以前掲載の「東芝は米国にハメられた。原発買収で起きていた不可解なやり口」では、東芝が7,000億円の特別損失計上を発表するに至った「原発事業」の衝撃的な裏事情が明かされました。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著者で世界的プログラマーの中島聡さんが、いよいよ半導体事業売却にまで追い込まれた東芝と、売却先と目される「日米韓連合」の一員であるアップルの動きについて、専門家の視点で推察しています。

私の目に止まった記事 

● 半導体売却、20日にも契約=銀行団に説明─東芝

原発事業の失敗のために大幅な赤字を計上し、「最後の優良資産」である半導体事業を売却しなければ破綻を免れない東芝ですが、ようやく米投資ファンドのベインキャピタルを中核とする「日米韓連合」への売却に経営陣がコミットした、という報道です。

東芝による半導体事業の売却がここまで長引いたのは、Western Digital が売却の差し止め権を持っているかどうかの解釈で訴訟にまで発展しているためで、そこが解決しない限りは、「日米韓連合」への売却も実現しないので、まだ安心は出来ません(「日米韓連合」は Western Digital との訴訟問題が解決した後にお金を払い込むそうです)。

「日米韓連合」は、ベインキャピタル、産業革新機構、日本政策投資銀行、SKハイニックス、アップルなどで構成されており一旦は6月に「優先交渉権」を得ましたが、売却の差し止め権を持つと主張する Western Digital 陣営からの横槍が入り、一度は東芝もそちらに傾いたそうです。

興味深いことに、アップルはその時に Western Digital 陣営にも資金を提供することになっていたのですが、Western Digital がより多くの議決権を持つこと(つまり経営権を握ること)を主張したため、アップルが裏から手を回して(Western Digital 陣営に売却したらば、もう半導体は買わないと脅したそうです)東芝の意見をひっくり返したそうです (参照:Apple moves to ward Western Digital off control of Toshiba chips, sources say、Apple Discussing $3 Billion Stake in Bain’s Toshiba Bid、Apple warns it won’t buy Toshiba chips if Western Digital takes control)。

東芝の半導体事業には、三つのグループが買収に名乗りを上げたそうですが、そのいずれにもアップルは資金提供者の一つとして名を連ねていたそうです。アップルは、東芝の半導体事業の最大の顧客ですが、アップルにとっても、iPhone などに必須な半導体の安価で安定した供給はとても重要であり、「どこが買収するにせよ口は出したい」と考えたのだと思います。

アップルにとって、Western Digital は東芝と同じく半導体の重要な仕入先の一つなので、Western Digital が東芝の半導体事業の経営権を握ってしまっては、仕入先が実質的に一つ減ることになってしまうので、それだけは避けたかったのだと思います。

しかし、そんな状況を避けるために、まずは(買収資金が必要だった)Western Digital 陣営に自ら資金提供者として加わり、Western Digital が経営権を握ろうとした途端にそれにストップをかけるあたりは、非常にしたたかな戦略だと思います。

ただし、Western Digital も黙って訴訟を引っ込めたりはしないでしょうから、結局のところは、東芝が和解金を支払うという形で解決するしかないのだと思います。

いずれにせよ、これは世界規模で行われている「原発ババ抜き」の最終局面の一つであり、なんとしてでも「準核保有国」になりたかった日本政府が、必死に背伸びをした結果、東芝に買収させたのが、Westing House というとんでもないババだったという話でしかないのです。

あれだけの粉飾決済をしながら、東芝の経営陣が誰も牢屋に入らず、かつ、東芝救済のために政府系の産業革新機構、日本政策投資銀行が金を出す。日本は本当に資本主義の国なのか、と思わせる顛末です。

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出典元:まぐまぐニュース!