Nikon Z 6がBlackmagic RAWデータ撮影可能に! 失敗できない撮影に一役買う嬉しいアップデート

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ニコンは2020年12月17日、ミラーレスカメラ「Z 6」、「Z 7」のファームウェアVer. 3.20へのアップデートを公開した。このアップデートでは、Blackmagic Design製のモニターレコーダー「Video Assist 5インチ 12G HDR」および「Video Assist 7インチ 12G HDR」においてBlackmagic RAW形式での動画収録に対応した。

Blackmagic RAWへのアップデートを行うためには、有償のRAW動画収録の機能アップデートが必要だが、以前「ProRes RAW」対応の有償アップデートを行っていれば、今回のアップデートは無償での提供となる。


ミラーレスカメラNikon Z 6


以前Z 6のProRes RAW撮影についてレポートを行った際に、Z 6のフルサイズ4K動画撮影時のファイル形式の柔軟性について紹介したが、今回もまたZ 6と新機能のBlackmagic RAW収録についてレポートしてみたいと思う。

その前に、動画のRAW収録について少し説明しておこう。
Z 6/7および最新のZ 6II/7IIをはじめとする多くのミラーレスカメラ、デジタル一眼レフ、そしてスマートフォンなどは、H.264というコーデックで動画を収録する。

このコーデックというものは、限られた容量のメモリーカード、内蔵ストレージに動画を収録するための圧縮方法である。動画収録の場合、1秒間に30枚の3840×2160ドット(4Kサイズ)の画像と音声を記録していくわけだが、もしこの画像を圧縮なしで収録すると1枚当たり約24MBのファイルを1秒間に30枚記録する必要がある。

単純計算で1秒間に720MBの容量となり、10秒間の記録だけでも7.2GBという巨大なファイルサイズとなる。
さらに1時間の記録をすると、およそ2.6TBという巨大なファイルとなってしまい、メモリーカードやスマートフォンの内蔵ストレージでの記録は事実上、不可能となると言ってもいいだろう。
ファイルサイズだけではなく、1秒間に720MBというファイルを転送・記録するための超高速な記憶媒体が必要となる。これを実現するためにはメモリーカードや内部ストレージに、PCの内部バス直結のSSDのような速度をもつ記録媒体が必要となるのである。

そこで適用されるのが、動画の圧縮技術なのである。
前述したH.264コーデックは圧縮率を個別に設定することで、小容量のメモリーカードやスマートフォンの内蔵ストレージでも、4Kの映像を収録すること可能になったというわけなのである。撮影したデータはPCやテレビなどでも再生可能で、今では汎用性の高いコーデックとなっている。

一方で、動画のRAW収録というものは何のために必要なのだろうか?
H.264のコーデックは映像や音声データを圧縮し、多くの機器で収録、そして再生を可能とするものと説明した。

圧縮記録ではデータ容量を小さくして、多くの機器で使えるようになるというメリットがある。ところが圧縮する際に色情報や解像度、そして階調表現など多くの情報を失うというデメリットもある。とはいえ、失われた情報は我々がその映像を視聴する上で、それほど気になることないよううまく間引かれている。

では、どういうときにそのデメリットによって影響を受けるのか?

それは映像の編集時に起こるのである。
例えば、撮影当日スッキリとした青空ではなかったが、映像イメージとして「真夏の青空」を希望していた場合、編集時に空の色を調整した印象的な青空を作り上げる。映像イメージの濃い目の青空に近づけていくと、圧縮時に情報が失われているため青空の階調が足りず青い縞模様のようなグラデーションとなってしまうことがある。


青空が薄かったため、H.264で収録したデータに対してトーンカーブや彩度を極端に調整したところ、空にまだら模様が現れた



Blackmagic RAWで収録したデータに対して、トーンカーブや彩度を強めに何度も掛けてみたが、明るい部分のグラデーションや、青空の破綻もなく素材として余裕がまだある印象だ


H.264をはじめとする圧縮を前提としたコーデックは、一般的な機器での再生を主としたものであり、収録した映像を編集するという工程を想定していないため、こうした問題が表面化してしまう。とくに圧縮率を高めた場合、データ損失も大きくなるので、本来有るべき階調や色を取り戻すことが難しくなるのである。

