「もしかしてマザコン…？」義母の誕生日に驚愕した夫の言動【夫と私とサチ子 vol.10】
ハイスペックといわれる男性は、小さなころから母親に大切に育てられていることが多い。
それゆえ、結婚してから、子離れできていない母親、マザコン夫の本性が露呈することもある。
あなたは、この義母・サチ子に耐えられますか―？
◆これまでのあらすじ
将暉とレス状態の中、サチ子から孫を催促され続けている春乃。学歴と仕事を馬鹿にされたことを言い返して、サチ子を泣かせてしまって…。
Vol.10 お義母さまの誕生日
9月下旬の日曜日の14時。
私は、緊張した面持ちで、国立にある夫の実家の前に立っている。
サチ子に“あなたの仕事に価値がないから、辞めて子どもを早く作りなさい”と言われて、つい言い返してケンカしてしまった。
一晩たって冷静に振り返ると、彼女の言葉は孫を強く期待する気持ちから出たのだろうし、それを真に受けてしまった自分も悪いと思った。
だから、こうして謝りにきたのだ。
今朝、将暉に「お義母さまに、直接謝りに行きたい」と告げると、彼はホッとした様子で自分も付き添うと言ってくれた。
でも、私とサチ子の揉め事に、当事者ではない将暉が介入することで、話がこじれることは避けたかったので、1人で行くことにした。
訪問前にサチ子にLINEしたが、既読になったものの未だ返信はない。
― まだ、怒ってるかな…。
もしかしたら、また傷つくような言葉を浴びせられるかもしれない。
でも、相手はあのサチ子。反論しても今回のように面倒なことになるだけだ。どんなことを言われても聞き流そう、と自分に言い聞かせる。
深呼吸をしてから、大きな門のインターホンを押した。
思いがけないサチ子の反応に驚く春乃・・・
「春乃さ〜ん、待ってたわよ。さあ、上がってちょうだい」
サチ子が予想に反して明るく出迎えてくれたので、拍子抜けする。
ダイニングに通されて、うながされるままに席に着いた。
「…お義母さま、昨日は失礼なことを言ってしまって、申し訳ありませんでした」
グラスに注いだ麦茶を運んできたサチ子に、神妙な面持ちで深々と頭を下げる。
「気にしてないわ。昨日の夜ね、ふと思ったのよ。子どもが思うようにできなくて、2人の子宝に恵まれている私が羨ましくて、あたっちゃったんでしょ〜？」
「えっ？」
想定の斜め上をいく言葉を掛けられたので、思わず言葉を失う。
「でもね、春乃さんもきっと大丈夫。私が妊活に全面協力するから、一緒に頑張りましょうよ、ね？」
サチ子は笑顔を浮かべ、励ますような口調で、語りかけてきた。
どうやら彼女の中では、妊活がうまくいかず苛立った嫁が、八つ当たりしてきたというストーリーが、仕立てられているようだ。
もしここで「将暉さんとは、最近ずっとレスです」なんて伝えたら、どうなるんだろう、とふと思う。
厄介なことになるだけなのは、目に見えているので、もちろん言わないが、真実を知ってほしいという衝動にかられる瞬間がある。
真実は心の中にとどめ、私は無理やり笑顔を作った。
「心強いです。ありがとうございます」
「大船に乗ったつもりでいてちょうだい」
サチ子から手を差し伸べられて、なぜか固い握手を交わす。
「ところで、来月のお義母さまのお誕生日なんですが、何が食べたいですか？？」
子どもの話をこれ以上したくないので、全力で話題を切り替える。
「そうねえ、何でも好きだけど、行ったことがないレストランに行ってみたいわ〜」
彼女が話に乗ってきたことに、安堵する。
その後は、これまでのサチ子の誕生日の話をペラペラしゃべりはじめたので、それを聞いていた。
彼女がひとしきり話終えたところで「夕飯の支度がありますので」と声をかけて、私は帰宅した。
◆
1ヶ月後、10月下旬の土曜日。
サチ子の誕生日を祝うため、竹芝の鉄板焼レストラン『鉄板焼 匠』を訪れていた。
「まあくん、春乃さん。お待たせ〜」
義父と一緒にやって来たサチ子が、紫色の着物姿に華やかなアップヘアという出で立ちで、度肝を抜かれる。
「母さん、綺麗だよ」
「まあくんありがとう。このお着物ね、誕生日のプレゼントでパパに買ってもらったのよ〜」
