トラックにATM銀行窓口を搭載した移動式店舗車が、地方の銀行を中心に導入されています。セブン銀行では移動式ATM車をライブ会場などに出動させて注目を集めているほか、メガバンクの系列もこれに着目、都市型の新たなサービスも生まれつつあります。

ライブ会場に登場した移動式ATMが話題に

 クルマに銀行ATMを積み込んだ移動式ATM、あるいは窓口も併設した移動式店舗が全国に存在します。2018年6月には、埼玉県のライブ会場に登場したセブン銀行の移動式ATMが、ライブに来たファンの「(グッズ購入で)散財させる気満々」といった声とともにツイッターで取り上げられ、話題にもなりました。


セブン銀行の移動式ATM。荷室からATMが自動で降りてくる(画像:セブン銀行)。

 移動式ATMを所有し、それをライブ会場に派遣した背景について、セブン銀行に話を聞きました。

――移動式ATMはふだん、どのような場所で活躍しているのでしょうか?

 基本的にはCSRの観点から、災害などで現金引き出しができない状況を想定した有事の支援を目的としているものです。ただ、いざ災害が起きたときにしばらく動かしていないとなると、機動的な対応ができないこともあり、要請に応じて随時派遣しています。

――いつ導入したのでしょうか?

 もともとは2011(平成23)年、東日本大震災の被災地でトラック3台にそれぞれATMを搭載して運用しました。このときにはお客様がトラックの荷室に入ってATMを操作しなければなりませんでしたが、2015年に、ATMがトラックの外に降りてくる新型を導入しました。

――現在は何台あるのでしょうか?

 1台です。今後も基本スタンスとしては被災地支援を目的とし、機動性を確保するために随時の派遣も行っていきます。

「移動式店舗の先駆け」に聞く、その役割

 このようなATMを含む移動式店舗を導入しているのは、おもに地方の金融機関です。他行に先駆けて導入した銀行のひとつに、岐阜県大垣市に本店を置く大垣共立銀行(OKB)があります。同行に話を聞きました。

――移動式店舗はいつ、なぜ導入されたのでしょうか?

 2000(平成12)年4月に移動式店舗「ひだ1号」の運行を開始しました。この前年の12月、当行は岐阜県北部に位置する飛騨地方の営業拠点として高山市内に支店と出張所を開設したのですが、広大な飛騨地方すべてのエリアをカバーするのは容易ではありません。そこで、窓口とATMを載せて地域を巡回営業する全国初の移動式店舗を採用したのです。

 この車両は、お客さまに待ち時間を快適に過ごしていただけるよう「いこいラウンジカー」を帯同して営業していましたが、2台の機能を一体化し、ラウンジ機能も搭載した車両拡幅型の「スーパーひだ1号」へと2009(平成21)年にリニューアルしました。現在は「OKBスーパーひだ1号」に改称し、飛騨地方を週4日巡回営業しています。

――その後、移動式店舗を増やしていったのでしょうか?

 はい。まず2006(平成18)年に、「自然災害発生時にOKBができること」をカタチにした「レスキュー号(現・OKBレスキュー号)」を導入しました。衛星通信を利用したATMのほか、AEDや携帯電話の充電器など、災害時に役立つ機能を装備しています。平常時には「OKBマネープラン1号」として、地域のイベント会場へ出張し相談業務を行うほか、防災イベントなどでの啓蒙活動も行っています。

 2016年12月には、愛知県の東三河地方を巡回営業する「OKBスーパーフロンティア号」が運行を開始しました。この2年前、当行は豊橋市内に2支店を開設して東三河地方への進出を果たしており、より多くのお客さまにOKBを知っていただくために導入したものです。地域やお客さまのニーズに合わせ“どこへでも行く”移動式店舗として、イベント会場などにも出動しています。

 さらに2017年11月には、小型の移動式店舗「OKBサザンウィンド」を導入しました。小型の機動力を活かし、東海地方にあるコンビニエンスストアの駐車場などスペースの限られた場所で営業しているほか、お客様のニーズに合わせて地域のイベントなどへも出張しています。


左上から時計回りに「OKBスーパーひだ1号」「OKBスーパーフロンティア号」「OKBサザンウィンド」「OKBレスキュー号」(画像:OKB大垣共立銀行)。

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 もともと、銀行から遠い地域にサービスを提供すべく始まった移動式店舗。大垣共立銀行はそのメリットについて、「移動できるため、地域やお客さまのニーズに合わせた営業が可能」だといいます。

都市でも移動式ATM いずれは「呼べば来る」時代へ?

 大手銀行の系列会社も移動式ATMに着目しています。三菱UFJフィナンシャル・グループのフィンテック(IT技術などを駆使した金融商品・サービス)開発を担うJDD(Japan Digital Design/東京都中央区)は、2018年4月に鹿児島銀行と提携し、移動式ATM車を用いた「ATMシェアリングサービス」の実証実験を行うべく開発を進めています。9月にもサービスを開始する予定だそうですが、その詳細をJDDに聞きました。

――どのようなサービスなのでしょうか?

 イベントや花火、ライブ会場などへ要請を受けて移動式ATMを出張させるのがメインとなります。他行は災害派遣や過疎地における「金融弱者」への対応が中心で、3トンから5トントラックに窓口も備えた移動式店舗が多いのですが、当方の移動式ATMは出金機能だけに特化し、非常にコンパクトな商用ライトバンで行います。

――鹿児島において、鹿児島銀行ATMで実験を行うのでしょうか?

 いえ、鹿児島銀行ATMを搭載しますが、出張場所としては首都圏を想定しています。鹿児島銀行は実験パートナーであり、スピード感をもって実験を進めていくうえで、三菱UFJフィナンシャル・グループでは対応が難しい面があることから、これに取り組んでいる同銀と提携したものです。当然ながら、首都圏のお客様にとっては他行ATMとなるケースが多くなりますので、利用手数料の案内などをしっかり行うつもりです。

――なぜ導入するのでしょうか?

 世界的に「キャッシュレス化」の流れはあるものの、日本ではまだまだ現金ニーズは多いのが現状です。実験を通じ、一時的な現金ニーズが発生する場所や、ATMが近くにない場所に出張し、現金の利便性に対する課題の洗い出しをすることを狙いとしています。とはいえ収益性も大事ですので、ATMの手数料でそれを確保するつもりです。


JDDによる「ATMシェアリングサービス」のイメージ(画像:JDD)。

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 JDDは将来的に、ATMを含めた銀行の機能が、ユーザーのもとに「来る」という形を目指すとのこと。たとえば1万円を下したい場合に、スマートフォンでATMを呼び出すと「3分で到着します」と応答、自分のもとに移動式ATMがやってくるといった未来を想定しています。「この実現には越えなければならないテクノロジー的な課題も多いですが、AIによるニーズ予測や、自動運転の導入などで、より便利な金融サービスを提供することに取り組みます」と話します。

【画像】呼べば「ATMが来る」未来のイメージ


JDDが提唱する、「ATMが来る」イメージ(画像:JDD)。