映画やコマーシャル映像、ミュージックビデオなどクリエイティブな分野では、編集を前提としたコーデックで収録する。階調や色、明るさなど多くの情報を含む収録データは、H.264とは比較にならないほど大きなファイルサイズとなるが、専用の収録機器や高速なメディアでそれを実現している。

このように収録のひとつをとっても個人向けと業務用では、制作に掛かる機材のコストの違いがあることがわかる。

さて、静止画の世界でもJPEG(ジェイペグ)とRAW(ロー、メーカーごとにファイルの拡張子がことなる)それぞれで撮影可能だ。JPEGのメリットは、SNSやメールなどでやりとりできるコンパクトなファイルサイズであること、多くの機器で表示可能な汎用性の高さにある。

しかし、JPEGもH.264同様に解像感や階調、色情報などを削り落としてファイルサイズを小さくしている。
簡単な色補正程度では問題はないが、高度な作品作りとなると失われた情報を復元するだけで一手間かかってしまう。

そこで用いられるのがRAWデータでの撮影だ。
RAWデータはイメージセンサーが取り込んだ情報を記録したものであるため、豊富な階調や色情報をもとに編集作業を行うことができる。失われた情報を補完するために編集作業をする、という無駄を省くことができると言うわけだ。

動画の世界でも同様に映像をRAW形式で収録して編集することも可能としている。これも各カメラメーカー独自のフォーマットであるが、多くの場合は静止画のRAW画像を連番で1コマ1コマ記録し、編集時に一本の映像としてまとめるという方法が用いられている。

高画質を得られる代わりに、巨大なファイルと映像編集時に1コマ1コマRAW現像をするマシンパワーを必要とするため、個人向けとしては現実的ではない。

業務用としてもそして個人でも取り扱いが簡単なRAW収録を可能とした1つの解がアップルコンピューターの「ProRes RAW」、そして今回のアップデートで対応したBlackmagic RAWだ。

RAWデータの編集性の高さと、記録メディアにあわせた圧縮率の選択など、動画ファイルとしての扱いやすさを特徴としている。

さらに、編集に特化したカメラメーカー独自の動画コーデックよりも、細かな階調を取り出せることが動画RAW収録のメリットでもある。ちなみにRAW収録も、動画ファイルとして観た場合RAWコーデックという位置づけとなる。

動画コーデックのデータの違いをみてみると、H.264コーデックが256階調(8ビット)であるのに対して、カメラメーカーや編集を前提とした低圧縮コーデックが1024階調(10ビット)もあるので、編集の際に破綻することがない。とはいえ、明らかに露出が違う場合など、データとして再現が難しい状況もあった。

RAWコーデックの場合は、イメージセンサーのデータが4096階調(12ビット)で記録されているところに、ISO感度(露出)やホワイトバランスを後から調整可能であることが強みである。収録時に白飛びや黒つぶれしていない限り、下ごしらえとして編集時に露出やホワイトバランス、映像を調整しておけば、豊富な階調を利用したその後の編集の幅が広いのである。


昼白色の5000ケルビンではやや青いがもとの色温度に近い



白熱灯に近い3000ケルビンでは、青みがより強くなった。RAW収録ではない場合、この映像から色情報を復元するのはかなり難しい



9000ケルビンまで上げると黄色が強くなり、夕方のようなイメージ作りに近付く


ProRes RAWとBlackmagic RAWはそれぞれコーデックとして特徴を持っており、どちらが良い悪いというものではないが、どちらを選ぶかは編集ソフトや他の機材との兼ね合いで選ぶことになるだろう。
例えば、アップルコンピューターのMacBookで「FinalCut Pro」を使っているなら、ProRes RAWを選ぶしかない、またアドビシステムズの「Premiere Pro」やグラスバレーの「EDIUS X Pro」を使っている場合も同様だ。

Blackmagic RAWを編集する場合はBlackmagic製の「DaVinci Resolve」を使用する。汎用性という面では対応する編集ソフトが多いProRes RAWの方が高いが、自分もしくはプロダクションがどの編集ソフトを持っている、もしくは使うのかで選んだ方がコストを抑えることができる。

というのも、有償アップデートを行ったZ 6/7単体ではRAW収録をすることはできず、別途外部のモニターレコーダーを使用する必要がある。つまり、収録するためには予算としてプラス最低でも10万円を見込んでおく必要がある。

