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そもそも、なぜ働き方を改革しなければならないのか

この4月6日、経団連や連合の労使トップが参加した「働き方改革実現会議」がまとめた実行計画を土台に、働き方改革関連法案が閣議決定し、現在、与党は今国会中の法案の衆院通過を目指しています。

なぜ今、働き方を改革しなければならないのでしょうか。その理由は、日本の労働人口が減ってしまうことにあります。

年々進んでいる、日本の少子高齢化。それに伴い、労働力の中核をなす15歳以上65歳未満の「生産年齢人口」も、1995年をピークにどんどん減少していきます。社会で働く人が減ってしまう。このままでは、やがて労働力が不足して、日本経済に大きなダメージをもたらすことになるでしょう。

これを食い止める対策としては、まず女性や高齢者などが働きやすい社会にすることで生産人口を増やすこと、次に出生率を上げて生産人口の減少そのものを食い止めること、そして労働生産性を上げることです。

労働生産性とは「労働者1人あたりが生み出す成果」のことですが、実は、日本の労働生産性は、OECD加盟国の全35カ国の中で22位。主要7カ国の中では最下位なのです。

生産性が低いままでは、もし働き手が増えたとしても、経済成長はおぼつきません。まして働き手が減少していくことがわかっている今、生産性を上げることが日本の経済にとって急務になっているのです。

オフィス改革のキーワード

生産性を上げるために、今、多くの企業が目指しているのが、働く人と企業の双方にとってウィン・ウィンの改革です。つまり、多様な働き方を実現することによって、チームが創造的なコラボレーションを発揮でき、最良の成果を生み出せる仕組みを目指している企業が多いのです。

そこで、新たなイノベーション、新たなアイディアを生み出すためのオフィス改革の基礎となるキーワードを紹介していきましょう。これらに共通しているのは、ICTの活用、ストレスのない環境、そしてコミュニケーションの活性化ということになります。

業務プロセスの見直しと[ペーパーレス化]

これまでもずっと叫ばれてきたペーパーレス化ですが、オフィスを変革し、働き方を変革するためには、やはりこれを避けて通ることはできません。

これまで紙ベースで行わてきた業務をペーパーレス化することができれば、業務効率が向上し、省スペース化も期待できます。

なかなか進まないペーパーレス化を実現するためには、ノートPCやタブレット、無線LANといったモバイル環境や、グループウェアやワークフローシステムの導入といったICTの整備・活用も必須ですが、何よりも必要なのは、社員の意識やワークスタイルを変革することです。これまで書類ベースで行ってきた業務をIT化し、仕事の流れを大きく変えるためには、業務プロセスを細かく分析し、再構築していく必要があるでしょう。

オフィススペースの有効活用につながる[フリーアドレス]

管理職も含めて、個人の席という固定席を廃止し、共有のチーム型テーブルなどを導入します。

これまでの仕事は「紙資料がある場所」に縛られたものでしたが、自席でも紙資料をもたず、無線LANに接続できるノートPCをもつことで、どこからでもクラウドスペースに接続でき、場所を選ばずシームレスに仕事ができる環境を構築します。ロッカーやキャビネットを整備し、PCは出退勤時に収納すれば、セキュリティも確保できます。

固定電話も極力削減し、内線用PHSなどを携帯すれば、どこでも入電に対応でき、無駄な取次ぎなども減少します。

チーム型のテーブルで仕事をすることにより、チーム内での情報共有やコミュニケーションも活性化します。管理職も含めて同じテーブルにつくので、物理的・心理的距離も短くなり、意思決定が迅速になります。とくに、外出が多い営業職や、自由な意見や交流が重要になる企画職では、フリーアドレスが生産性の向上が期待できます。

リモートワークと組み合わせることによって、社員数と同じスペースを確保することが不要になり、コスト削減や、スペースの有効活用につながります。

最近では、PCに向かいっぱなしのエンジニアが、集中力が途切らせることなく立って仕事ができるスタンディングデスクや、座る人の健康も考えて設計されたオフィス家具なども注目されています。

機動性を高める[フリー会議スペース]

