ハライチ・岩井さん。エッセイ発売が与えたコンビのネタにマイナスなこと
累計10万部を突破したエッセイ『僕の人生には事件が起きない
』から2年ぶりとなる『どうやら僕の日常生活はまちがっている
』(新潮社刊)を上梓したお笑いコンビ・ハライチの岩井勇気さん。
ハライチ・岩井勇気さん
2冊目を発売するにあたっての心情、テーマとの向き合い方についてお聞きしました。
「はじめに」では「自分で言わせてもらおう。1冊目はたまたま売れただけだ」というエッジがきいた本音を書きつつも、本編となるエッセイでは自然な岩井さんの日常が描かれており、読者をクスッと笑わせたり、唸らせてくれたりします。
――2作目となるエッセイ集の発売ということで、1作目から心境が変わられた、などといったことはあるのでしょうか。
「文章自体はうまくなってると思います。気持ちは一切変わらないですね」
――事実に沿ったものもあれば、途中から妄想が入り混じったエッセイもあり、巻末の小説まで一気に読むと、短編集を読んでいるような気分になりました。
「それはね、僕が狙ったとおりに思ってくれました(笑)新潮社の人に『小説を書いてください』って言われたときは、定型文のように言ってくるんだな、絶対言うだろうなと思ってたらやっぱり言うんだ、って。小説もですけど、エッセイもがんばって書いているのに『小説もいけますよ!』と言われたら、『じゃあなんだったんだ、このエッセイは』って思うじゃないですか。あんまり労力は変わらないんですけどね」
――小説を書くぞ、と心構えが変わったりすることもありませんでしたか?
「小説っぽい小説を書いても、これまでやってきてないですし。エッセイを書いてきたときに培ったもので書いた小説ですね。この小説をちゃんと小説だと位置づけてもらって、小説家になれるんだとしたら、怪しいもんですよね」
――小説もそうなんですけど、新しい挑戦をされるときはどういう気持ちでやってみよう、と思われるんですか? なんでもチャレンジしてみよう、という心持ちなんでしょうか。
「漫画原作やゲームのプロデュースはやりたくてやってるんですけど、やりたくない仕事もきます。なんで俺にオファーしてんだよ、あんまりやりたくないな、って思ったら、そのまま言いたいんです。言うためにはやった方がいいんですよね。文句を言いたいものほどやってみるかもしれないです。エッセイもですけど、小説に関しても書きたいと思ったことはないですね(笑)」
――エッセイのそれぞれのテーマがすごく面白いですが、テーマはどんなふうに見つけていらっしゃるんですか? たとえば、『喉に刺さった魚の骨が取れない』の話では、ご友人との食事中に魚の骨が刺さってしまい、骨を取るためにダイエット中にも関わらずカロリーが高いもの食べてしまったという悲哀も描かれていますよね。
「テーマだけ見たら何も面白くないエッセイだと思ってるんです。よく骨が喉に刺さっただけのことを書けるな、何も起きてないじゃないか、って思いますけどね。でも、自分の喉に骨が刺さったら絶対に思うことなんですよ。こっちが喉に骨刺さって苦しんでるのに、何楽しそうにしてんだよ、って。最初は心配していたけど、もうその感じないじゃん、楽しそうにアイスとか食ってんじゃん! って。それを事細かに書いているだけですね。でも、共感はできるじゃないですか」
――確かにそのときは感じていなかったけれど、文字で拝見すると、「こういうのあったな」というのは、エッセイの中でもたくさんありますね。
「言語化できていないだけで、感じているんですよね。芸人はそれをずっとやってきているんですよね。この人は何を考えているんだろう、という意図をくみ取って話すというのを」
――それがもう日常生活に沁みついているんですね。脳が一息つくことがなさそうです。
「一息つきたいって思ってないかもしれないですね。きっと、考えるのも、会話をするのも割と好きなんですよね」
――普段から考えていることを書かれているということだったんですが、エッセイや小説のお仕事をされて、お笑いの仕事にいい影響はありましたか?
