マッチングアプリにハマり、1,000万を費やして…。女が取った危険すぎる行動とは
恋に落ちると、理性や常識を失ってしまう。
盲目状態になると、人はときに信じられない行動に出てしまうものなのだ。
だからあなたもどうか、引っ掛かることのないように…。
恋に狂った彼らのトラップに。
「ねぇ正美、これ知ってる？」
ある日のランチタイム中、同期の乃々花がスマホ画面を差し出してきた。
そこには、ピンクの文字で『About yourself 〜あなたのレベルにマッチした男性と素敵な結婚を〜』と、表示されている。
「…ただのマッチングアプリじゃないのよ、よく見て」
乃々花が画面をスクロールすると、男性ユーザーの写真が表示される。その瞬間、私の心臓は大きく高鳴った。
「えっ、イケメンばっかりじゃん！この人たち本当に実在するの…！？」
表示された男性は皆、モデルのようなルックス。さらにプロフィール欄には、大手上場企業や医師といったハイスペックな人たちばかりが並び、年収は全員1,000万を超えていた。
「すごいでしょ。これね、プロフィールをもとにSからDまでランク付けされて、自分と同じランクの男性とだけマッチできるんだ」
含みのある口調で話し始めた乃々花は、私と同じ29歳の独身。美人で常に男が途切れず、恋愛を楽しんでいた彼女も、とうとう婚活を始めたのだ。
「この人たち、みんなSランクなんだよ」
「ってことは、乃々花もSランクなの？」
「うん。ルックスや学歴、あとは職種とかで審査されてランクが決まるの。明日は、この人とデートするんだ」
彼女のスマホを覗き込むと、志尊淳似のIT企業経営者が表示されている。
「完全紹介制だから、興味あったら早めに言って！29歳って、ギリSランクの男性と出会える最後のチャンスらしいよ〜」
3ヶ月前、結婚を考えていた大手代理店勤務の彼氏にフラれた私。焦っていないと言えば嘘になる。
その夜、送ってもらった招待URLからアプリをダウンロードした。会員になるためには、身分証明書だけでなく、いろんなアングルから撮影した顔と全身写真の登録が義務付けられている。
そして1週間後。『審査が完了しました』という通知を見て、恐る恐るアプリを立ち上げた私は、愕然としてしまったのだ。
正美が、ショックを受けたワケとは…？
『あなたのランクはBです』
それを見た瞬間。言いようのない怒りと、乃々花に対する嫉妬心が膨らんでいく。
「私がBランクなわけないじゃない！乃々花がSランクなのに！」
同じ都内の有名女子大を卒業し、新卒で映画宣伝企画部に配属された私たち。ライバルではなかったが、常にお互いを意識する存在だった。
このとき、私は初めて「乃々花にだけは絶対負けたくない」という気持ちが、自分の中に存在していたことを知ったのだ。
「確かに乃々花は美人かもしれないけど…。上司や取引先からの人気は、私の方が上じゃない！」
ガックリと肩を落としながらソファに座り込み、Bランクの男たちを眺める。
彼らは地味なスーツに身を包み、ルックスも年収も中の上といったところだ。人を見た目や年収で判断しちゃいけない、とは思っているけれど…。ついつい嫌味を言わずにはいられない。
「私が、この人たちと同じランクだってこと？ありえないわ…」
メニューをクリックすると、マッチングすることはできないが、別のランクの男性も検索することができるようだ。私はザッとSランクの男性をチェックしてみた。
― うわ、見なければよかった。
そこにはBランクの男とは比べ物にならないほど、容姿の整った人たちが並んでいたのだった。
Bランクだったことがあまりにもショックで、あれからアプリを放置してしまっていた。しかし登録完了してから3日目の夜に、ある通知が届いたのだ。
『特別ご招待：Sランクのパーティーを見てみませんか？』
何かと思って調べてみると、新しく会員登録した女性限定でサービスをしているらしい。月に一度行われているSランク男女のパーティーを、オンライン上で覗き見できるようだ。
興味を持った私は、パソコンを立ち上げてURLをクリックする。
「なにこれ、すごい…！」
画面に映像が映し出された瞬間。私は体がカッと熱くなって、気持ちが異様なまでに高揚しているのを感じた。
大理石のテーブルにオードブルが並び、美男美女がドレスとタキシード姿でワインを手に談笑している。まるで、映画に出てくる舞踏会のワンシーンのようだ。
カメラがいくつも用意されていて、画面を切り替えるたびにSランクの男女が映し出される。そのとき私は、1人の男性に釘付けになった。
名札に『拓也』と書いてあるその男性は、切れ長の目に、弓なりの眉が特徴的な韓流スタータイプ。私は画面越しに、一目惚れしてしまった。
そのままパソコンを閉じてアプリを立ち上げると、Sランクの男性の中から、2時間かけて拓也を見つけ出したのだ。
