KDDIの新料金プランに消費者は失望? 「データMAX 5G with Amazonプライム」に不満の声が集中した理由とは

●新料金プラン発表も消費者は「がっかり」の反応
KDDIは12月9日、新たな料金プランとして、Amazonプライムの利用料金が含まれた「データMAX 5G with Amazonプライム」を発表しました。
基本料金は月額9350円(以下、すべて税別)で、12月11日より提供が開始されています。
またこれに併せ、これまで提供されてきた5G対応のパックプランにAmazonプライムを追加した、
・データMAX 5G Netflixパック (P):12月11日提供開始
・データMAX 5G ALL STARパック (P):2021年1月以降提供開始
これらも用意されます。
しかし、これらの料金プランの発表について、ネット上では「残念だ」、「期待していたものではなかった」という声を多く目にします。
その背景には、NTTドコモの新料金プラン「ahamo」の影響があります。

それぞれの料金プランは各種割引によって非常に安価に利用可能になるが……
12月3日に発表されたNTTドコモの新料金プラン「ahamo」は、
・オンライン専用(契約やプラン変更をオンラインのみで行う)
・サポートも原則オンラインのみ(専用アプリからのサポート)
このように各種手続きやサポートをオンライン化することで、
データ通信容量20GBで月額2980円という非常にリーズナブルな価格を実現して話題となりました。
衝撃的な安さと割り切ったサポート体制などは、KDDIやソフトバンクといった移動体通信事業者(MNO)のみならず、格安SIMなど、低料金を武器とした仮想移動体通信事業者(MVNO)サービスを展開する通信キャリアにも大きな衝撃を与えました。
そのため、
今後KDDIやソフトバンクでも、NTTドコモに対抗した料金プランの発表があるのでは?
こうした予想もされていた中での発表会だっただけに、
今回の「値下げどころかセットプランで値上げをしてきた」内容に、多くの人々が驚くとともに、落胆の色を隠せなかったのです。

NTTドコモ「ahamo」の料金は、業界構造を劇的に変えてしまうほどのインパクトだった
●“時代遅れ”な割引てんこ盛り戦略
データMAX 5G with Amazonプライムが不評な理由はそれだけではありません。
本プランは月額9350円ですが、2年契約や家族割プラス、auスマートバリューなど、数多くの割引施策を適用することで、最大月額3760円で利用できるようになります。
学割適用時には、さらに安い月額2460円から利用できます。
しかし、このような数多くの割引を適用して初めて割安感が出る料金プランは、非常に分かりづらいものです。
それだけではなく、最大割引を適用できるユーザーが非常に限られている点にも問題があります。

大量に割引施策があるせいで、自分がいくらになるのか理解しづらい
KDDIは、発表会でも公式サイトでも割引を最大まで適用した料金を大きくアピールしています。
しかし割引施策の中には、6ヶ月間や12ヶ月間といった期間限定のキャンペーンも含まれています。
このため各キャンペーンが終了すれば、実際の料金が契約時よりも確実に上がってしまう点も不満が集まりやすい理由です。

割引最大適用時の最低料金だけを大きく表示する手法は、実際の契約額や長期利用時の金額との乖離が大きくなりやすい
NTTドコモのahamoが料金プランに関連する一切の割引施策や期間限定のキャンペーンを廃して、分かりやすくシンプルな料金表示であったことと比較すると、
KDDIの新料金プランの戦略に「古さ」を感じるのは否めません。
※ahamoは事前エントリーでのポイントキャンペーンのみ行っているが、料金プランに直接関わるものではない。
ahamoによって「分かりやすい料金表示」を知ってしまった消費者にとって、
大量の割引で見かけ上の安さを演出する料金表示は「時代遅れ」と映ってしまったのです。

数多くのサービスを選べるのはとても良いことだが、基本料金とは別のオプションとして用意したほうがシンプルで分かりやすいのではないだろうか
●ちぐはぐなKDDIの「若者像」
発表会のプレゼン内容にも、実際の料金プランやその戦略と噛み合わない、ちぐはぐさを感じる場面がいくつかありました。
KDDIはデータ通信使い放題といった大容量プランの必要性について、現在の若者の利用状況を提示し、
・20代の若者の61%が毎月20GB以上利用している
・使い放題プランは毎月約30GBほど利用されている
・20代に限ると毎月約36GBも利用している
このように、20代の若い世代のデータ通信利用量の多さを強調していましたが、実際の料金プランでは家族割プラスの割引率の高さが目立っており、親世代との同居や、契約をまとめることが前提となっている点が気になります。

