会議というコミュニケーションの場を設計するオフィス改革/アスクル 「みんなの仕事場」運営事務局
「オープンさ」を尺度に「ミーティング」を設計する
あるコールセンターでは、チームの休憩スペースを拡充し、自然に知識を共有する仕組みをつくったことで飛躍的に生産性を上げることに成功しましたが、別の大手家具メーカーでは、フリーアドレスによってグループが異なる社員同士が交流できる仕組みをつくったものの、逆にチーム内のコミュニケーションが減少する結果となって、生産性が低下してしまったという事例があります。
(出典=「仕事場の価値は多様な出会いにある」ベン・ウェイバー Ben Waber, ジェニファー・マグノルフィ Jennifer Magnolfi, グリッグ・リンゼー Greg Lindsay, 辻 仁子/訳, 『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2015年3月号, p24, ダイヤモンド社)
社内・社外のコミュニケーションは、オフィスワークの生産性を向上させるための重要なポイントです。ただし、ただコミュニケーションスペースを用意すれば、社内コミュニケーションが活性化し、生産性が上がるというような単純なものでもありません。
アパレルブランドをはじめライフスタイル事業も展開している株式会社ストライプインターナショナルでは、従来のクローズドな会議室ではなく、予約不要のオープンなミーティングスペースを執務エリア近くに多く用意しました。
たとえば、リラックスして打ち合わせできるソファータイプのミーティングスペース、ノートパソコンを並べて打ち合わせができるカウンタータイプのエリア、丸テーブル型のミーティングスペース、短時間の立ち会議ができる丸いハイテーブルなどといったものです。もう少し話込みたいときのためには、セミオープンなパーティション付ソファで作られたファミレス型ミーティングスペースも用意しました。
そして、それらとは別に、ブレーンストーミングのようにみんなでアイデアを出し合える「未来妄想室」という部屋を執務スペースの真ん中に設けています。
このようにオープンの度合いに変化をつけてミーティングスペースを作るのは、昨今のオフィス作りのトレンドでもあります。
コスメ・美容系総合サイト「@cosme(アットコスメ)」の企画・運営を行う株式会社アイスタイル株式会社でも、オープンミーティングスペースから、完全個室の来客用会議室まで、様々な種類の会議室を用意しています。
まず、執務スペース近くに設けられたオープンミーティングスペースは、誰が何を話しているか聞こえ、ホワイトボードも見えるスペースです。ミーティングに飛び入りすることもできます。
気軽にミーティングできるといっても、気持ちを切り替えることは必要ですから、フローリングやチェアの種類などでゾーニングを変えています。カラフルで姿勢を変えられるような遊び心のあるチェアが用いられたりすることで、参加者の気分を変えられるようになっています。
次に、ファミレス席型のミーティングスペースはセミオープンな空間です。どんなメンバーが集まっているかわかり、近くを通ると話は聞こえますが、話には入りにくい雰囲気です。テーブルは小さめなので心理的な距離も縮まります。
これが社内用会議室になると、透明な大きなガラス窓で仕切られており、中に誰がいるかは前を通ると目に入りますが、声は聞こえず、中には入れません。
さらに来客用会議室は、曇りガラスで仕切られていますので、中に人がいることはわかっても、誰が何を話しているかはわかりません。
クローズドさで言えば、一般的な企業の会議室はこれに近いと言えます。比べてみれば、いかに同社が社内でオープンに、コミュニケーションを重視してオフィスづくりをしているかがわかります。
いつでも自由にコミュニケーションをとることができるように、すぐにミーティングできるようなスペースを多く作り、さらにそのコミュニーションをオープンにすることで、見る/見られるという関係性も作りあげることは、これからのオフィス内のコミュニケーションを考える上で欠かせないものになっていくでしょう。
ミーティングの種類から企業の仕事を考えてみる
一方、コミュニケーションとしてのミーティングにも、さまざまな種類のものがあります。
一番多いのは、スムーズに仕事を進めるために、少数の関係者で行われるちょっとした打ち合わせです。そんな打ち合わせは、予約が必要な会議室ではなく、コミュニケーションを密にとれる小さなミーティングスペースのほうが適していると言えます。
通路沿いに設けられたオープンミーティングスペースで打ち合わせれば、参加していない社員の耳にも自然に内容が入ってきます。小さなミーティングが増えると、全体的な情報共有が不足してしまうという弊害が起こる可能性がありますが、オープンなスペースでのミーティングはそうしたリスクを防ぐ効果もあるわけです。いわば非公式な情報共有といえるでしょうか。
次に多いのは、業務を進めるための報告・共有、調整のためのものでしょう。
前出の株式会社ストライプインターナショナルでは、会議資料を基本的に事前共有し、それを読んだ上で参加するというルールにすることで、資料の説明に終始してしまうような情報共有のための打ち合わせをなくしてしまいました。ですから、通常、情報共有のために使われる大型液晶モニターやホワイトボードなどが、同社のオープンミーティングスペースにはありません。聞いているだけの会議をなくし、本当に必要な会議だけにした結果、同社は劇的に会議時間を減らすことに成功しています。
同社が働き方改革を進め、社内のコミュニケーションのあり方を変革することで、会議をスリム化し、残業を大幅削減できた秘密がそこにあります。
そして、会議には、たとえば新規事業の企画会議のように、未来に向けて可能性の枝をどんどん伸ばしていくようなものがあります。
株式会社ストライプインターナショナルでは、そうした打ち合わせは「未来妄想室」で行われます。「未来妄想」というネーミングのとおり、将来ありえる可能性をいろいろと模索し、プランニングしていくための会議室です。広がる発想を書き留めていくために、こちらでは、壁一面の黒板が用意されています。
このように、「会議」の目的や性質を見きわめて、そのコミュニケーションのあり方を変革することで、働き方も、仕事も、大きく変えることができるでしょう。