原口元気は「笑わない」 夢のW杯で闘う男の美学「サッカーがつらいのは当たり前」
コロンビア戦でも示したチームへの限りなき献身
コロンビアとのゲームが終了した瞬間、原口元気は精魂尽き果てたようにピッチに突っ伏し、勝利の余韻を噛み締めた。
初めて立ったワールドカップの舞台、少年の頃から抱いてきた夢の舞台に臨んだ彼が心に携えたのは、チームへの限りなき献身だった。
「本当にきつかったですけど、本当に勝利だけを求めて、しっかり走れたかなと思います」
コロンビア戦で原口が任されたポジションは、4-2-3-1の右アウトサイド。パラグアイ戦でも途中出場から同じポジションでプレーしていた彼は、西野朗監督から重要なタスクを託されていた。それはサイドバックの酒井宏樹、ボランチの柴崎岳らとともに相手左サイドのホセ・イスキエルド、ホアン・モヒカらを抑え込むこと。そして好機では敵陣へ打って出て積極的に攻撃へ関与することだった。
「前半からワールドカップの雰囲気もあり、心拍数もすごくかかっていて、なかなかきつかったです。特にリードして守り切る最後の10分くらいはもう、本当にきつくて倒れそうでしたけども、最後まで走りきれました」
攻守両面で貢献する――。
それは原口が、ドイツ・ブンデスリーガでプレーし始めてから常に念頭に置く責任の果たし方だ。2014年夏まで在籍した浦和レッズ時代は攻撃に特化して守備がおざなりになることもあったが、今の彼にその面影はない。ただ一方で、本人は自らの守備がことさらにクローズアップされる現状評価に違和感を覚えてもいる。
「今の自分は守備でパワーを使い過ぎて…」
「攻撃的な役割を担いながら、守備も手を抜かない。それはドイツでプレーするには当然こなさなきゃならない必須条件でもある。だから、自分は特別に他の選手と違うことをしているとは感じていない。チームの勝利を望むなら当然しなきゃいけないプレーだから。むしろ今の自分は守備でパワーを使い過ぎて攻撃面で決定的な仕事を果たせていないように思っていて、力の無さを痛感している。でも、ここが自分の限界だとは思っていない。守備を頑張りながら、攻撃でもチームに影響力を及ぼしたい。今はそう思っている」
普段の言動や態度から、原口は常に自己の向上を目指しているように思われがちだが、実情は異なる。確かに彼はプレースキルを高めるために誰よりも精進するが、それ以上に、いかに自らがチームに貢献を果たせるかを第一義に考えている。
今季途中にドイツ・ブンデスリーガのヘルタ・ベルリンから期限付き移籍したフォルトゥナ・デュッセルドルフが1部昇格を決めた翌日に、チームメイトらが休養を取るなかで、彼だけは個人トレーナーとフィジカルトレーニングを行って身体のケアに努めていた。その理由は自己鍛錬が名目ではなく、目前に迫っていたロシアでの戦いを見据えてのものだった。
「ここで身体を鈍らせるわけにはいかないから。今日という日は必ず明日につながっていると思うから」
以前、原口に自らがサッカーをプレーする理由を問うたことがある。質問の意図をはかりかねた彼は「理由?」と言って首を傾げたが、これまでの自らのサッカー人生を思い返して、こう言葉を発した。
「もちろん、サッカーが楽しいと思うからプレーしているけど、サッカーの世界では楽しさと厳しさが共存しているとも思う。その厳しさの中に身を置きたい自分がいて、その中で何かを勝ち取っていく楽しさを味わいたい」
鬼気迫る原口の表情に見えた強固な意志
コロンビア戦。日本は試合開始早々の3分に、相手MFカルロス・サンチェスが得点機会阻止のハンドを犯して退場処分となり数的優位を得るも、相手に圧迫される状況が続いた。そんななか、原口はカットインから相手ゴールを強襲する術に長けるイスキエルドには酒井宏とふたりで対応して挟み込み、後方からオーバーラップしてくるモヒカには執拗なチャージで対抗。また攻撃面では近接するボランチ・柴崎との連係でハーフスペースにポジションを取って酒井宏の前進経路を創出する動きも見せ、文字通りに攻守両面で積極的な関与を果たした。
この試合で我を見せる必要など微塵もない。勝利のために邁進するのみ。鬼気迫る原口の表情には、その強固な意志が映し出されていた。
試合終了後、ピッチに突っ伏した後、顔を上げた原口は柔和な笑顔を浮かべていた。全力を尽くして結果を得られた者だけが味わえる充実感に包まれた彼は、「日本のために勝ちたいという気持ちだけで、それだけです。はい」と言って再び微笑んだ後に、こうも言っている。
「まだ1勝なので、まずはこのグループリーグを突破できるように、また最善の準備をして頑張りたいと思います」
コロンビアから勝利を挙げても、日本代表には苦難の日々が待ち受けている。セネガル、ポーランドとの試合如何によっては、まだグループリーグ敗退の可能性もある。また、もし決勝トーナメントに進出できたとしても、これまで味わったことのないプレッシャーに苛まれるなかで強敵と向き合わねばならない。だが原口は、その環境や立場を自ら願い続けていた。
今以上を求め「常に情熱を傾けてプレーしたい」
「試合中は一切笑わない。つらいのは当たり前。それがサッカーだとも思っている。でも、試合に勝利した時は心から笑うことができる。たまに泣いたりしてね(笑)。でも、そんな時は手応えをつかめた気持ちになる。常に情熱を傾けてプレーしたい。それが、原口元気というサッカープレーヤーだと思うから」
満足した時点で、その歩みは止まる。到達点はここじゃない。今以上の達成感を得るために、これまで以上の苦しみを味わって、その困難に打ち勝つ。まずは直近の目標であるグループリーグ突破を目指す。そして決勝トーナメントで未知の相手と対峙して、新たなる境地を得る――。
彼が辿る心の旅路は、まだまだ続く。このロシアでも、その後も。
(島崎英純/Hidezumi Shimazaki)

