軍艦に乗り込む乗員には、時として過度なストレスがかかることがあります。乗員の士気低下は戦闘能力の低下につながるため、士気向上を目的に艦内設備の充実を、様々な手段で図っています。

潜水艦の中にプール、揚陸艦の中にパブ

 海上自衛隊の護衛艦をはじめとして、軍艦というと戦う船、兵器満載というイメージが強いかもしれません。とはいえ、乗組員も血の通った人間であり、ストレス解消や乗組員のリフレッシュなど各種目的で意外なものが設置されていることがあります。今回は、そのなかで代表的なものを5つ紹介します。

原子力潜水艦内に温水プールとサウナ

 ロシア海軍のアクーラ級原子力潜水艦はプールやサウナを備えます。


全長172m、世界最大の潜水艦であるアクーラ級戦略原潜(画像:ロシア国防省)。

 アクーラ級原子力潜水艦は、NATOのコードネームではタイフーン級といい、世界最大の潜水艦です。原潜のため半年間、潜航したままで活動することが可能で、長期間の潜航時に乗員のストレス解消などのために艦内に温水プールやサウナを備えています。

イギリス海軍伝統のパブ

 イギリス海軍は伝統的に軍艦の中にいわゆるパブを設置しており、艦長の判断で乗員は飲酒が可能です。その伝統は最新鋭艦にも息づいており、大型空母「クイーンエリザベス」や「プリンスオブウェールズ」にも設けられています。

 ちなみに、旧日本海軍はイギリス海軍を手本にしたため、軍艦内で飲酒ができ、日本酒だけでなくワインやウイスキーを軍艦に積んでいました。しかし、現在の海上自衛隊はアメリカ海軍を範としているため、一転して艦内での飲酒は原則禁止であり、練習艦や迎賓艇の艦上で行われるレセプションなどでしか飲酒は認められていません。

長期航海は乗員にも負担をかけやすい

 長期航海を目的とする艦は、乗員の息抜きやレクリエーションを目的とする部屋が設けられることが多いです。

市井のジムに匹敵 最新メカ完備のトレーニングルーム

 2018年11月に日本へ寄港したカナダ海軍の補給艦「アストリクス」には、街中のスポーツクラブに比肩するほど充実した内容を誇るジム(トレーニングルーム)があり、さらに民間のインストラクターまで乗り込んでいました。


カナダ海軍の補給艦「アストリクス」の艦内トレーニングルーム。インストラクターも常駐する(乗りものニュース編集部撮影)。

 トレーニング機器を軍艦に積むことは特段珍しいものではなく、海上自衛隊の護衛艦などでも行われていますが、トレーニング室としてあてがわれるのは大概、倉庫や格納庫などです。あくまでも、空きスペースの一角にマットやベンチ、各種器具などを用意してトレーニングできるようにしているだけのことが多いです。またインストラクター常駐というのは、少なくとも筆者(柘植優介:乗りものライター)は聞いたことがありません。

南極観測船「しらせ」の理髪室

 南極観測船の名称で知られる海上自衛隊の砕氷艦「しらせ」は、航海や南極周辺での活動が長期にわたることもあり、艦内に理髪室が設けられています。かなり本格的な部屋で、高さ調節が可能な電動式のスタイリングチェアがあり、さらに鏡の下には引き出し式の洗髪台やシャワーもあります。また入り口のドア脇には3色の回転ポール、いわゆる「サインポール」が設置されているほどです。しかし、プロの理容師や美容師が乗艦するわけではないので、ハサミを握るのは手空きの乗組員です。

原子力空母は5000人強が暮らす「小さな町」

 アメリカ海軍の原子力空母は、ひとつの町にたとえられるほどの乗員数を誇ります。主力のニミッツ級では空母の乗員数だけで約3200人、これに加えて作戦行動時は艦載機部隊の約2500人が乗り込むため、合計で約5700人にもなります。そうしたこともあり、空母の中には教会やテレビ局、新聞印刷所、そして専用の郵便局が設置されています。

クリスマスシーズンは忙しい空母の郵便局

 空母内にある郵便局は、アメリカ海軍の正規軍人による運営で、アメリカ本土や海軍基地とは、空母に発着艦可能なC-2「グレイハウンド」輸送機で結ばれます。これにより、手紙や書類だけでなく小包み荷物も迅速に手配可能です。


原子力空母「ニミッツ」の艦内郵便局。艦内設備の維持管理を担う管理科の下、運営される(画像アメリカ海軍)。

 ちなみに、海上自衛隊も艦内郵便局は設置しています。前述の砕氷艦「しらせ」が南極観測任務につく際は、「しらせ」艦内に郵便局分室が開設されます。また1991(平成3)年の海上自衛隊掃海艇部隊のペルシャ湾派遣時には、掃海母艦「はやせ」ほか、4隻の掃海艇に同行した補給艦「ときわ」の艦内に、派遣隊員と留守家族の連絡用に郵便局が設置されました。以後、自衛艦がインド洋に派遣された際などに、適宜、艦内郵便局が開設されています。