近年(2021年現在)、海上自衛隊との関係をより深めているカナダ海軍、その現役司令官(取材時)が海上自衛隊、アジア太平洋地域、コロナ下の活動などについて語ってくれました。

カナダ海軍にとっての海上自衛隊とは?

 2021年現在、日本は北朝鮮や中国という周辺国からの軍事的脅威に対して、従来の日米同盟のみならず、共通の価値観を持つそのほかの国々との連携を強化することによって対応しようとしています。そうした取り組みの下で、とくに海軍種間での協力関係が強まってきているのがカナダです。

 今回は、そのカナダ海軍の第36代司令官であるアート・マクドナルド提督に現状の認識や新型コロナウイルスに対するカナダ海軍の対応などについて聞きました。なお肩書は取材当時のもので、マクドナルド提督は2021年1月14日付で国防参謀総長(Chief of the Defence Staff。カナダ軍におけるいわゆる「制服組」のトップ)に就任しています。


カナダ海軍第36代司令官 アート・マクドナルド提督。2021年1月、国防参謀総長に就任した(画像:カナダ大使館)。

――近年、カナダ海軍は海上自衛隊との連携を強化していますが、マクドナルド提督は海上自衛隊をどのように見ておられますか?

 我々は、海上自衛隊とはKAEDEX(カエデックス。日加合同演習の名称で、カナダの国旗にあしらわれているメープルと日本語の楓をかけたもの)などで何度も緊密に協力してきましたが、その経験は常に建設的なものでした。彼らは非常にプロフェッショナルな組織であり、私たちは彼らと常に協力することを光栄に思い、最高の訓練を実施し、スキルを共有し、そして地域の海上の平和と安全の促進に努めています。

 ここで明言しておきたい重要な点は、ルールに基づく国際秩序の推進や多国間国際システムへの積極的な関与など、カナダと日本は多くの共通の価値観を持っているということです。カナダ海軍と海上自衛隊との友好的かつ発展中の関係は、まさしく両国間の活発な外交関係を反映しています。

――インド太平洋地域、とくに東シナ海および南シナ海において、ルールに基づく国際秩序に対する挑戦、および力による現状変更の試みが行われています。カナダはこの状況にどのように対応していくのでしょうか?

 カナダは、国際法の基本的な原則を遵守することを約束しています。これは私たちにとっては非常に重要なことで、何故なら私たちの共通の繁栄は開かれたシーレーンを基盤としており、海上自衛隊のようなパートナーと共に、カナダ海軍は海上の自由を維持する義務を果たしているためです。

現在のインド太平洋地域の状況をカナダはどう見ている?

 実際に、2019年6月3日に東京で開催された日加防衛相会談において、両国は防衛協力に関する共同声明を発表し、カナダがパートナー国と協力して、インド太平洋地域におけるルールに基づいた国際秩序構築を推進することに言及しています。この会談において、カナダのハルジット・シン・サージャン国防大臣と日本の岩屋 毅防衛大臣(当時)が、関連する国連安保理決議に基づき、北朝鮮が保有するすべての大量破壊兵器とあらゆる射程の弾道ミサイルに関する「完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄(CVID)」に向けた合意について確認したことを、私は強調したいと思います。


カナダ海軍のフリゲート「ウィニペグ」にクロスデッキする海上自衛隊のSH-60K哨戒ヘリコプター(画像:カナダ海軍「ウィニペグ」Facebookページより引用)。

 両大臣はまた、最近の北朝鮮による短距離弾道ミサイルの発射についても意見を交わし、こうした動きについてそれぞれの防衛当局が継続して警戒することを確認するとともに、北朝鮮が引き続き国連安保理決議に違反しているとの見解を共有し、決議の完全な履行のために、北朝鮮籍船舶が関与する違法な瀬取りを含む北朝鮮による制裁回避に対処するために協力していく意思を再確認しました。

 この会談におけるもうひとつの重要な点は、両大臣が東シナ海と南シナ海の状況について深刻な懸念を表明し、南シナ海の係争海域の軍事化を含め、緊張をエスカレートさせ、地域の安定とルールに基づく海洋秩序を損なう可能性のある一方的な行動に強く反対したことです。

 両大臣は国連海洋法条約をはじめ関連する国際法に基づき、非軍事化および自制、航行および上空飛行の自由、紛争の平和的解決を追求することの重要性を再確認しました。さらに南シナ海に関し、「行動宣言(DOC。2002〈平成14〉年にASEANと中国が南シナ海問題の平和的解決のために署名した政治宣言)」の完全かつ実効的な実施を求め、また「行動規範(COC。法的拘束力をともなう南シナ海での行動に関するルール。現在ASEANと中国が策定に向けて公式協議を続けている)」は国連海洋法条約を含む国際法に整合的であり、COC交渉に参加していない各国の権利を害さないものであるべきという点を強調しました。

新型コロナウイルスが流行する中でカナダ海軍はどのように活動している?