そうなると、「今回はProRes RAW」で、「次はBlackmagic RAW」でという運用は難しくなるだろう。どう運用するかに応じて機材をあわせる必要があるため、必然的にどちらかのコーデックを選ぶこととなるだろう。

これは主観となるが、ProRes RAWはMacでもWindowsでも対応する編集ソフトが多いこと、Ninja Vなど比較的低コストで機器を揃えることができることから、こちらの方が扱いやすい印象だ。

一方のBlackmagic RAWは、現状では対応する編集ソフトがDaVinci Resolveのみとなるが、無料版からはじめることができるため導入のハードルは低い。また、編集ソフトと対になっていることもあり、アップデートによる画質の向上やRAWを扱っていることを忘れるような軽快動作など、撮影後のメリットが多いように思う。

この、2つのコーデックが1台のカメラで選べることがZ 6/7の汎用性の高さであることも事実だ。
通常の撮影は本体のみで、そして大事な撮影や業務など高画質な素材を収録際は外部収録によるN-LOGやRAWなど選択肢の多さが他のミラーレスカメラにはない特徴と捉えることができる。




さて、今回Z 6でBlackmagic RAW収録に使用した機材は5インチモニターのBlackmagic Video Assist 5インチ 12G HDRだ。HDMI、SDI接続による4K HDR入力に対応したビデオモニターと、映像を収録するためのSDカードスロット、外部SSDを使って収録可能なUSB Type-Cコネクタを持つ。




バッテリーはソニーのインフォリチウムバッテリー「NP-F」が2つまで取り付け可能だ。大容量のNP-F970互換バッテリー1本でBlackmagic RAWを1時間以上収録可能だった。

収録するためのメディアはSDカードよりも高速で大容量、コストパフォーマンスが良い1TBのポータブルSSDを使用した。なお、ATOMSの5インチモニターレコーダー「Ninja V」で使用していたカートリッジに取り付けたSATAの1TB SSDをUSB Type-Cケーブルで接続したところ、こちらも問題なく収録媒体として利用することができた。


Z 6


そのままではこうしたSSD固定アダプターを取り付けることはできないが、本体の周りにケージと呼ばれる「ガワ」を取り付けることで、ネジやホットシューアダプターを固定可能となる

今回は、ライブイベントでの収録で使用した。権利の関係で公開することはできないが、収録中、収録後感じたことをまとめてみたいと思う。




こうしたイベントでの撮影は、一番明るいライトと暗転の露出差を考慮した露出を決めることが重要だ。リハーサルからテスト撮影ができれば露出決めをすることが可能なのだが、現地に着いていざ本番のような状況ではある程度カンで設定し、状況に応じて修正するという使い方になる。こうした撮影では露出オートで撮影すると白飛びが酷い映像になってしまうので、露出は必ずマニュアルで行った方が良い。

とはいえ今回はRAWでの撮影ということで、編集を前提にまず白飛びしないことを前提に見た目より暗の露出設定とし、通しで収録してみることにした。撮影時にあれこれ悩む必要がないのは運用が楽で良い。




撮影時のもう一つの大事な設定が、ホワイトバランスだ。きらびやかなスポットライトや、イメージ作りのカラーを使ったライティングはライブ演出の重要な要素だ。こうした光源が変化するライブではあるが、基本的な照明の色温度は1つに設定しておく必要がある。タングステン光(3000ケルビン)やLED照明を中心とした5000ケルビンなど、会場にあわせてモニターで確認しながら調整する。

ホワイトバランスを大きく外ししてしまうと、肌色が紫色になったり緑色になったりと修正するだけでも一苦労となることもある。

こうした撮影が難しい現場でも、RAWで収録しておけば静止画と同様に動画編集ソフトでホワイトバランスを思い通りに調整することができるのはありがたい。最後の微調整で肌色を少し寒色系に振ってクールなイメージを強調するなど、画質を損なわずにアーティストの方向性にあわせることができるのが安心できるのである。

撮影の設定で注意点がひとつある。Blackmagic RAW収録時のZ 6は、N-logの収録と同じ挙動となるため、ISO感度が最低感度800からスタートする。屋内での撮影であれば問題ないが、屋外での撮影では明るすぎるため絞り込んで撮影するかND(減光)フィルターが必須となる。

