カップ麺を流しに捨てたときの影響を実験。左から醤油味、シーフード味、カレー味の残り汁を用意した(写真:筆者撮影)

最近「カップ麺の残り汁を固める専用パウダー」のニュースについて、「残り汁を流しに捨てるのはありか、なしか」が話題となった。SNSには「下水処理されるから大丈夫」という声がある一方で、「水環境や下水道インフラに与える影響は大きい」などの声があがり、メーカー側も「流しに捨てることは問題ない」とコメントしている。

私もときどきカップ麺を食べるから、実際のところを知りたい。環境への影響、下水道への影響を、子どもといっしょにできる手軽な方法で試してみることにした。

残り汁をパックテストで測ってみる

まず、カップ麺の残り汁を用意。麺と具材はしっかり食べ切り、台所の排水口に使用するネットで濾(こ)した。


本記事が連載の1回目です

残り汁の量は約150mLだった。もちろんこれは個人差があるだろう。「汁完飲派」なら0になるし、今回のように意識的に汁を残そうと思うと多くなる。ただ、カップ麺をつくるときには300mLのお湯を注ぐことが推奨されているが、その半分は麺や具材に吸収されてお腹におさまり、半分が汁として残っていることがわかった。

水質調査に「パックテスト」という簡易水質測定キットを使った。これは小中学校の理科の実験でも使われることがある。ポリエチレンチューブの中には試薬が入っており、測定したい液体をポリエチレンチューブに吸い込むと、試薬と反応し色が変化する。一定の時間を置いた後、写真左の比色表と比較することでおおまかな水質がわかる。


魚が住める河川の水のCOD値は写真左から2番目以下だ(筆者撮影)

水質項目にはさまざまあるが、今回測るのはCOD(Chemical Oxygen Demand/化学的酸素要求量)というもので、水のなかの有機物の量がわかる。COD値が大きいほど水は汚れている。一般的に魚が棲める河川の水のCOD値は5mg/L以下とされている。

まず、残り汁を10倍に薄めた。残り汁150mLの場合、水道水を加えて1500mLに希釈した状態だ。色とにおいを確認すると、それぞれ醤油、シーフード、カレーだったことがはっきりわかる。この液体をポリエチレンチューブに吸い込むと色が変化する。COD値は100mg/L以上であることがわかる。


(筆者撮影)

次に50倍に希釈したものを測定する。残り汁150mLの場合、水道水を加えて7750mL(7.75L)にまで薄めた状態だ。見た目もにおいも、まだまだ醤油、シーフード、カレーで、COD値は100mg/L以上であるとわかる。


(筆者撮影)

さらにスープを薄めてみると

さらに100倍に希釈。残り汁150mLの場合、水道水を加えて1万5000mL(15L)にまで薄めた状態である。15Lとは水道の蛇口から1分間、水を出しっぱなしにした量(水圧や蛇口の開閉具合により異なるが)。それでもまだ、見た目もにおいも、醤油、シーフード、カレーであることがわかる。COD値は醤油が20mg/Lから50mg/Lのあいだ、シーフードが100mg/L程度、カレーが50mg/Lから100mg/Lの間だった。


(筆者撮影)

ここで一気に1000倍に希釈。残り汁150mLの場合、水道水を加えて15万mL(150L)にまで薄めた状態。一般的な風呂桶を満タンにすると200Lの水が入るから、その4分の3の量だ。元醤油はほぼ透明になりにおいはほとんどしない。元シーフード、元カレーには浮遊物があり、元カレーは少し黄色がかっている。2つともわずかに元のにおいがする。COD値は醤油が10mg/Lくらい、シーフードが50mg/Lから100 mg/Lのあいだ、カレーが20mg/Lから50mg/Lの間だった。


(筆者撮影)

大量の水で薄めても、なかなか魚の棲めるCOD値には下がらなかった。もちろん家庭から出る生活排水はカップ麺の残り汁だけではない。みそ汁1杯を魚の棲めるCOD値にするには1410L、牛乳カップ1杯(200mL)だと3000Lの水が必要になる。

