野町 直弘 / 株式会社クニエ

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私の手元に「永守流の教育 死力を尽くして『本当の原価』を追求」という日経電子版記事があります。

永守氏とは世界一のモーターメーカーである日本電産の創業者である永守重信会長兼社長CEOのことです。この記事の中で、日本電産は購買担当ではない設計や営業、共通部門の社員らがサプライヤと価格交渉をやっており、このような取組みで価格低減をすることを「Mプロ」と呼んでいるとのこと。

普通に考えればこのような交渉をしたこともない社員に購買交渉をさせること自体がナンセンスなようですが、永守会長は価格交渉や価格低減への取組みは一部の購買担当者だけでなく他部署の社員にも担当させるべきと考えています。

何故なら全社員が「本来こうなるはずというコスト構造」を知っていることが当たり前であり、この『本当の原価』が分からないとコストに問題があって、設計や生産方法を抜本的に変えることなど検討できる筈がないからです。

永守会長自身「長年、ものづくりの現場でコスト削減に取組み、経営者として様々な会社を見て、付き合ってきた経験から『本当の原価』が分かる。」と言っています。

私はこういう能力を「目利き能力」と言っていますが、永守会長はこの「目利き能力」を持ち、会社が大きくなった今でも1円以上のあらゆる購買に関して稟議書に目を通し、コメントを書き込んで妥当なコストを実現するように全社員に働きかけているとのことです。

永守会長は「Mプロ」はそのための社員に対する教育の機会と捉えており「徹底的に教えないといけない。」と言っています。

この件で思い出すのは、最近多くの企業で調達本部長が共通して言うのがこの「本当の原価」の追及力が欠如しているとおっしゃることです。戦略ソーシング等の相見積、RFxが主流となり、競合に走ることで「目利き能力」が衰退したと共通しておっしゃられます。

このように調達購買担当者ですら「本当の原価」が分からない、つまり「目利き能力」が欠如している訳ですが、これを社員全員に求めているのが永守流なのです。所謂「全員購買の能力を身につけそれを実践する」ことを求めています。

全員購買で思い出すのが「全員経営」です。ファーストリテイリングの柳井社長がよく言っているのがこの「全員経営」です。ファーストリテイリング社のHPにもこのような発言が掲載されています。

「我々が最も大切にしているのは、世界中の全社員が、『グローバルワン・全員経営』の精神で、情熱的に仕事をすることです。各エリア、各事業で、最も成果が上がったことを、グループ全員で共有して実践する組織です。一般的に小売ビジネスは、マネージャーが考えて指示を
出し、店舗の販売員がその指示に従うという組織構造です。しかし、ファーストリテイリングでは店舗のアルバイトからトップ経営者まで、すべての社員が経営者マインドをもち、自らが考えて、お客様に最高の商品、最高のサービスを提供するという『全員経営』を実践しています。」

経営とは売りを伸ばして出を抑えることです。出を抑えるためには原価の適正化が求められます。柳井社長の著書「経営者になるためのノート」にはお金の使い方についての記述も多く、経営視点で購買をすることを求めています。

このような「全員経営全員購買」の流れが徐々に出始めているのです。

これまでも何度かメルマガで触れてきましたが、私は今後の調達購買業務でこのような「全員購買」の方向に向かうように考えます。実際に全社集中購買からスピードを重視して分散化に戻すという動きも出始めているのです。昨今の市場環境もそれを増長しています。
モノを買い続けることが厳しい状況が続いており、従来のコスト重視、効率重視ではそもそも調達できない状況です。この先ユーザー重視、サプライヤ重視をしていかなければ顧客への期待に応えられない時代に入りつつあるでしょう。

このような環境下で顧客重視型購買を実現するためには一層のスピードが求められます。スピードに対応する為の調達購買の形が「全員購買」です。

調達購買は会計知識や英語などと同様に全社員に求められるマンダトリなスキルになりつつあるとも言えるでしょう。