何件かのライブイベントで撮影することで運用の方法を見つけることができたが、気になるのは巨大なRAWデータのファイルサイズとバッテリーだ。収録中はできるだけVideo Assistのバッテリー残量とSSD残量を気にして収録していたのだが、肝心のZ 6のバッテリー残量を見落としてしまい、交換のタイミングを失ったことから収録の最中に電源が落ちてしまうと言うことがあった。

幸い撮影は外部レコーダーであるVideo Assistで行っていたため、HDMI信号がなくなっただけで、データが飛んでしまうということはなかったが、これはあきらかにこちら側のミスなので対策を講じる必要があることを学んだ。

シンプルに、Z 6本体のバッテリー残量に気を使いながら運用するということが一番の解決策だが、複数のカメラを同時に動かしていると難しい状況もある。そこで、Z 6のUSB給電機能を利用することにした。

大容量のモバイルバッテリーをUSB Type-C端子に接続し、給電しながら撮影するという方法だ。


Z 6の左から出ている赤いケーブルがモバイルバッテリーと接続しているケーブルだ


この方法なら、ライブイベントの開場前にセッティングをしておき、待機中に充電しておくことができる。また、撮影中も給電が続くため電源に関しては心配することない。

こうして収録したデータは、ホワイトバランスの調整やトーンの調整、彩度などの調整をすることで素材として取り出すことができた。Blackmagic RAW自体が動画のコーデックとしても良くできており、GPUを利用してリアルタイムで再生・編集可能なので、オケやマイクの音をあわせ、その後の細かい編集作業を快適に行うことができた。

ちなみに編集に使用した機材は6コア12スレッドの第9世代Core i7搭載ノートPCで、GPUはNVIDIA GeForce GTX1650というエントリー向けのものだが軽快に動作した。




なお、Z 6のRAW出力時の最低感度がISO800と言うこともあり、シャドー部分から階調を引き出そうとするとノイズが多く階調を失ってしまう印象だ。撮影時にアンダー目で撮影したことが裏目に出てしまった。そこで、シャドー部分を持ちあげないようにして使用することで対応したが、時間を掛けてしっかりとノイズリダクション処理を行うことで、こうした状況を改善することは可能だ。


かなり極端にシャドー部を持ちあげるとノイズが浮かび上がってしまう



ノイズリダクション処理でその問題は解決できる


Blackmagic RAWを編集して思ったのは、ビデオ映像というより写真のトーンそのままで、まさにRAW現像をしているような楽しさがあった。これだけの情報量があるので、撮影前にゼブラの設定でハイライトをきっちりと追い込んで、明るめの露出設定で撮影することが高画質の秘訣と言えそうだ。

Z 6+Blackmagic RAW収録したデータから、SDR映像と豊富な階調を利用したHDR映像を作成してみたので掲載しておく。


4K30P SDR(通常トーン)映像
動画リンク:https://youtu.be/PQx3obOpLSA



4K30P HDR(ハイダナミックレンジ)映像
動画リンク:https://youtu.be/aadDkFiLXgk





今回Z 6とVideo Assistを使用して感じたのは、Z 6の外部モニターとしてピントチェックや構図の設定、そして収録まで行えるというのは現場で重宝する。

ただし、収録のために必要な機材は決して安いわけではないので、趣味で気軽にはじめるにはハードルが高い。そうなるとターゲットは高画質で記録したいハイアマチュアや、映像制作を請け負うプロ向けとなる。

今回のアップデートでProRes RAWだけではなくBlackmagic RAWに対応したことは、動画カメラとしてのポジショニングに対するニコンの本気度が感じられる。

一方で、単体でBlackmagic RAWで収録できる「Blackmagic Pocket Cinema Camera 4K/6K(BMPCC4K/6K)」よりも機材が多くなり、バッテリーの管理など気を使う部分もあった。

オートフォーカスに関しては、コンティニュアスオートフォーカスが使えないBMPCC4K/6Kにはない手軽さがあるため、Z 6のオートフォーカス機能は魅力的であり、そこに需要があるように感じた。

新モデルのZ 6II/7IIを発売しても併売し、こうしたアップデート行うということはユーザーとして嬉しい。
他社では旧機種のアップデートがすぐに終わってしまうことがあるが、併売している製品のアップデートは今後も続けて欲しいところである。


執筆  mi2_303