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Twitterでは心に響く“神ツイート”でフォロワー25.7万人突破と大人気、『精神科医Tomyが教える 1秒で元気が湧き出る言葉』をはじめとする「1秒シリーズ」でも幅広い読者から絶大な支持を集めている精神科医Tomy先生。2022年1月11日には、渾身の感動作で自身初の小説『精神科医Tomyが教える 心の荷物の手放し方』の刊行も予定している。抑うつ(状態)の経験者、そしてADHD(注意欠如多動性障害)の医師としてTwitterで発信するほか、著書『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす 生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』に多方面から共感の声が寄せられているバク@精神科医先生。2人の精神科医には、共通点がとても多い。現役の精神科医、途中から精神科に転向した経歴の持ち主、父親を亡くした過去、抑うつ(状態)の経験者、いわゆる性的マイノリティ、そして読者の悩みに寄り添った本を書いていることも。必然に導かれるようにして実現した今回の対談では、「幸せとは何か」「父親の死を経験して思ったこと」「精神科との付き合い方」「発達障害とは」など、多岐にわたり語りあった。その内容を3回に分けてお届けする。

実家を継いだたった2週間後に……

Tomy:バク先生からお父さんの話を聞いて、父との関係が自分とちょっと似ていると思いました。

僕の父は地方の診療所の開業医でした。ずっと診療所を継げと言われながら育ったけれど、自分には全然継ぐ気がなかったんです。医師の道を進んだものの、精神科医になったことを伝えてしまうと、診療所を継ぐ気がない事実を突きつけてしまうことになるので、適当にごまかし続けていたんですね。

そんなある年、突然仕事に飽きてしまい、衝動的に父の後を継ごうという考えが芽生えました。当時は勤務先の病院が忙しくなり、いつの間にか日常が変わりつつあった頃です。ちょうど父の目がだんだん見えなくなり、往診で車をぶつけたりしていたのも耳にしていたので、「実家に帰って生活を全部変えよう」と。

最初は父と一緒に仕事をして、徐々に引き継ぐつもりでしたが、僕が帰った瞬間から「お前が全部やれ」と言って、何もやってくれなくなった。実際には僕が生まれたときから働いている看護師さんが力になってくれたので、何とかなりましたけど。

バク:ベテラン看護師さんが全部やってくれるというのは、病院あるあるですね。

Tomy:そうなんです。ちょうど診察室の裏が「院長室」という名の父のプライベートルームになっていて、父はそこでテレビを見たり、僕が診察している様子をこっそり覗いたりして満足そうにしていました。そんなふうにして2週間が過ぎたとき、父が寝室からなかなか下りてこないので見に行ったら、くも膜下出血で倒れていて。

バク:えっ……。

Tomy:すぐに救急車を呼んで、その日は休診にして、父は7時間の緊急オペを受けるなど、てんやわんやでした。父はその後、目だけは開いているけど、会話も何もできない全介護状態に。約1年経ったところで「急変した」という一報を受けて、診察を中断して駆けつけたら、もう亡くなっていました。

人は正論を飲み込むことができない

Tomy:もし僕がもう1年精神科医をやっていたら、父の危篤を前にして駆けつけることすらできなかったかもしれない。一方、で自分が実家を継いだから安心した父が倒れたとも言えるわけで、そのときはモヤモヤしていました。

その様子を見ていたベテランの看護師さんが「たまたま帰ってきたタイミングで倒れられたけど、それが原因じゃないと思いますよ」と言ってくれたのを覚えていますね。

バク:優しい言葉ですね。そういう周りの人がかけてくれる優しい言葉って、自分も相手の立場だったら言うだろうなという言葉なんです。

ただ、人によってはそれがすごくデカいあめ玉を口の中に放り込まれている感じになる場合もある。たしかに甘い飴だけど、ある程度、口の中で小さくしてからでないと飲み込めない、ということを最近感じているんです。

患者さんにとって「明らかにこうしたほうがもっとラクになる」という正論があったとしても、人は正論をいきなり飲み込むことができません。

家族に対しても患者さんに対しても「こういう意見がある」というのをちょっとだけ頭の片隅に置いてもらって、いつか飲み込めそうだと思えるタイミングで飲み込んでもらえたら嬉しいですね。自分はそういうスタンスで精神科医をやっています。

