秋の味覚の代表格といえば、サンマ。定番の刺身や塩焼きはもちろん、洋食にもよく合うので、アイディア次第でいろんな味が楽しめる。しかも、サンマには、ビタミンB12やビタミンA、DHA、ERA、良質のたんぱく質などが豊富に含まれていて、とってもヘルシー。さらに今年は例年に比べ、大型でしかも脂が乗っていると評判なのだ。

 まさに今が食べ頃のサンマだが、そんなサンマを巡って仁義なき戦いを繰り広げる地域があるのを、ご存じだろうか? その地域とは、東京都目黒だ。

 海に面してないのに、なぜ目黒? と思うかもしれない。それは落語の演目のひとつである「目黒のサンマ」が関係している。「目黒のサンマ」とは、史実をモチーフにした落語の演目で、大まかなあらすじはこうだ。

 時は江戸時代。ある日、お殿様が目黒に鷹狩りにやって来た。その際、お殿様は、農家でサンマを食べたという。それまでサンマを食べたことがなかったお殿様は、脂の乗ったサンマのおいしさに感動。後日、サンマのおいしさが忘れられず、家来にサンマを持ってこさせたのだった。ところが、家来は気を利かせて、サンマの脂を取って、膳に出した。すると、サンマを食べたお殿様は、先日目黒で食べたサンマよりも美味しくないと感じ、家来にどこから取り寄せたと問いただしたのだ。家来が、「日本橋から取り寄せました」というと、お殿様は納得したように、こう答えたという。「やっぱりサンマは目黒に限る」。

 要するに、目黒がサンマの産地ではないことを、知らないお殿様の無知を皮肉った演目なのだ。この演目にあやかって目黒では、サンマが無料で味わえる祭りを毎年開催している。しかし、毎年別々の日に、2箇所で行われているのだ。

 ひとつは、目黒区が主催する「目黒のさんま祭り」(今年は9月18日)で、もうひとつが、品川区にある目黒駅前商店街振興組合が主催する「目黒のさんま祭り」(今年は9月11日)だ。ともに、サンマが無料で食べられたり、寄席が開かれるなど、祭りの内容は大差ない。しかも、どちらも目黒の地域振興を目的にしているが、お互いに連携などはまったくしていないのだ。

 あえて違いを指摘すると、品川区のさんま祭りが、宮古産のサンマと徳島県のすだちを使用しているのに対して、目黒区のさんま祭りは気仙沼産のサンマと大分県産のカボスを例年使用している。

 おいしいサンマが二度もタダで食べれるので、一般客にとってはいいのかもしれないが、せっかくなら一緒に目黒を盛り上げればいいのに、と思ってしまう。まだまだサンマを巡る熱い戦いは続きそうだ。(文/verb)