NHKドラマ・ガイド「連続テレビ小説 エール Part1」

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第5週「愛の狂騒曲」21回〈4月27日 (月) 放送 脚本、演出・吉田照幸 脚本協力・三谷昌登〉



4月8日から2週間、出続けた新型コロナ関連のニュースが出る逆L字がついに消えた。これは良い兆し? ちょうど21回は海が出て来たので、囲みがないおかげでいっそう解放感があった。

アジフライの攻防

5週は豊橋のターン。
裕一と楽しく文通していたが、ふいに、自分の立場に気づいて、文通を止めることにした音(二階堂ふみ)。
朝、関内家が朝食を食べながら、音が東京帝国音楽学校に行く話から、吟(松井玲奈)と姉妹喧嘩がはじまる。これがひどい。「行き遅れ」からのおかずの取り合い。吟の好物・アジフライを奪って外に駆け出すと、裕一(窪田正孝)が訪ねて来たところで……。
「裕一さん?」と急に猫撫声になる音。このときの顔。二階堂ふみ、立派なコメディエンヌである。さすが「翔んで埼玉」。

「ここにしばらく置いていただけませんか」

音に急に別れを告げられ、いても立ってもいられなくなって豊橋にやって来た裕一に、「事前に来ることをお知らせいただけないと困りますよ」と光子(薬師丸ひろ子)はやんわりと苦情を言う。だが、裕一は聞く耳もたず「ここにしばらく置いていただけませんか」と図々しい。
いくら新聞にも出た期待の新人作曲家とはいえ、見知らぬ家、しかも女性4人の家に泊めてもらうとは、やっぱり天才はやることが常識を外れている。情熱的といえば情熱的。


光子は音が内心喜んでいることを感じながら、裕一とは身分違いであると注意する。
身分違い。それは恋の魔法。「ロミオとジュリエット」が代表的であるように、禁止されると恋は燃え上がるのである。

ご近所の手前、親戚の子ということになって、納戸(?)を借りた裕一は、ズボンを脱いで、シャツも脱いで、ランニングとステテコ(?)で布団に入っていて、そこに音がやってくる。お父さん(光石研)以外のそんな姿、見たことないであろう。ドキドキ。

さらに裕一が「音さんに会ってから(音楽が)とめどなく溢れてきます」「あなたは僕の音楽のミューズ。女神様です。どうかひとときだけでもいいので一緒にいさせてください」なんて言うものだから、乙女の気持ちは抑えきれないであろう。


裕一の型破り感はさらに続く。いくら福島から豊橋という遠距離をやって来て疲れ果てているとはいえ、朝ご飯の時間を過ぎても「赤ちゃんのように気持ちよさそうに寝てるわ」(by 吟)で、関内家を呆れさせる。こういう憎めなさを窪田正孝はじつに憎めなく演じている。

ランニングの上に慌ててシャツをはおり、生真面目に正座して、土下座してたときのおどおど感がいい。背中を丸めてちょっとシャツを羽織り直す仕草に裕一のナイーブさがよく出ていた。が、このあとの裕一は俄然、変貌する。

今日の窪田正孝スペシャル! デート中の裕一がやけにカッコいい

音は裕一を誘い豊橋を案内する。城跡、教会、団子屋、海……と第2週に出てきた思い出の場所ばかり。父(光石研)の好きだった安隆スペシャル(味が交互になっている団子)も食べた。自分の思い出を語る。恋するとやりがちなことである。

最初、馬具の工房で音が仕事をしているのを見て、それから実際、その馬具を使った馬に乗っている軍人を見て、裕一は馬具がカッコいいと言う。すると音は、自分の作っている馬具が間接的に戦争(人を殺めるために)と関わっていることを気に病む。が、裕一は「軍人さんの生命を守っているのも馬具ですよ」と音を励ます。

デート中の裕一の立ち方も歩き方もしゃべり方もモデルみたいにやたらカッコいい。好きな子の前だと“男”になってしまうものなのか。双浦環を知っているか? と聞かれ、キレイな人だと見惚れたことを知られたくなくて、「知らない」とごまかすのも成長したという感じ。

そして、海。「音楽が聞こえる」と言う裕一。ポケットに手を入れふらりと歩く姿がやっぱりカッコいい。
「お父さん、元気かな」
「聞いてみるか」と波打ち際まで歩き「お父さん、元気ですかーー?」と叫ぶ。
しつこいが、カッコいい(土曜日の振り返りで日村もこう言いそうと勝手に予想)。すごく頼もしく見える。家族や銀行の人たちや鉄男と一緒にいるときのあのおどおどした裕一はそこにはいない。これは音の眼から見た補正された裕一なのだろうか。それとも裕一は豊橋への大冒険を経て、成長したのだろうか。

吟という存在

音と裕一はハッピーで良かったねという感じなのだが、吟が不憫でならない。
「行き遅れ」もアジフライも音の攻撃であり、吟はとくに目立った攻撃はしていない。文通相手のことをまだ忘れられないと指摘したら「行き遅れ」と言われて、おかずをとるというささやかな反撃に出るが、アジフライという大物を奪われてしまうのである。音が激しすぎて姉の立場なし。

ちょっとよくわからなかったのがこの会話。
吟「お母さん、私はどうしたらいい?」
音「お姉ちゃんっていっつも人頼りだよね」
吟「私はあんたが気落ちしているのを心配して一緒に東京に行くのよ」

20回で、裕一との文通をやめて気落ちしている音を心配して、一緒にお母さんがなんとかしてくれるから東京に行かないかと吟が誘った。年齢のせいでだんだんお見合いが減ってきたので、東京に次男を探しに行く気満々の吟。それが、音はミュージックティーチャーの紹介で東京の音大に行けそうだというから「私はどうしたらいい?」と聞いたのだと思うが、なんで「いっつも人頼りだよね」となるのか。もともと吟が東京に誘ったのに。もちろん、吟は音を使って見合いをしようとしているのだが。東京行きは、見合いを理由に音を心配しているように見えたのに。

もっとも、こういう肉親ゆえの甘えからくる理不尽が喧嘩というものなのだと言えばリアルだが、結局、すべて音を中心に家族が機能している印象で、この会話も姉妹喧嘩にもっていくために無理やり書かれたセリフに感じる。もう少し丁寧に吟のことも書いてほしい。そういえば、梅(森七菜)のセリフも一個もなかった。脚本家変更になってバタバタしていた時期だからかもしれず、これからに期待する。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)

番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和