Tomy:そのスタンス、すごく大事だと思います。本当に正しいことが、患者さんが理解できて、役立つわけじゃない。だから、僕も差し出がましい言い方にならないように気を付けています。

それと同時に、「どうせ正しいことを言ってもわからないだろう」という態度ではなく、あくまで1対1の人間同士として、僕が思うこと患者さんに正直に素直に伝えることを意識していますね。

精神科医との付き合い方

Tomy:ところで、精神科って、悩みを抱えてつらいときに話を聞いてもらう場所だと考えている人が多くて、誤解されているところがありますよね。でも、そうではなくて、本来は脳の機能に異常をきたしたときに、それを調整するところなんです。

例えば、ご飯が食べられないとか、眠れないとか、日中ボーッとして仕事ができないとか、そういう症状があるときには、臆せずに受診していただきたいと思います。

ただし、基本的には病気を治療するところなので、人生の悩みを解決してもらったり、生きる知恵を与えてもらったりすることを期待して受診すると、「思っていたのと違う」ということになりかねません。

では、なぜ僕が生きる知恵とか、人生がラクになる考え方みたいなことを本に書いているかというと、患者さんとの長いお付き合いの中で、そういう話をすることがあるからです。

治療を通じて患者さんとのお付き合いが長くなると、お互いの人間関係も構築されますし、患者さんにいろんなイベントも起きます。その関係性やイベントに応じて話をさせていただくということであって、最初から人生の悩みに答えるわけではありません。

悩みを聞いて答えるのは、主にカウンセラーの仕事であって、精神科医の仕事はカウンセリングとは違って精神的な病気を治療することなんです。

バク:おっしゃる通りですね。眠れないとかご飯が食べられないとか、職場に行くとお腹が痛くなって吐いてしまうとか、そういう症状に対して薬物療法で治療するのが精神科のメインだと思います。

よく「心がつらいときに精神科に行けば、生きていくのがすごくラクになる魔法のようなことを言ってもらえる。そういうことを言わない精神科医はダメだ」みたいな理屈で精神科医を批判している人がいるんですけれど、それは勘違いなんです。

最近は、精神科の敷居がヘンなふうに下がってしまったと感じることが多いです。先日も若い女性が初診で来院して、診察で「どうされたんですか?」と聞いたら、「昨日、彼氏にフラれたんです」と話し始めたことがあったりして。

その若い女性は、「彼氏が二股していて、しかも二股の相手が自分の友だちで、インスタに匂わせるような画像を投稿していた。私がそれに気づいて問い詰めたら、彼氏に逆ギレされて別れ話を切り出された。だからつらい」という具合に延々と話し続けました。でも、それは聞けば聞くほど、正常な反応なんです。

「あなたは病気ではなくて、心の正常な反応をしているだけですよ。逆に、すごく好きだった人が自分の友だちと二股をかけていると知ったとき、『あ、そうなんだ。ふーん』としか思わなかったら、そっちのほうが病気かもしれません。あなたは今、自分の感情を生々しく体験している状態です。だから、申し訳ないけれど、お薬は出せません。この後、友だちと一緒に温かいご飯でも食べに行って、家に帰ってゆっくり寝てください」と伝えて、そのまま帰ってもらいました。

「彼氏にフラれたあとに半狂乱になって、相手を刺し殺しに行った」みたいに、明らかに反応が強すぎるときは精神科を受診するべきです。でも、感情は普段起伏があるのが正常ですし、普通の感情の起伏を「フラットじゃないから病気なんだ」と過剰に受け止める必要はありません。

だって、愛犬が死んで悲しいという人が、精神科を受診して薬を飲んでぼんやりして、「悲しいかどうかよくわからなくなった」ということになったら、人間として怖いじゃないですか。あくまでも我々は、現実を生きているわけですから。

Tomy:自分自身で「これは悩みだな」と即答できる問題は、精神科を受診しなくても大丈夫だと思います。あくまでも精神科で扱うのは脳の機能の異常であって、それをお薬で修正するというのが基本です。それを知ったうえで、精神科を受診されるとよいと思いますね。