会議室不足はどのオフィスでも慢性的なものとなっています。必要なタイミングで機動的に会議をすることができないのは大きなストレスであり、効率の悪さを生んでいます。また、会議につきものの資料の印刷や配布なども、多くの時間や手間がかかっています。

予約不要ですぐに集まれるフリースペースをオフィス内に設置すれば、思い立ったらすぐに集まれるようになります。

資料投影用のモニターを設置すれば、持ち込んだノートPCで紙資料を配布することなく情報共有できますし、ネットワークにつなぐことによって、リモートワーカーも参加できるWeb会議も開催できます。

時間・場所を制限しない働き方を実現する[リモートワーク]

ICTを活用することで、オフィス以外の場所で、時間や場所の制限を受けずに仕事をする働き方です。リモートワーク制度を導入すれば、妊娠や育児、介護といった個人的な理由で就労をあきらめてきた人々が働くことができるようになります。また、場所に左右されずに優秀な人材や豊富な労働力を確保することができます。

ただし、完全に在宅のみで勤務することだけがリモートワークではありません。移動中に電話をしたり、メールをしたりするのも一種のリモートワークと言えます。仕事の大部分をオフィス以外の場所で働き、必要に応じて出社をするという働き方も考えられます。

ストレスを軽減し、コミュニケーションを生む[リフレッシュスペース][マグネットスペース]

働き方改革実現会議でも課題とされているのが、長時間労働の抑制です。社員のメンタルヘルスを健康に保つために、企業にはストレスチェックなどが義務化されるなど、さまざまな取り組みがされていますが、リフレッシュスペースや緑化などによって、一日の大部分を過ごす場所であるオフィスを居心地のいい環境に変え、働き方を変えます。

フリーアドレス化やペーパーレス化によって生まれたスペースを、食堂やカフェテリア、ラウンジなど、落ち着いて食事がとれたり、コーヒーが飲めたりするスペースなどに有効活用することで、働く人のストレスを軽減し、リフレッシュできるようになります。

畳を敷いて靴を脱いで休憩できるスペースや、仮眠のとれるハンモックを用意したスペースなどを導入している企業もあります。

最近では、自然と人が集まる磁力を持った“マグネットスペース”というものも注目されています。具体的には、コーヒーマシーン、自動販売機、休憩所、コピー機、ゴミ箱など、部署を越えて働く人が共有している場所。つい立ち話してしまうようなスペースが、どこのオフィスにもあるのではないでしょうか。このようなスペースを意図的に設置することで、偶発的なコミュニケーションをあえて発生させることで、会社全体の生産性を上げることを期待するものです。

オフィスのあり方を変える[サテライトオフィス]

リモートワークは、就業時間を厳密に管理することが難しく、逆に長時間労働を助長してしまうという懸念があります。情報漏えいなどのセキュリティ管理の課題も指摘されています。

これらの対策ともなるのが、サテライトオフィスです。これは企業の本拠点から離れたところに衛星のようにオフィスを設置することです。

たとえば、都心部の会社が、郊外などの通勤しやすい環境にサテライトオフィスを設け、ICTによって本社と同じように仕事できるように整備します。逆に、郊外にある企業が、都心部に営業部や広報部などが入るサテライトオフィスを設置することも考えられます。

働き方改革は、生き方の改革にもつながる

ここで紹介したオフィス改革は、長くつらい通勤や、無駄な残業、退屈な会議といったこれまでの非効率な働き方から、ビジネスパーソンを解放してくれるものになるでしょう。自由な働き方ができるようになることで、創造的なアイディアやイノベーションが生まれ、生産性が上がっていくことが期待されています。

しかし、働き方改革は、こうしたオフィスの変革にとどまらず、女性や高齢者の働きやすさや賃金格差、さらに副業・兼業など、働くことすべてに関係してくるものですいわば、働き方だけでなく、社会における生き方そのものを見直すことにつながっていくものだと思ったほうがいいでしょう。

こうした流れの中で、企業も、そして働く人も、双方が大きく意識を変えていくことが必要になるでしょう。