不要な片手運転は安全運転義務違反の可能性がある

 クルマの片手運転は、アウトかセーフか? 自転車の場合、「片手運転の禁止(3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金)」という明確なルールがあるが、クルマの場合、じつはグレーゾーンとなっている。

 道路交通法上では、運転中に手で保持しながらの携帯電話やスマホなどの操作をすると、「携帯電話使用等(保持)違反」となり、反則金6,000円、違反点数1点と明確に書かれているが、飲み物やおにぎりなどの食べ物を片手で持っていたとしたら、罰せられるかどうかは明らかにされていない。ただ厳密にいえば、不必要な片手運転は、安全運転義務違反に該当する可能性がある。

 <道路交通法>第4章 運転者及び使用者の義務 第1節 運転者の義務(安全運転の義務)第70条『車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない』とはいえ、マニュアルトランスミッション(MT)車であれば、シフトチェンジのたびに、片手運転にならざるを得ないので、このルールは弾力的に運用してもらうしかないだろう。そうしたことを踏まえたうえであえて言わせていただくと、ルールや罰則以前に、そもそも片手運転にメリットはない。

 ハンドルのような円形のものを回す場合、その円の直径=円の中心を通る円の両端を握れば、もっとも力まず回すことができる。力めばハンドル操作の正確度は当然低下するので、ハンドルはオーソドックスに、9時15分の位置を両手で握るのが基準になる。

 運転中、目の前でアクシデントが起こり、とっさに回避する必要が生じたとき、頼りになるのはブレーキとハンドル。フルブレーキだけでは間に合わないときは、ハンドルさばきで避けるしかない。そうなったとき、片手運転だったか両手運転だったかで、ハンドルさばきにコンマ数秒の違いが生じたら、そこが運命の分かれ道になる可能性は大いにある。

 また、いわゆる「ヤンポジ(ヤンキー・ポジション)」に代表される、だらしない格好の片手運転の場合、必ずといっていいほど身体がねじれる。一見楽ちんに見えても、体幹部がねじれた状態で、上下の振動、前後左右の加速Gを受け止めるのは、身体に対するストレス以外の何物でもないし、呼吸だって必然的に浅くなるのでいいことなし。

 クルマからのインフォメーションも正しくキャッチできるわけがない……。そこまでだらしないドラポジでないとしても、片手運転を進んで実践している人たちのポジションは、ハンドルまでの距離が遠い傾向が見られる。

 ハンドルまでの距離が遠いのも、いざというとき反応が遅くなる要素。F1マシンからスポーツカーまで、近年パドルシフトを積極的に採用してきたのは、シフト操作中も両手運転ができるというメリットもじつは大きい。極限状態、あるいは緊急事態というのは、市販車でもレーシングカーでも変わりがないわけで、そう考えると、運転中に片手を遊ばせておく、積極的理由はまるで見当たらない……。

 したがって、ルール云々は別としても、不必要な片手運転は極力控えて、目的地までは正しいドライビングポジションで、運転に集中するというのが、賢いドライバーだといえるだろう。