サチ子は、自慢げに言う。
「お誕生日おめでとうございます」
4人で席に着いて、スパークリングワインで乾杯すると、早速カウンターのシェフが前菜を作り始めた。
「うわ〜、すご〜い！ねえ、まあくん？」
「そうだね、母さん」
焼きトマトが、炎が上がる演出で仕上げられる様子に、大はしゃぎのサチ子。彼女の隣に座る将暉も、一緒に写真を撮ってキャッキャと楽しんでいる。
― 母親と仲良しって、いいことなんだけど…。やっぱりちょっと度が過ぎている気がする。
2人の楽しそうな様子を見た私は、複雑な気分になる。
彼とのレスに悩み始めた当初から色々と調べていたら、マザコン男性は、レス傾向があるという記事をネットで見たからだ。女性を母親と認識してしまい、性の対象にみれなくなるらしい。
それ以来、将暉とサチ子の関係が気になるようになったのだ。ただ、マザコンと母親思いとの違いがよくわかっていない。
嵐を呼ぶ女・サチ子の誕生日会。やはり、一波乱あり…！？
締めのガーリックライスを堪能したあと、デザートをいただくために、『ニューヨークラウンジ』に移動した。
スタッフが、頼んでおいた誕生日ケーキを運んでくる。
「え〜！わざわざケーキまで用意してくれたの？夢みた〜い！」
サチ子が、子どものように目を輝かせて、ロウソクの火を吹き消す。
「お義母さま、将暉さんと私からのプレゼントです」
将暉と一緒に選んだプレゼントが入ったショッパーを、サチ子に手渡す。彼女がお気に入りの高級海外ブランドのモノグラム柄のショールで、彼と相談して、一番華やかなカラーを選んだ。
「えー、違う柄がよかった。どうせ、春乃さんが選んだんでしょ？ほんとセンス無いわね」
袋から取り出した箱を開いたサチ子は、落胆した表情を浮かべて、言い放った。
「す、すみません…」
「サチ子、そんなこと言ったら春乃さんに失礼だろ」
彼の父親が、すかさず嗜める。
「何で思ったことを正直に言っちゃいけないわけ〜？」
膨れっ面をしながらも、まんざらではない様子で、早速ショールを身に着けるサチ子。
― 姑じゃなければ、サチ子のことは可愛らしいって思えるんだけどな。
サチ子が、憎めない人なのは、わかっているが、思ったことをズバズバと言ってくる部分には、傷付けられることも多い。
その時…。
「母さん、さっきのは春乃と2人からで、これは俺から」
突然スタッフが、バラの花束を運んできたので驚いていると、将暉が手配したサプライズ演出であることがわかった。
「まあ、ロマンチック〜」
将暉から花束を受け取ったサチ子は、うっとりしている。
― サプライズは素敵だけど、なんでわざわざ「俺から」を強調するわけ？2人からでもいいじゃない！？
将暉とは散々サチ子の誕生日プレゼントについて話し合っていたのに、バラの花束のことを自分に隠していたことや、わざわざ「俺から」と私を外すことに違和感を覚える。
とはいえ、今日はめずらしく孫の話題が出ないままお開きになりそうだ、と安心したとき…サチ子から、無邪気に声をかけられた。
「ねえ、今日着ているお着物の柄のザクロってね、子孫繁栄をあらわす縁起の良い果物なのよ。
来年の誕生日には、“ばあば”になっていたいわ。よろしくね、まあくん、春乃さん」
「え、ええ……」
曖昧に返事をする私。一方で、将暉は、驚愕の返答をした。
「わかった。母さんの期待に応えるから、任せて！」
彼の返答に、思わず耳を疑う。
彼はずっと夜の営みについては、「その気になれない」の一点張りで、既に半年以上完全なレス状態。レスのことや子どものことは、私が少しでも聞こうとすると、話をそらされ続けていたからだ。
― 私が話題に出すと逃げるのに、母親に言われた途端「任せて」なんて…。一体何を考えてるの…？
これまで、将暉と気まずくなるのが嫌で、レスについては、真正面から話し合いをすることができなかった。でも、いい加減きちんと向き合わないと。
彼の横顔を見つめながら、私は、決心を固めた。
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次週、レスについて話し合う春乃と将暉。将暉の言い分は…。
