『ドラえもん』で、2005年から17年にも渡ってジャイアンを演じる声優木村昴さん。その活躍の舞台は声優業に留まらず、俳優やナレーター、ラッパーと多岐に渡ります。’20年には子ども向け番組『おはスタ』のメインMCにも抜擢され、近年は多くのバラエティ番組にも出演。多忙を極めるスケジュールの中で、ますます精力的に活動する木村さんのバイタリティの源はなんなのか。本人にお話しを伺いました。

鮮烈なデビューを飾った声優人生とは?木村昴さんインタビュー

現在公開中の『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ) 2021』でも木村さん演じるジャイアンは大活躍! そんな木村さんが国民的人気キャラクター、ジャイアンの座を射止めたのはなんと14歳のときです。

●記念のつもりで受けたオーディションがまさかの合格

当時、テレビアニメをほとんど観ていなかったという木村少年は、「ジャイアンのオーディションは、記念のつもりで受けた」のだとか。

「オーディションに合格したときは、ぶっちゃけ、やばーって思いました(苦笑)。そんなつもりじゃなかったのにって。でも時間が経つにつれて、これが僕の運命なのかもしれないと考えるようになりましたね。ジャイアンという大切なキャラクターを演じるからには、本気でやらないとダメですから」

ジャイアンと向き合う覚悟を決めた木村さんでしたが、すぐに厳しい現実に直面。

「交代したてのときは、視聴者の方たちに早く受け入れてほしいし、認めてほしいと願っていたのですが、なかなかそう思うようにはいかず。とくに僕は新人だったこともあり、けっこう辛辣なことも言われたんですよ。決して悪気のない子どもにも、街で会えば『ジャイアンのモノマネをしてください』って声をかけられるんです。今はかわいいと思えるんだけど、昔は『くっそー!』って(苦笑)」

ジャイアンは豪快なやつだから、思い切りやればいい

ーーどうしたらジャイアンをうまく演じられるのか。

悩んだ木村さんは、先代のジャイアンを務めたベテラン声優のたてかべ和也さんにアドバイスを求めます。しかし、たてかべさんから返ってきたのは、木村さんが求めた答えではなかったと振り返ります。

「たてかべさんにアドバイスを求めても、『ジャイアンは昴のものだから、俺が口出しするのはおかしい。これからは、昴が自分のジャイアンを新しくつくっていかないといけないんだ。もう俺の出る幕じゃない』と、取りつく島もない感じでした。それでもしつこく聞いていたら、初めて2人でお酒を飲んだときに、『ジャイアンは豪快なやつだから思い切りやってくれりゃいいんだよ』と教えてくれたんです」

当時20歳の木村さんは、たてかべさんから贈られた言葉の意味を理解できなかったそう。しかし、その言葉の意味はたてかべさんとの突然の別れによって知ることになります。

「たてかべさんの葬儀のとき、一対一でお会いする時間をいただきました。棺に入ったたてかべさんは、ジャイアンのTシャツを着ていて、傍らにはマイクが置いてあったんです。それを見て、思わず涙を流しながらも笑っちゃったんですよ。『ジャイアンは昴のもんだ』と言いながらも、たてかべさんは生涯をかけて、自分のジャイアンをやりきったんだなって。このとき初めて、その意味がようやく理解できたような気がしたんです」

●活動の原点は、すべて『ドラえもん』のために

たてかべさんの言葉が理解できてからは、「演じるのがますます楽しくなり、心にも余裕ができた」と語る木村さん。ジャイアンがどのような存在であるか聞くと、しばらく考え込んでから、「ジャイアンは僕のすべてなのかな。原点であり、頂点みたいな」と語り、こう続けました。

「最近はアニメのほかに、バラエティやドラマにも出演していますし、ラップミュージックの活動も行っていますが、新しいことにチャレンジしているのは、どこかでジャイアンのためという思いがあって。僕が活躍の場所を広げることで、多くの人にジャイアンに興味を持ってもらい、ひいては『ドラえもん』を観たことがない方や、大人になって離れてしまった方にも、楽しんでもらいたいという思いがあります」

●最近ハマっているものは「料理」

『ドラえもん』のさらなる普及に力を入れている木村さんですが、心に余裕ができてからは、プライベートも充実している様子。とくに最近ハマっているのは、料理だと教えてくれました。

「料理器具にこだわり始めたら、料理が楽しくなちゃって。最近は、自宅で本格的な焼き肉を楽しみたくて、コンロまわりを少し改装しました。1人分のスペースしかないので、お肉を焼いたところからガンガン食うみたいな。スーパーで購入した食材を、『どうやって料理してやろうか…!』って考えるのが楽しいんです」

豪快な焼き肉だけではなく、凝った料理にもチャレンジしているという木村さん。とくにおいしかったのは、「デミグラスコーラカレー」。果たしてどんな料理なのでしょうか?

「僕はコーラが大好きなので、コーラを使ったカレーをつくってみようと思って。材料は、コーラとタマネギ、ジャガイモ、お肉、市販のカレーとハヤシライスのルーです。まず、材料を細かく切って、タマネギを炒めたあと、コーラを投入し、ジャガイモとお肉も入れてドロドロになるまで煮込むんです。

カレーのルーは、数種類を混ぜるのがポイント。ハヤシライスのルーを多めに入れると、僕好みに仕上がりますね。ハヤシライスのルーがデミグラスソースっぽくなるんですが、コーラとの相性が抜群で、めちゃくちゃおいしいんですよ」

仕事だけではなく、趣味も全力で楽しむ木村さん。その姿は、たてかべさんが残した「ジャイアンは豪快なやつだから思い切りやってくれりゃいいんだよ」という生き様を、まさに体現しているかのようでした。