若者世代のデータ通信容量の多さから、大容量プランの必要性を訴えるKDDI
一方NTTドコモはahamoの発表会で、20代前半のユーザーの約5割が、料金の支払いを家族から自分に切り替えている点を指摘し、「“個”にぴったりなプラン」を目指して、家族割などを必要としないシンプルで低料金なプランにしたと語っています。

家族割引前提ではなく、個人の単独契約でも十分に安いプランを目指したahamo
KDDIのそのほかの割引施策を見ても、
光回線やWi-Fiホームルーターとのセット割である「auスマートバリュー」など、一人暮らしの若者はあまり利用しないものもあります。
スマートフォン単体で36GB前後も使うような若者ユーザーの場合、ネット利用の殆どがスマートフォンで完結していると考えられるため、ますます光回線などの契約を前提とした割引施策は無意味なものとなります。
データMAX 5G系の各種セットプランは、若者個人をターゲットとし、オンラインサービスの利用量の多さに着目した料金プランであるにもかかわらず、その割引施策では家族単位での利用を重視するという矛盾を起こしています。
多くの消費者から「表示価格で使えるわけがない」、「詐欺じゃないか」と批判されてしまう理由はここにあります。
ユーザーや利用シーンの調査と想定が甘く、利用実態に即した割引内容になっていないのです。
それに加えて、NTTドコモからシンプルな低料金プランが発表された直後の発表であったことから、
両者を比較した消費者から不満の声が出るのは避けられなかったと言えます。

一人暮らしを始めたばかりの新社会人がauスマートバリューを契約するだろうか
●他業種との提携にあるリスクと難しさ
今回のKDDIが、このような料金プランをNTTドコモのahamo発表後に出さざるを得なかったのにも、理由があります。
今回の料金プランの発表が告知されていたのは12月1日であり、NTTドコモのahamoが発表されるよりも以前であったからです。
さらに業界関係者によれば、ahamoは1年近く前から検討と準備が行われてきたプランであり、オンライン専用である点や専用アプリによる契約手続きなど、各種システムの構築にもかなりの時間をかけていました。
それだけに、KDDIがahamoの発表を受けて、
1週間あまりで同様のシステムや料金のプランを用意することは非常に難しかったものと思われます。
また、今回の料金プランはAmazonとの提携施策であり、KDDIの一存では変更ができません。
自社のみで完結するプランであれば変更や発表延期も可能だったかもしれませんが、他社との提携事業である以上、急な変更や調整は困難です。
KDDIとしては、業界情勢がどうであろうと今回の料金プランは発表せざるを得なかったという事情が垣間見えます。

通信業界の激動に追従できない提携施策であったとも言える
●付加価値に依存するauに勝機はあるか?
通信業界は今、大激変と新たな料金戦争の只中にあります。
総務省による通信料金値下げ要請は、消費者の声を背景に圧力や強制に近いものに変化しており、その結果として料金プラン改革を断行したNTTドコモは、NTTの完全子会社となる道を選択しました。
その是非はともかく、現在はさらに状況が進み、ahamoのように必要な通信量をシンプルかつ低料金で提供する通信料金プランが登場するに至っています。
この流れはMNOに限らず、MVNOでも起きています。
MNOの料金値下げの影響は、低価格な料金を強みとしていたMVNOの最大メリットを直撃し、さらに安くてお得な料金プランでなければユーザーにアピールできなくなったからです。
12月10日には日本通信が、データ容量20GB(NTTドコモのahamo開始までは16GB)で月額1980円となる「合理的20GBプラン(今は16GB)」を発表し、発売を開始しました。
MNOだけではなくMVNOまでをも巻き込み、早くも消費者が納得できる通信料金の競争が本格化しているのです。

これまでであれば3〜5GB程度しか使えなかったMVNOの料金帯で、20GBも使えるようになる
KDDIもまた、サブブランドであるUQモバイルから、データ容量20GB/月額3980円の「スマホプランV」を準備しており、総務省からの指摘を受けるかたちでauブランドからの乗り換え手数料などを無料化する施策も発表しました。
しかしauブランドでは、引き続き高付加価値・超大容量で高額な料金プランにこだわった戦略をとっています。
旧来と同じ路線の料金プランは、「シンプル・低価格・十分なデータ通信容量」の料金プランを知った消費者に、どこまで受け入れられるのでしょうか。
消費者の多くは、ahamoに匹敵・追従するような新しい発想の料金プランを求めています。
KDDIの動向をふくめ、今後の通信業界の熾烈な料金戦争は、新たな段階に突入したと言えそうです。
執筆 秋吉 健