しかし表示されている『マッチング不可』の文字に、肩を落とす。
「この人に、会ってみたい…」
私はすぐにGoogleで『About yourself Sランク』と検索し、ヒットした記事の中から、Sランクになる方法というページをクリックした。
それは男性ユーザーが書いた記事だったが、ブログの管理人は実際に3つの方法を用いて、CランクからSランクまで上がったという。
「えっ！こんな冴えない感じの人が、Sランクになれるんだ！」
管理人のプロフィールには、理工学部卒のエリートであるものの、30年間彼女ができなかったと書いてある。
Cランクだった頃の写真もモザイク付きで掲載されており、小太りで赤いダブダブのチェックシャツが、低ランクだった彼を物語っていた。
「僕もこの方法を試して、Sランクになれました！」
「Sランクの人と結婚しました！」
記事のコメント欄には、Sランクに到達した男女からの感謝の言葉が並んでいる。
そして私も、さっそくSランクになる方法を実行することにした。
Sランクになる3つの方法とは？
・Sランクになる方法
その1：プロフィール写真や文章を充実させる
「簡潔すぎるプロフィール文はランクを下げる、か…」
短かったプロフィールを、人気ユーザーの文章を参考に書きかえる。写真はエンタメ系雑誌の取材時に、プロのカメラマンに撮ってもらったものへ変更。
さらに最近目立ち始めた目の下のクマは、Photoshopで綺麗に消してから、再審査のボタンを押した。
すると3日後、アプリの表示が変わったのだ。
『あなたのランクはAです』
さっそくAランクの男性をチェックする。そこに掲載されている男性たちは、Bランクよりも明らかにレベルが上がっていた。
…でも、Sランクでなければ意味がない。そんな私は次の週末、ある場所へと向かったのだ。
・Sランクになる方法
その2：アプリ運営のスクールで自分磨きをする
「本日は、About yourselfの料理教室にご参加いただきまして、ありがとうございます！」
私はアプリの運営会社が主催しているスクールの中から料理教室を選び、ランク上げのために通うことにしたのだった。
この日のメニューは、ラムを使ったイタリア料理。ここにいるみんなが、自分磨きをしてSランクにのし上がろうと必死なんだと思うと、包丁を握る手にも力が入る。
「よし、できた！忘れずに撮影しておかないと…」
私は半年間もスクールに通い、料理の写真をアプリに載せ続けた。おかげでAランクの男性からたくさんLIKEが届くようになっていたけれど、すべて無視。
Sランクになるまでは、やめられない。あの拓也という男性に会いたい。その一心で、プロフィールを更新し続けた。
そして料理教室に通っている間に、私を取り巻く状況は大きく変化していったのだ。
乃々花は志尊淳似の経営者と付き合い始め、元カレは私より5つも下の女性と社内結婚した。
― 元カレや乃々花の彼氏よりも、絶対にイイ男と結婚する！
次第にそれが私のモチベーションになっていき、料理教室だけでなく華道やマナー教室にも通った。しかし、いつまでたっても私のランクはAのままだ。
…そんな矢先に乃々花から、衝撃のLINEが届いたのだ。
乃々花：昨日プロポーズされて、結婚することになった！
「嘘でしょ…？」
メラメラと嫉妬心が沸き上がる。私は禁断の“Sランクになる方法・その3”に、手を出そうと決めた。
◆
1年後。
「拓也、おはよう」
私は子どものようにすやすや眠る、彼の美しい顔に見とれながら、幸せを噛みしめていた。
私は“Sランクになる方法・その3”を実行し、見事に拓也とマッチング。お付き合いを経て、先月結婚したのだ。そして、お腹の中には新しい命が宿っている。
― 拓也に似た、美しい子が生まれますように。
Sランクになるまでにかけたお金は、実に1,000万円。貯金は底をつき、今は月に5万ずつの返済も抱えている。でも彼を手に入れたのなら、安いものだ。
「もう、全然起きないんだから…。あ、そうだ！」
私は拓也に軽くキスをすると、スマホを取り出し『Sランクになる方法』のブログを久々に立ち上げた。
― 私も管理人さんに、感謝のコメントをしておかないと。私も無事Sランクになりました、っと。
その瞬間、枕元にあった彼のスマホに、何かの通知が届いた。
『ブログに新着コメントが1件あります』
「え…？」
なんだか胸騒ぎがした私はもう1件、コメントを入れてみる。するとまたもや、拓也のスマホに通知が届く。
…私は震える手で、Sランクになる3つの方法を読み返し始めた。
・Sランクになる方法
その3：全身整形する
「まさか拓也が、ね…」
彼の美しい横顔をジッと見つめながら、私はお腹に手をやった。
▶他にも：「他の子を妊娠させてしまった」と言って、突然別れを告げてきた男。しかしその3年後…
▶Next：3月15日 火曜更新予定
“夫デスノート”に悪口を書き込んだら…
