働き方改革はどうあるべきか/野町 直弘
昨今政府も積極的に推進しているのが「働き方改革」です。電通社員の過労自殺事件が大きな社会問題になったこともあり、長時間労働の是正に向けた機運が一層高まっています。
しかし最近の論調を見ていますと「働き方改革」の目的が残業時間や労働時間の短縮になっている気がしてなりません。言うまでもなく、残業時間や労働時間の短縮は「働き方改革」の目的ではなく手段の一つにすぎないのです。
目的は限られた時間で、より効果的なアウトプットを出すことで、会社としてもメリットがあり、個人としてもその仕事を通じて満足感を得る、ということでしょう。
そう考えると単に時間を短くすればよいわけではなく、時間が短くてもストレスが溜まる仕事のやり方はあるわけですし、長くてもストレスが溜まらない仕事のやり方もある訳です。
一方で時間が短くてもストレスが溜まる仕事は多くの場合その対価は高くなります。その逆にストレスが溜まらない仕事は誰もがやりたがるわけですから対価は低くなるでしょう。そのどちらを選ぶかは基本個人の選択(だけではないですが)となります。この「選択ができる」というのが重要なのです。
私は最近の働き方改革には対価の考え方が全く入っていなくて何でもかんでも「単に時間を短くすればいいや」的な発想になっていることが短絡的だと考えます。
そもそも効率が高い人はぎりぎりの緊張感の中スケジュールとストレスに追いまくられながらも、アウトプットを出し続けていて、その結果できる人に仕事が集まってきます。そういう限界に近い人たちに「時間を短くしなさい」ということはアウトプットの質を低下させるか、ストレスを余計に溜めることにつながり、それこそ病気になってしまい、皆が不幸になるリスクもあるでしょう。私はこういう人の対価はもっと高めることが経済合理性もあり、その人も「働き甲斐があった」となると考えます。
労働にかかる変数を究極に単純化すると労働時間、求められる成果、難易度(仕事することによるストレスや仕事から得られる達成感なども含む)と(期待も含む)対価の4つになるでしょう。それぞれの人たちがこの4つの変数を自分で選択できることが「働き方改革」なのではないでしょうか。
例えばベンチャー企業の経営者や社員は毎日長時間働いていますし、仕事から受けるストレスなどもとても高いですが、「働き方改革」が必要だ、とかこういう社員がノイローゼになった、という話はあまり聞きません。
こういう「働き方」があたり前なのではなく、将来も含む対価が高く、ストレスだけでなく「やりがい」や「達成感」も大きいこと、またそれを自ら選択しているから長時間労働でも耐えられるのです。こういう人たちには「働き方改革」は必要ありません。
今は労働時間にばかり目が向けられています。単に時間を短くすることに関しても、これは東京近郊に勤務している人だけの話ではなく地方都市で自動車通勤されている方にも同じことが言えますが、朝夕の交通ラッシュが酷く、通常なら30分で着くところを1時間以上かけて通勤をしているような話をよく聞きます。こういう環境であれば通勤自体を無くし自宅勤務やサテライトオフィス勤務が時短には有効です。
時間短縮という面だけでも私が特に「改革の余地あり」と感じるのは「会議」「客先訪問」「報告書」の3つです。
「会議」がなくなると時間が作れます。これ本当です。「会議」も本当に必要な「会議」とそうでない「会議」があるでしょう。本当に必要な「会議」の要素をきちんと定義して、その要素に当てはまらなければやめる、だけで、多分「会議」は半減します。原則会議は「やってはいけない」から見直しするのです。
二点目の「客先訪問」ですが、びっくりするのが「訪問人数の多さ」です。部長から担当まで階層別だけでなく担当が違うからということで一回の訪問で5-6人一緒に訪問することも良く見られます。もちろん、人数が多ければ誰もが一言くらいは何か言いたい訳ですから、自然と会議時間も長くなるのです。これは訪問側も訪問される側も同様。会社を代表して話ができないなら「客先訪問」などさせるべきではないですし、もし本当に分からないことがあれば持ち帰ればいい。
三点目の「報告書」ですが、社内向けの資料の多さはどこの企業もビックリさせられます。トヨタ自動車のA31枚「報告書」の取組みは有名ですが、こういう取組みはメリットしかありません。多くの資料が用意されていてもそもそも全部読めない(読まない)ですし、マネジメント
が多くの情報や資料を意思決定の為に必要だというのならマネジメント失格です。限られた情報の範囲内でいかに最適な意思決定をするのが有能なマネジメントの条件ですから。
私はこの3つは特に時間を短縮するために効果的な手法と考えます。しかし、問題は単に時間を短縮すればいいのか、という点です。繰り返しになりますが、労働時間、求められる成果、難易度、対価の4つの変数を自身の意思で選択できるようにすることが本質的な改革です。またその選択がちゃんと守られること、そして適宜選択し直せるようにすること、これが本来の「働き方改革」ではないでしょうか。