この記事をまとめると

■日本は世界的に見てもAT比率が高いと言われている

■現在、日本での新車販売の99%前後はATだ

■ATが増えていった背景について解説する

かつてATには高級なイメージがあった

 日本の自動車市場は世界的に見てもATが多いといわれている。実際、新車におけるMT比率は、ここ10年の間1.0%台で推移している。つまり、新車販売の99%前後はATというわけだ。

 はたして、これほどATが増えてきた理由はどこにあるのだろうか。

 その背景には、日本のモータリゼーションがアメリカの影響を受けてきたことが無視できない。近年の自動車メディアばかりを目にしていると、日本のクルマ好きはドイツ車を理想としているように思うかもしれないが、筆者の感覚でいえばスーパーカーブームが起こった1970年代以前は、アメリカ車が理想の姿として捉えられていた。

 1960年代の国産車をみると、そのスタイリングにアメリカ車の影響が多く見られるのはその証だろう。当時から、アメリカ車は欧州車に対してAT比率が高く、日本に持ち込まれる高級なアメリカ車は、ほとんどATという状況だった。

 余談だが、世界初の大量生産車といわれるT型フォードは、1908年生まれと100年以上前のクルマだが、そのトランスミッションはクラッチ操作が不要な2速セミオートマとなっていたくらいだ。

 さて、国産車も1960年代からATの採用を広げていく。そして、AT=高級というイメージを強くしたのは、1963年トヨタ・クラウンに2速ATが採用されたことが大きい。その後、1990年代まではAT車の価格はMT車よりも高く設定されていたこともあり、ATは上級グレードの証というイメージにもつながっていった。

 さらに1980年代からオーバードライブを持つ多段AT(といっても4速が主流だった)が普及しはじめると、高速道路でのエンジン回転数を下げることができるようになり、またクリープを利用してスムースに発進できることもあって、ATのほうがジェントルな走りがしやすくなっていく。これも高級感につながる部分で、当時のハイソカーブームというクルマに高級であることを求めるムーブメントと相まってAT比率は高まっていく。

 それでも1980年代のAT比率は50%に達さない程度だったが、ATの多段化がトレンドを変えていく。バブル期の1989年には、日産から5速ATが登場。AT多段化時代が幕を開ける。

1991年のAT限定免許が決め手に

 そうして多段化が差別化につながる時代となる一方で、日本では無段変速のCVTも増えていく。もはやスムースネスではMTはATに敵わない時代になっていった。コンパクトカーや軽自動車でもATのほうが静かに走れるようになっていった。

 走らせる楽しみという点ではMTに分があれど、多段化≒エンジン性能を引き出せるということになり、燃費でも加速性能でもATが有利という時代になっていったのだ。さらにAT比率が高まったことで、ATとMTの車両価格差はなくなり、むしろ希少なMTのほうが割高になるクルマもでてきた。合理的に考えて、ATを選ぶことが賢い選択となっていった。

 なにより、日本におけるAT比率の高まりに大きく影響したのは1991年11月にはじまったAT限定免許だろう。当初は、MTのクラッチ操作に苦戦して免許取得に苦労しているユーザーの救済といった捉えられ方をしていたAT限定免許だが、免許取得費用が抑えられる点や、世の中のほとんどがAT車になっていくなかでMTを運転できる免許を取得することがナンセンスと判断されるようになっていく。

 実際、2000年頃には新規免許取得者におけるMT免許とAT免許の比率は3:1くらいのイメージだったが、2010年には、ほぼ1:1でAT免許が上まわるようになり、それ以降はAT免許を選ぶドライバーが増え続けている。

 このようにATしか運転できないユーザーが増えているのであるから、メーカーがAT車ばかりを出すことはビジネスとしては当然の判断である。

 それ以外にも、ハイブリッドカーはATを前提としているシステム構成であることが多く、2000年代における省燃費ブーム、ハイブリッドカーの増加がAT比率を高めたという面も無視できない。

 いずれにしても、クルマの電動化が進むことは避けられない。純粋な電気自動車にしろ、ハイブリッドカーにしろ、MTが設定されることはメカニズム的にほとんど考えられず、MTを運転できるというスキルが、ほとんど意味も持たない時代になることは間違いないだろう。もっとも、完全自動運転が実現すれば運転免許という資格自体が無意味になるわけだが……。