東京メトロは丸ノ内線など各線のリアルタイム混雑状況をスマートフォンアプリで配信するサービスを始めた(撮影:尾形文繁)

東京メトロは2021年7月から、スマートフォンアプリの「東京メトロmy!アプリ」で、銀座線・丸ノ内線のリアルタイム混雑状況配信を開始した。各列車の混雑状況を号車ごとに表示し、「どの車両を利用すれば比較的空いているか」が乗る前に確認できるサービスだ。

この配信は、9月29日から千代田線・有楽町線・副都心線も追加され、合計5路線となった。

これらの路線は銀座線や丸ノ内線と違って他社と相互直通運転をしており、車両重量データの取得が難しく、号車ごとにリアルタイムで混雑状況を算出することが難しかった。そこで、奥行きの情報を取得する深度センサーを内蔵した「デプスカメラ」を使用するとともに、列車混雑計測システムを活用することで、車種を問わずリアルタイムな混雑情報や、混雑予測情報を提供することができるようになった。

取り組みはコロナ禍前から

混雑状況は、座れる程度、ゆっくり立てる程度、肩が触れ合う程度、かなり混雑している状況まで4段階に色分けし、車両ごとに表示する。


東京メトロアプリの混雑情報画面。車両ごとに色分けしてリアルタイムの状況と今後の予測を表示する。ピンク色は「かなり混み合っている」、オレンジ色は「肩が触れ合う程度」だ(編集部撮影)

この情報を見ると、これから乗る列車のどの車両が混雑しているのか実際の状況を把握したうえで、空いている車両を選んで乗ることができる。リアルタイムで実測した混雑状況のほか、その値を用いて予測したその後の状況も表示するため、「いま乗っている車両はどの駅から空いてくるのか」を確認するという使い方もできる。

2021年11月9日時点で対象は5路線だが、年度内をメドにほかの路線でも配信を目指すという。

混雑状況情報の提供に向けた動きはコロナ禍の前に始まっていた。背景にあったのは、当時首都圏ワースト1位だった東西線の混雑だった。東京メトロによると、同線の混雑緩和に向けて分散乗車や時差通勤を促進したいと考えたことがきっかけだったといい、2018年から東西線全列車の号車ごとの混雑状況をリアルタイムに算出することを目的としてスタートした。

現在、東西線では号車ごとのリアルタイムの混雑状況は配信していないものの、どの駅がどの時間帯に混雑するかはわかるようになっている。これにより、混む時間を知らせて乗客に分散乗車を促すという行動変化の目安ができた。

その中で新型コロナの感染が拡大し、今度はコロナ対策として混雑回避サービスが求められるようになってきた。そこで、リアルタイム混雑状況配信を5路線で行うようになったというわけだ。

これまでは一部の駅で利用者が特定の車両に集中しており、列車の遅延にもつながっていた。「混雑が平準化すれば、結果として遅延対策にも役立つと考えられます」と東京メトロは説明する。

「便利な車両」を示す情報も

一方で、駅には「のりかえ便利マップ」が掲出されている。各駅の階段やエスカレーター、エレベーターが何両目に乗れば近いかの案内図で、ベンチャー企業アイデアママ(現ナビット)の創立者、福井泰代さんが考案したものである。東京メトロは営団地下鉄時代の1998年、このマップを駅に掲出するようになった。

福井さんはベビーカーを押しながら移動する際に、駅で苦労した経験からこのマップを作り、営団地下鉄で採用された。その後多くの路線でこのマップは採用されるようになった。現在は「東京メトロmy!アプリ」でも見ることができる。


東京メトロの「のりかえ出口案内」。出口や階段、エスカレーターの位置に近い車両がわかる(編集部撮影)

実は筆者は、大学時代にこの「のりかえ便利マップ」作成のアルバイトをしたことがある。何両目で降りれば階段が近いのか、どの出口からどこにアクセスできるのかなどを実際に乗って調べたり、現地で案内表示を写真に撮ったりした。

このマップにより、列車に乗る場合はあらかじめどの車両に乗れば降りるときに便利かが簡単にわかるようになった。とくにベビーカー利用者や荷物の多い人などには重宝される情報だ。

だが、いつも同じ駅を使用する人がどの車両に乗れば階段やエスカレーターに近いかを把握しているのと同様、マップを見れば便利な車両がどこかわかるため、多くの人が特定の車両に集中する可能性もある。空いた車両に乗客を誘導しようとする混雑状況の配信とは、ある意味で逆ともいえる情報だ。

リアルタイムで混雑している車両がわかるようになった今、乗客は降りるときに便利な車両と空いている車両、どちらを選ぶのだろうか?


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「密」の回避が叫ばれるコロナ禍であっても、主要駅で降りる際に便利な車両など、一部の車両に利用者が集中しがちな状況はよく見られる。やはり利便性を選ぶ人が多いのだろうか。

だが、東京メトロによると、空いている車両への移行に一定のニーズがあることはアンケート調査によって把握しているとのことだ。つまり、便利さより空いているほうを好む層は一定数いるとみられるわけだ。

ただ、ニーズがあることはわかっているものの、今のところ実際の行動について明確なデータがあるわけではない。7月のサービス稼働以降、東京オリンピック・パラリンピックや緊急事態宣言の発令、解除など混雑状況が大きく変化する要素があったためだ。

「現時点では、リアルタイム混雑状況配信に起因した、空いている車両へのお客様の移行と断定できる状況は確認できておりません」(東京メトロ)。同社は「空いている車両への移行は、お客様にとってのメリットに加え、当社にとっても遅延防止などの安全・安心輸送の確保に寄与すると考えており、今後も有効な施策の検討を進めてまいります」と説明する。

「便利」「空いてる」どっちに乗る?

混雑を避けるための配信と、乗り降りに便利な車両を示すマップ。東京メトロは「さまざまな情報を提供することでお客様の選択肢を増やし、快適な利用の実現に向けて役立てていただければ」とする。

では、利用者はこれらの情報をどう活用するべきか。筆者は、便利な車両がどの程度混雑しているかを確認して、少しずらして乗るのがいいのではないかと考える。

大きな荷物を持っていたり、ベビーカーなどを使用したりする場合はエレベーターなどに近い車両を選びたいが、一方で混雑していると乗り降りが大変になる。そこでリアルタイム混雑状況を確認すれば、その車両がどの程度混雑しているかがわかる。混んでいる場合、1両か2両程度ずらして少しでも空いているところを選べば、駅でも便利、かつ移動中も楽になるのではないだろうか。

さて、乗り降りに便利な車両と空いている車両、あなたはどちらを選ぶ?