「基本ないんですよ。ラジオなどで日常を面白く話すというのをやっているので、お笑いで培ったものをエッセイでやっている、というだけ。文章力がついたということ以外の発見はあまりないですね。
「お笑いってウケなきゃいけない。笑いが全てで、結果が絶対に見えるじゃないですか。でも、エッセイは面白みがあれば、笑わなくてもいい。基準が思っていたより曖昧なので、書き始めてからネタでも不毛なくだりをいれちゃったりしてましたね。面白みはあるけど、お客さんにウケない。なのになんか書いちゃったな、って。だから、どちらかと言うと悪い影響はありますね」
――ネタを書いている最中に、本来なら入れなくていいくだりがあることに気がつくんですね。
「ウケるわけでもないけど、クスッと笑うまでいかないけど、おもしろいな、っていう会話を入れてるわ、って。いらないな、って思って消すんですけど。でも、文章だったら、それがあったほうがいいときってあるじゃないですか。だから、本当にお客さんの笑いを意識しなくなるのは怖いな…と思います」
――エッセイは読者の方の反応が直接見えるわけじゃないから、そこまで気にならないですか?
「正直、何で買っているかわからない。僕に興味があって買っているパターン、単純にテレビで観て知っている人の本を買うパターン、あとはテレビで紹介されていたとか。買う本人が面白いと思って買ってるのかな?」
「基本、あんまり自分の仕事のこと書いてないんですよね。ラジオもネタもなんですけど、『ご存知ハライチ岩井です』みたいにやるのが恥ずかしくてすごく嫌なんです。だから、『どうせ俺のことは誰も知らないんだろう』と思いながら、誰が読んでも面白いようには書いていますね。そうしないと、ドーピングが過ぎるというか」
――ドーピング?
「『芸能人』という立場で、多少知名度があることで売るのはすごく消費されているな、と思うんですよね。たとえば、10万部売れた僕のエッセイと無名な作家の10万部売れたエッセイなら絶対後者のほうが欲しいだろうと思うんです。」
――自分自身を切り売りしないというのを意識されている?
「そうですね。お笑いは最優先事項なので何を捧げてもいいんですけど。別に作家になりたいわけでもない。そこにすり減らされるのは嫌だな、と思います」
<撮影/鈴木大喜 取材・文/ふくだりょうこ>
1986年埼玉県生まれ。幼稚園からの幼馴染だった澤部佑と「ハライチ」を結成、2006年にデビュー。すぐに注目を浴びる。ボケ担当でネタも作っている。アニメと猫が大好き。特技はピアノ。ツイッター(@iwaiyu_ki
)。デビューエッセイ集『僕の人生には事件が起きない
』が累計10万部を突破。
』から2年ぶりとなる『どうやら僕の日常生活はまちがっている
』(新潮社刊)を上梓したお笑いコンビ・ハライチの岩井勇気さん。
ハライチ・岩井勇気さん
2冊目を発売するにあたっての心情、テーマとの向き合い方についてお聞きしました。
ハライチ・岩井さんインタビュー。2冊目発売の心情とテーマとは?
「はじめに」では「自分で言わせてもらおう。1冊目はたまたま売れただけだ」というエッジがきいた本音を書きつつも、本編となるエッセイでは自然な岩井さんの日常が描かれており、読者をクスッと笑わせたり、唸らせてくれたりします。
●文句を言いたいものほどやってみる
――2作目となるエッセイ集の発売ということで、1作目から心境が変わられた、などといったことはあるのでしょうか。
「文章自体はうまくなってると思います。気持ちは一切変わらないですね」
――事実に沿ったものもあれば、途中から妄想が入り混じったエッセイもあり、巻末の小説まで一気に読むと、短編集を読んでいるような気分になりました。
「それはね、僕が狙ったとおりに思ってくれました(笑)新潮社の人に『小説を書いてください』って言われたときは、定型文のように言ってくるんだな、絶対言うだろうなと思ってたらやっぱり言うんだ、って。小説もですけど、エッセイもがんばって書いているのに『小説もいけますよ!』と言われたら、『じゃあなんだったんだ、このエッセイは』って思うじゃないですか。あんまり労力は変わらないんですけどね」
――小説を書くぞ、と心構えが変わったりすることもありませんでしたか?
