ダイヤモンド・ホーキンス氏は、27歳の若さで、多様な職歴がある。

これまでに、メイクアップアーティストとして働いたり、旅行関連のスタートアップを設立したりしたことがある。現在は、テックプロジェクトマネージャーとしてマイクロソフト(Microsoft)のコンサルタントを務めるかたわら、ポトスビューティー(Pothos Beauty)というスタートアップを設立しようとしている。同社は、「あらゆる顧客に対応する」美容系小売企業だという。

「いつも一度に多くのことをやってきた」と、熱意溢れるホーキンス氏は、ニューヨークの自宅から語った。「私は非常に多面的なので、自分自身の各側面を満たすことが不可欠だ。そうすることで、完全な自分を感じることできる」。マイクロソフトで働くことは、「自己資金を得ることと、ほかの分野に進み、ほかの人から学ぶためのスキルを構築することの組み合わせだ」とホーキンス氏は話す。それに、柔軟性があって、設立しようとしているスタートアップの支えにもなるという。

複数の収入源を得たり、フリーランスやパートタイム雇用を組み合わせたりできる「ポートフォリオキャリア」に向けた動きは、数年前から人気のトレンドとなってきた。だが、パンデミックにより、収入の不安定化と、スキルの多様化や拡大への新たな興味が理由で、こうしたキャリアパスへの関心が高まることになっている。経済協力開発機構(OECD)は、2030年までに専門職従事者の50%が、ポートフォリオキャリアを選択すると予測すらしている。

経済的な安定と自己啓発を求めて



「これまで、人々はひとつの職業に進み、夢は諦めてきた」と語るのは、仕事の役割をシェアする人々のマッチングを行うサイト「ロールシェア(Roleshare)」の共同CEOで共同創設者のソフィー・スモールウッド氏だ。「人々は今、長生きして長く働くことを期待されているため、学び続けて有意義な仕事をする必要がある。同時に異なる職業を掛け持ちするのは、キャリアの移行手段となる。人々はキャリアのポートフォリオを持つことで、生計を立てて責任を持つ必要がある人生の一時点で、自分が何をすることが好きなのかを発見できる」。

ポリー・ハウデン氏も、複数の職を掛け持ちしている。小売マーケットプレイス「ノット・オン・ザ・ハイ・ストリート(Not on the High Street)」でパートナー製品担当責任者として週に3日働き、週の残りの日は、スタートアップのロールシェアで最高製品責任者として働いている。

ふたつの役職で、経済的な安定と自己啓発を求め、自分の興味を満足させている、とハウデン氏は話す。

「スタートアップで働くと、戦略レベルでの仕事と、たとえばエンジニアリングチームの優先順位管理のような詳細面とのあいだで、非常に心地よい切り替えができる」とハウデン氏はいう。

ふたつの役職に就くことは、絶えず学び、強力な人脈を築き、決して飽きないことを意味する。「普通なら、こういうことは順を追って起きるが、複数の仕事を並行して行うことで、こうした学習が加速される」と、ハウデン氏は付け加えた。

スモールウッド氏は、雇用主が、ポートフォリオキャリアを持つ従業員と協力する必要があると思っている。企業がもっとも優れていて忠実な人材を惹きつけたりつなぎ止めたりしたいのであれば、柔軟性に関するニーズに応えなければならない、と同氏は付け加えた。

異なる役職を掛け持ちする人々



ポートフォリオキャリアを求める人向けのプラットフォーム「ザ・ポートフォリオ・コレクティブ(The Portfolio Collective)」のCEOで共同創設者のベン・レッグ氏は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、異なる役職を掛け持ちする人が増えている、と指摘した。

レッグ氏によると、ロックダウンが始まって以来、英国と米国で設立された新会社数は、前年比で40%増加し、そうした新会社の大半は、兼業の専門職によるもので、その履歴には、陸軍将校、投資家、メンター、Google欧州法人のCOOが含まれているという。「ポートフォリオキャリアの増加は、常勤職の減少(経営破綻やコア従業員を減らす企業)が影響したうえに、専門職に就く大勢が、在宅勤務のほうが、夢見たキャリアを容易に築ける(会社での単調でつまらない仕事を免れる、融通がもっと利く、所得が高い、個人的充足感が大きい)と気付いたからだ」とレッグ氏は語る。

ザ・ポートフォリオ・コレクティブでは、専門職の人たちが、ホームオフィスの設計やメンタルヘルス、動物の健康に関するイノベーションといった分野でポートフォリオキャリアをスタートするのを目にしている、とレッグ氏は付け加えた。「専門職の人の大半では、そのほうが、企業での仕事にしがみつくよりもはるかに幸せで充実したキャリアと生活になる」。

異なる役職を掛け持ちしているエマ・ティアン・ウィリアムソン氏は、31歳で、スコットランドのアビモアに住んでいる。パンデミック以来、ヨガや瞑想のオンライン指導と並行して、マーケティングコミュニケーションコンサルタントの仕事を始めた。マインドフルネスの指導員になるためにオンライン学習もしている。「パンデミックの影響で、いつも夢見ていた多様な職業を探る自由が増えた。人々はオンラインやリモートで仕事をすること対してよりオープンになっており、おかげで顧客と機会が増えた。スコットランド高地にある小さなコテージから仕事ができる。そんな場所から企業を経営することになるとは、これまで思いもしなかった」。

生活のすべての分野に充足を



フリーランスのマーケターをブランドと結びつけるエージェンシー、ウィー・アー・ロージー(We Are Rosie)で戦略およびインサイト担当責任者を務めるジェシー・カーナン氏は、企業での役職に取り組みながら、それとは別に自分のビジネスを構築しているポートフォリオキャリアの人々をよく見ると語った。「副業のトレンドが進化してきて、そこには透明性の要素がある。人々は企業内で働く一方で、非常にオープンにソーシャルメディアで独自のビジネスを運営している。人々は解放感を味わっており、一度にふたつの道を歩む能力と、それに全力を注ぐことができるのであれば、固定観念に支配されない選択肢がある。

ポートフォリオキャリアに向けた動きが起きている背景には、生活のすべての分野に充足を求める人が増えていることもある。

「人々は、自分自身を理解したいといっそう渇望し、それを追求している。幸福と(自分自身の)理解を何よりも重視している。基本的に、人々はより真剣に生活設計を行っている」とホーキンス氏は付け加えた。

[原文:Rise of ‘portfolio careers’: Pandemic spurs more people to embrace multiple vocations

SUZANNE BEARNE(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:長田真)