまう。
▶前回：「アフタヌーンティーに来たのに写真はダメ！？」御曹司とのデートでスマホを封じられた女の行動とは
Vol.8 そのギャップ…ズルい
〜七瀬が見た、休日の英琉〜
「長谷川さんがご迷惑じゃなかったら、今度…猫カフェに付き合ってください！」
目尻が下がったままの英琉は、私のスマホ画面の中で動きまわる愛猫・ポンちゃんにくぎ付けだ。
だが、次の瞬間。急にそわそわし始めたと思ったら、慌ててこう付け加えた。
「あ、ポンちゃんがまたティッシュを狙ってますよ！長谷川さんっ！」
私がスマホをのぞき込むと、自宅にある見守りカメラは、またしてもポンちゃんのいたずらを捉えようとしていた。彼は、それを見て「ダメだよ」や「こっちにおいで」など、必死に話しかけている。
― いや、一ノ瀬さん…かわいいんだけど！
私は、ポンちゃんと英琉のかわいいが渋滞している様子を直視できず、思わず両手で顔を覆ったまま答えた。
「一ノ瀬さん、私、猫カフェって行ったことないんです。でも、行ってみたいな…」
「それなら大丈夫です！僕、行きつけのお店があるんで。早速ですが、来週の土曜日は空いていますか？」
まるで、オシャレなバーにでも誘うかのような口ぶりに、頬が緩む。
本当は、紗良とアフタヌーンティーに行ってきたばかりの英琉の誘いには、心がざわついていた。だが、普段は誰に対してもフラットで、つかみどころのない彼の素の表情を垣間見て、私からイエス以外の答えは消え去っていた。
「土曜日、大丈夫です」
しかし、私がこう返事をすると、英琉は“ある条件”を出してきたのだった。
英琉が七瀬に出した“ある条件”とは…？
「ドレスコードは、スウェットパンツです！」
英琉は、いたずらっぽく笑いながら、当日の服装を指定してきたのだ。
「スウェットって、どうしてですか？」
男性からの休日の誘いなんて久しぶりだった私は、何を着ていこうかとクローゼットの中を思い浮かべていたところで驚いた。
「まあ、行けばわかりますよ！じゃあ、これ」
それだけ言うと、彼はまわりの社員たちからは見えないように、デスクの下でLINEのQRコードを表示した。私は、慌ててそれを読み込んだのだけれど、ここまでの展開の速さについていけず、目の前がチカチカしていた。
― あ、私、スウェットパンツなんて持ってない…。
その日の終業後。
ソワソワする気持ちで黒のスウェットパンツを買って帰宅すると、英琉からLINEが送られてきた。
『土曜日、11時に吉祥寺駅で待ち合わせましょう』
◆
英琉との約束の日までは1週間あったが、私が楽しみにしすぎていたせいか、あっという間に当日を迎えた。
先に待ち合わせ場所に着くと、彼は時間ちょうどに現れた。
黒の細身のスウェットパンツに白のスニーカー。それにデニムシャツを合わせた英琉は、カジュアルなのだけれど、やはりどこか品性を感じさせる。
一方で私はというと、慣れないスウェットに何を合わせたらいいのかと迷った揚げ句、無難なグレーのVネックニットを選んでいた。
― あ、一ノ瀬さんも黒のスウェット…。これじゃ、ペアルックみたい…。どうしよう、気まずい！
「こんにちは。ごめんなさい、黒…。かぶっちゃいました」
「こんにちは！あ、長谷川さんも黒のスウェットですか。一緒ですね！僕、休日はいつもこんな感じなんですよ」
1人で勝手に慌てている私とは反対に、彼はちっとも気にする素振りはなく、駅から歩いて5分の猫カフェへと向かい始めた。
「到着しました！ここが僕の行きつけです」
「すごい！ここって…」
英琉に連れられてきたのは、とあるビルの中の猫カフェだった。
外観からはまったく想像がつかなかったけれど、一歩足を踏み入れると大きなツリーハウスがあり、童話の世界のような空間が広がっている。
「えー！すごい、すごいっ！あ、猫ちゃんがたくさんいる」
「そうなんですよ、ちょっとおとぎの国みたいでしょ？異空間っていうか。あ、この子、ポンちゃんに似てますね」
英琉に言われて足元を見ると、賢そうな顔をしたベンガル猫が近づいてきていた。
ほかにも、アンティークなデザインの鳥かごのなかでくつろぐ猫や、壁に取りつけられた足場の上を悠々と歩く猫がいる。
気がつくと、私は30分も英琉のことを放置して、すっかり猫に夢中になってしまっていた。
「一ノ瀬さん…？」
ふと、英琉に話しかけられたような気がして視線を向けると、彼は彼で猫に取り囲まれて嬉しそうにしている。