 我々海軍としては、今後2年間にわたってカナダ軍の艦船、航空機、人員を定期的に派遣する「オペレーションネオン(NEON。カナダ軍が実施している、北朝鮮による瀬取り監視作戦)」を通じ、「国連安保理決議で禁止されている違法な海上での活動に対応するための多国間イニシアチブ」への参加期間を延長するというカナダ政府の決定を支援していきます。


2020年の「リムパック」に参加する「ウィニペグ」(画像:アメリカ海軍)。

――カナダ海軍のフリゲート「ウィニペグ」は、新型コロナウイルスの感染が拡大する2020年9月から3か月以上にわたって、日本近海を含むアジア太平洋地域に展開しました。こうした特殊な環境下では、乗員と家族とのコミュニケーションが特に重要だと思われますが、「ウィニペグ」ではこれをどのように確保したのでしょうか?

 海軍にとっての成功の核となるのは人であり、それはいまも昔も変わりません。カナダ海軍は、隊員とその家族が身体的、心理的、社会的に十分なサポートを受け、多様性と弾力性を備えていることを保証することに、これまでにないほどの重点を置いています。

 我々は、海軍の家族が隊員を強く支えていることに感謝し、任務に就いている者が故郷の愛する人たちとコミュニケーションをとるための繋がりを確保できるようにしています。たとえば、「ウィニペグ」の乗員は、SNSや電話、ビデオ通話などを通じて、家族と連絡を取り合っていました。さらに「ウィニペグ」では、乗員の素晴らしい活動を紹介するためのFacebookページも開設しています。

 また、新型コロナウイルスの流行という観点から、カナダ海軍では隊員の健康を非常に重要視しています。新型コロナウイルスの流行が始まって以来、カナダ海軍は海上および地上部隊に対するリスクを減少させ、隊員とその展開能力を守るために、艦内での清掃の増加や、乗員らの個人的な衛生管理を含む、いくつかの予防措置を必要に応じてとりました。

 さらに洋上への展開に先立ち、艦内の健康と安全を保障するべく、公衆衛生当局からの助言に基づいて、艦艇の乗員には一定の隔離期間を設け、乗艦前には新型コロナウイルスの検査を行い、さらに寄港地における乗員の上陸を禁止することで、新型コロナウイルスが存在しない艦内空間を維持しました。

カナダにとって重要な日米共同演習「キーンソード」

――昨年(2020年)、「ウィニペグ」は日米共同演習「キーンソード」に参加しました。これはカナダ海軍にとって、2018年に続く2回目の参加となります。カナダ海軍にとって、この演習に参加する意味とは何でしょうか?

「キーンソード」のように、立場を同じくする国々やパートナー国と共に訓練することの価値は侮れません。こうした訓練への参加は、新しい戦術を垣間見ることができるだけでなく、アジア太平洋地域の安全保障と安定に不可欠なパートナーシップを強化しながら、カナダ海軍が適応性を維持できるようにするのに役立ちます。また、参加国の軍人同士が大切な個人的な絆を築き、それがお互いの信頼につながります。


「ウィニペグ」も参加した2020年の「キーンソード」演習の様子(画像:カナダ海軍「ウィニペグ」Facebookページより引用)。

 カナダ海軍は、2018年の「キーンソード」にオブザーバーとして初参加しました。しかし、今回は「ウィニペグ」が実際に演習に加わりました。「キーンソード」では、対潜水艦戦訓練、「ウィニペグ」が搭載するヘリコプターCH-148「サイクロン」と日米艦艇のヘリコプターとのクロスデッキ(お互いの航空機をお互いの艦艇に着艦させること)、アメリカ海軍の補給艦との洋上補給訓練、そして最後に大規模な洋上戦闘訓練を実施しました。

 戦闘という観点から見ると、「キーンソード」はおもに対潜戦に焦点を当てているので、同演習はそうした能力を研ぎ澄ますと同時に、任務を遂行する際に他国軍や打撃群と一体となり行動するための艦艇の能力を磨く機会でもあります。

「キーンソード」は、参加部隊の戦闘能力を強化する大規模な洋上戦闘訓練で幕を閉じました。「ウィニペグ」にとって、これは6か月間の努力の集大成でもあります。また、我々の乗員が、「リムパック(環太平洋合同演習)」で学んだ教訓を基にして、どれだけの成果を挙げてきたかを確認し、これらの部隊と一体となり、現在世界で最も戦闘能力の高い軍隊を相手に実力を試すことができる機会でもありました。

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 カナダ海軍は、新型コロナウイルスの世界的流行という極めて厳しい状況下においても、万全の対策を講じつつ、北朝鮮の瀬取り監視などを通じてインド太平洋地域における活動を今後も継続していきます。その際に重要となるのは、日本をはじめとする地域のパートナー国であるということ、そしてそうした国々とは実際の演習などを通じて連携が強化されていることが、改めて認識できました。