もちろん、こうした生活排水は下水処理場で環境に負荷を与えないレベルに処理されてから河川に出る。ただ、その過程では、大量の水とエネルギーがかかるということは覚えておきたい。

下水道には2つの種類がある

また、下水道には合流式と分流式の2種類がある。

合流式の特徴(生活排水と雨水をいっしょに処理)
・下水道が1本ですむので建設費・維持管理費が少なく、ほかの地下埋設物との競合が少ない
・管径が大きく勾配が小さいため汚物が管内に堆積しやすい
・大雨などで対応できる流量を超えると、未処理のまま河川などに放流される。そのため水質汚濁を招く可能性がある

分流式の特徴(生活排水と雨水を分けて処理)
・下水道が2本必要で建設費・維持管理費が高く、ほかの地下埋設物と競合する
・汚水は下水処理場で処理されるので、河川や海への流出はない
・道路などが汚れていた場合は、雨水はその汚れとともに河川や海に放流される

合流式の下水道の場合、大雨の時にあふれ、生活排水が下水処理場に到着する前に環境中に出てしまう場合がある。だから、「台所から汚れを流しても大丈夫」ではないこともあるのだ。

さらに、排水口に流された油分は、冷えると固まって管の内側に付着し、パイプ詰まり、腐食などの原因となる。オイルボールといった浮遊物となり腐敗して悪臭を発生することもある。分解しきれない油が時間の経過とともに酸化され、水中の酸素を消費し、生物などに影響を及ぼし、魚の大量死につながるケースもある。

ヘドロ化すればメタンガスと亜酸化窒素など温室効果ガスの発生につながる。メタンガスの地球温暖化係数(二酸化炭素を基準に他の温室効果ガスの温暖化能力を示した数字)は二酸化炭素の25倍、亜酸化窒素は298倍ある

残り汁(醤油味)を下水道管内の温度(年間平均10度)の環境に2時間おいたところ、わずかだが、油分が浮いているのが目で見てわかった。

多くの人が、「排水口に油を流す人などいないだろう」と思うかもしれない。でも、それは疑わしい。ミツカン水の文化センターは、東京圏、大阪圏、中京圏の1500人を対象に「水にかかわる生活意識調査」を行った。そのなかに「家庭で行っている下水道への環境配慮」について尋ねている。その結果、1995年〜2009年までの平均値に比べ、2017年の環境配慮が大きく低下していることがわかった。


なかでも「油を流しから流さない」人は49.9%であり、約半数の人が多かれ少なかれ油を排水口から流している可能性がある。川の汚染が下火になったり、暗渠化されたり、下水道が整備されるなどの理由で、生活排水についてあまり意識しないようになっているのかもしれない。ディスポーザーが普及し、ある程度は流しても大丈夫という安心感もあるのだろうか。

拭き取る?食べちゃう?

では、残り汁はどうしたらいいだろうか。カップ麺のメーカーのなかには、残り汁を固める粉末を製薬会社と共同開発した例もある。ただ、これは発売されているわけではない。なかには庭にまくという人がいるが、土壌が塩化してしまうだろう。


残り汁を下水道管内の温度(年間平均10度)の環境に2時間おいた状態(筆者撮影)

オーソドックスなやり方としては、古布や新聞に吸い取って、乾燥させてから燃えるゴミとして捨てるとよいだろう。食べて下水道の負荷を減らすという方法もある。大津市下水道局では「カレーの場合、最後はチャーハンにして琵琶湖を守ろう」と広報している。

鍋についたカレーを水で洗い流してしまうと油分を含んだ水が排水口から出ていく。そこで「ご飯を投入してチャーハンなどにすれば、直接下水に流すことなく、琵琶湖にやさしい!」と訴えている。カップ麺の残り汁についても、ご飯を入れて食べる、雑炊にするなどお腹に入れてしまうこともできる。

私は残り汁のなかにとき卵を入れ、レンジでチン(600w、2分30秒)して、茶碗蒸しを作ってみた。これはかなりいけた。今回は、醤油茶碗蒸しだったが、次回はシーフード茶碗蒸しを作ってみたい。