床にひざをついて、スマホで写真を撮っている英琉の足元には、どういうわけか次から次へと猫たちが集まってきては、体をすり寄せていく。
「スウェットの理由は、これですか。一ノ瀬さん、猫に好かれすぎですよ」
「正解！だって、絶対にこうなるでしょ？あー、猫って本当にかわいいですよね」
私は心の中で密かに、彼にあんなふうに近づいていける猫を羨ましいと思っていた。
それから2時間。
緊張してうまく話せなかったらどうしよう、という私の不安は、猫たちのおかげで杞憂に終わった。
英琉も、傍らにすり寄ってくる猫をなでてのんびりしている。職場では見ることのできない、リラックスした休日の姿だ。
「あ、長谷川さん！これ、どうぞ」
帰り際、彼から寝そべった招き猫の形をしたもなかの詰め合わせを渡された。
私は家に着くなり、今日のお礼のLINEを英琉に送った。それとともにプレゼントされたかわいい和菓子、ポンちゃんの写真を送ると、彼からは『どういたしまして』と返事が届く。
そこですかさず、今度は私がお礼をと誘ったのだが、バレンタインのお返しだからとサラリとかわされてしまった。
それを最後に、私たちが個人的なやり取りをすることはなくなった。
― もしかして、一ノ瀬さん。私と過ごす時間があんまり楽しくなかったのかな…？
七瀬と過ごした休日に、英琉が思ったこととは？
〜楽しかったけれど、大切なのは…英琉の決め事〜
昔、実家では猫を飼っていた。
耳や顔まわり、手足にブルーグレーのポイントが入った、甘えん坊の白いラグドール。
母が「ルナ」と名づけたその猫が老衰で他界したのは、僕が高校3年のとき。
幼稚園のころから一緒に暮らしてきたルナがいなくなると、1ヶ月近くふさぎ込んだ。悲しみのあまり、家族の誰もがまた猫を飼おうとは言わなくなった。
だから、大の猫好きの僕は、ルナの面影を追って1人で猫カフェに通うようになったのだ。
そういえば、大学時代。デート場所に3回連続で猫カフェを選んだら、振られたことがあった。
― 長谷川さんは、どうだろう…？
そんな不安もあったが、彼女が猫を飼っていると知ると、勢いで誘ってしまっていた。
もちろん、バレンタインのお礼のつもりだが、父の会社で働き始めてから半年以上。長い間、足が遠のいていた猫カフェに行くことができるのは、とても楽しみだった。
約束の日。
猫カフェに到着すると、僕は生まれて初めて…女性に放置された。
というのも、以前猫カフェでデートをしたことがある女性は、最初のうちは猫をかわいがるのだけれど、しばらくすると「次はどこに行く？」などと話し始めるのだ。
猫が好きだと言っていた割に、ずいぶんとあっさりしている。
一方で七瀬は、自分が飼っているキジトラ猫のポンちゃんとよく似た猫にすっかり夢中になり、優しいまなざしで眺めたり、額をなでたりしている。
肩にかけたバッグの中から、飛び出して落ちそうになっているスマホもそっちのけで、僕が声をかけたことにも気づかなかった。
きっと、彼女は本当に猫が好きなのだろう。おかげで僕も、猫たちとの癒しの時間を存分に満喫できた。
― 長谷川さんの黒いスウェット、猫の毛だらけだ！って、僕もか。
七瀬との時間はとても穏やかで、微笑ましく、リラックスしたいい休日を送ることができたのだった。
その日の帰宅後。
丁寧なお礼のLINEと僕がプレゼントした猫の形のもなか、それとポンちゃんの写真が送られてきたのも、彼女らしいなと思った。
しかし、僕が『どういたしまして』と返事をしたあと、彼女はお礼をしたいと言ってきた。仕事以外では、あまり積極的なことをしない七瀬にしては珍しい。
僕も、彼女に対して好意的な気持ちを抱いてはいるが、これ以上個人的なやり取りをするべきではないと思い、さりげなくかわした。
― やっぱり、僕の立場上…特定の社員とだけ仲良くするわけにはいかないんだ。
あくまでも、今回の紗良と七瀬との時間は、“バレンタインのお礼”だ。
そう思っていた矢先。
僕と彼女たちは、広報部の部長に呼び出されてしまったのだった。
▶前回：「アフタヌーンティーに来たのに写真はダメ！？」御曹司とのデートでスマホを封じられた女の行動とは
▶1話目はこちら：容姿と性格が真逆の美女ふたり。そこに御曹司が配属されて…？
▶NEXT：3月31日 木曜更新予定
部長から呼び出されてしまった英琉と美女ふたり…その理由とは？