「小説っぽい小説を書いても、これまでやってきてないですし。エッセイを書いてきたときに培ったもので書いた小説ですね。この小説をちゃんと小説だと位置づけてもらって、小説家になれるんだとしたら、怪しいもんですよね」
――小説もそうなんですけど、新しい挑戦をされるときはどういう気持ちでやってみよう、と思われるんですか? なんでもチャレンジしてみよう、という心持ちなんでしょうか。
「漫画原作やゲームのプロデュースはやりたくてやってるんですけど、やりたくない仕事もきます。なんで俺にオファーしてんだよ、あんまりやりたくないな、って思ったら、そのまま言いたいんです。言うためにはやった方がいいんですよね。文句を言いたいものほどやってみるかもしれないです。エッセイもですけど、小説に関しても書きたいと思ったことはないですね(笑)」
●何気ない日常の思いを言語化しているだけ
――エッセイのそれぞれのテーマがすごく面白いですが、テーマはどんなふうに見つけていらっしゃるんですか? たとえば、『喉に刺さった魚の骨が取れない』の話では、ご友人との食事中に魚の骨が刺さってしまい、骨を取るためにダイエット中にも関わらずカロリーが高いもの食べてしまったという悲哀も描かれていますよね。
「テーマだけ見たら何も面白くないエッセイだと思ってるんです。よく骨が喉に刺さっただけのことを書けるな、何も起きてないじゃないか、って思いますけどね。でも、自分の喉に骨が刺さったら絶対に思うことなんですよ。こっちが喉に骨刺さって苦しんでるのに、何楽しそうにしてんだよ、って。最初は心配していたけど、もうその感じないじゃん、楽しそうにアイスとか食ってんじゃん! って。それを事細かに書いているだけですね。でも、共感はできるじゃないですか」
――確かにそのときは感じていなかったけれど、文字で拝見すると、「こういうのあったな」というのは、エッセイの中でもたくさんありますね。
「言語化できていないだけで、感じているんですよね。芸人はそれをずっとやってきているんですよね。この人は何を考えているんだろう、という意図をくみ取って話すというのを」
――それがもう日常生活に沁みついているんですね。脳が一息つくことがなさそうです。
「一息つきたいって思ってないかもしれないですね。きっと、考えるのも、会話をするのも割と好きなんですよね」
●普段お笑いでやっていることを執筆でやっている
――普段から考えていることを書かれているということだったんですが、エッセイや小説のお仕事をされて、お笑いの仕事にいい影響はありましたか?
「基本ないんですよ。ラジオなどで日常を面白く話すというのをやっているので、お笑いで培ったものをエッセイでやっている、というだけ。文章力がついたということ以外の発見はあまりないですね。
「お笑いってウケなきゃいけない。笑いが全てで、結果が絶対に見えるじゃないですか。でも、エッセイは面白みがあれば、笑わなくてもいい。基準が思っていたより曖昧なので、書き始めてからネタでも不毛なくだりをいれちゃったりしてましたね。面白みはあるけど、お客さんにウケない。なのになんか書いちゃったな、って。だから、どちらかと言うと悪い影響はありますね」
――ネタを書いている最中に、本来なら入れなくていいくだりがあることに気がつくんですね。
「ウケるわけでもないけど、クスッと笑うまでいかないけど、おもしろいな、っていう会話を入れてるわ、って。いらないな、って思って消すんですけど。でも、文章だったら、それがあったほうがいいときってあるじゃないですか。だから、本当にお客さんの笑いを意識しなくなるのは怖いな…と思います」
――エッセイは読者の方の反応が直接見えるわけじゃないから、そこまで気にならないですか?
「正直、何で買っているかわからない。僕に興味があって買っているパターン、単純にテレビで観て知っている人の本を買うパターン、あとはテレビで紹介されていたとか。買う本人が面白いと思って買ってるのかな?」
「基本、あんまり自分の仕事のこと書いてないんですよね。ラジオもネタもなんですけど、『ご存知ハライチ岩井です』みたいにやるのが恥ずかしくてすごく嫌なんです。だから、『どうせ俺のことは誰も知らないんだろう』と思いながら、誰が読んでも面白いようには書いていますね。そうしないと、ドーピングが過ぎるというか」
――ドーピング?
「『芸能人』という立場で、多少知名度があることで売るのはすごく消費されているな、と思うんですよね。たとえば、10万部売れた僕のエッセイと無名な作家の10万部売れたエッセイなら絶対後者のほうが欲しいだろうと思うんです。」
――自分自身を切り売りしないというのを意識されている?
「そうですね。お笑いは最優先事項なので何を捧げてもいいんですけど。別に作家になりたいわけでもない。そこにすり減らされるのは嫌だな、と思います」
<撮影/鈴木大喜 取材・文/ふくだりょうこ>
【岩井勇気さん】
1986年埼玉県生まれ。幼稚園からの幼馴染だった澤部佑と「ハライチ」を結成、2006年にデビュー。すぐに注目を浴びる。ボケ担当でネタも作っている。アニメと猫が大好き。特技はピアノ。ツイッター(@iwaiyu_ki
)。デビューエッセイ集『僕の人生には事件が起きない
』が累計10万部を突破。