“働きがい”を犠牲にする働き方改革ではうまくいかない|service scientist′s journal /松井 拓己
働き方改革は“働きやすさ”と“働きがい”に分けて考える
サービス事業は忙しさとの戦いであるため、現場で働く従業員が疲弊していることが多々あります。これをどうにか解消したいという思いで、残業時間の削減や福利厚生の充実などに取り組んでいます。他にも、多様な働き方を可能にするために、働く時間や場所の自由度を高めるための制度や仕組みの導入も進んでいます。
働き方改革には様々なアプローチがありますが、多くの場合、主に“働きやすさ”の向上に重点が置かれています。働きやすい職場環境を整備するとともに、無駄を排除して業務効率を高めて、もっと働きやすい企業に変革しようというのです。
実際に、残業規制で時間が制限されたことで、従業員が自主的に業務の効率を向上させる努力を始めて、生産性が向上した企業がたくさんあります。また、働く場所や時間の自由度が高まったことで、たとえば育児と仕事の両立ができて、助かっている従業員がたくさんいます。
しかしもう一方で、 “働きやすさ“の代償として、“働きがい”を犠牲にしてしまうことへの問題意識が高まっています。
誰のための働き方改革なのか
残業時間の大幅削減に成功した企業の方から、こんな相談を受けることがあります。
『残業時間が減って、みんな早く帰れるようになったのに、働き盛りの社員のモチベーションが下がってしまっている。』
残業時間と一緒に、働きがいまで削ってしまったのです。
「今年は勝負の年だ」「この仕事は自分の存在意義そのものだ」と、今の仕事に情熱を燃やしている従業員が少なからずいます。そんな従業員に対して、全社一律で残業しないで帰りなさいと大号令をかけたり、業務の無駄削減の中でじっくり考える時間が制限されたりすると、自分がやりたい仕事が“無駄な仕事”だと言われている気持になるものです。
短い業務時間の中では、自分でなくてもできそうな定常作業をこなすのが精一杯で、それが終わったころには帰る時間になってしまう。この状況が続くと、働きがいが感じられず、自分の成長や将来のビジョンを描くことができなくて、仕事へのモチベーションが下がってしまいます。
従業員のための働き方改革が、“働きがい”を犠牲にしてしまって、優秀な従業員から辞めていってしまったというケースもあるのです。これでは、従業員だけでなく、事業にとっても大きな損失です。体や心の調子を崩すほど働くのは問題ですが、“働きやすさ”だけでなく、“働きがい”にも繋がる働き方改革を目指したいものです。
自己犠牲のサービス事業から抜け出す
3回分の記事で見てきたように、サービス事業の実態として、顧客、従業員、事業のどこかが犠牲になって苦戦している企業が多いものです。サービス事業の改革では、顧客が価値を感じること、従業員が働きやすさと働きがいを感じること、事業成長に繋がるような成果がちゃんと出ること、この3つを実現できるようにステージアップできるかどうかが、成功のカギを握っているのです。