打ち上げ失敗の“ホリエモンロケット”を古賀茂明が「高く評価したい」理由
堀江貴文氏が出資する「ホリエモンロケット」の打ち上げが、残念ながら失敗に終わった。
だが、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、堀江氏の挑戦を「民間による挑戦」として高く評価する。
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7月30日、宇宙ベンチャー企業、インターステラテクノロジズ社(以下、IST)が開発した小型ロケット「MOMO(モモ)」の打ち上げは残念ながら、失敗に終わってしまった。
この宇宙ベンチャーを創業したのは実業家の堀江貴文氏。そのため、同社のロケット開発を「しょせんは金持ちの道楽」と皮肉る向きもあるが、私はそうは思わない。今の日本にとって最も必要な「民間による挑戦」として高く評価したい。
これまでの日本のロケット開発は、文部科学省とJAXA(宇宙航空研究開発機構)が中心となって進める官製プロジェクトだった。宇宙分野だけではない。大型飛行機、新幹線、リニア新幹線など、夢のある大きなプロジェクトは、常に「官主導」で進められてきた。
「官」は「民」に比べるとコスト意識に乏しい。関係する大企業や政治家などの思惑で、プロジェクトの成功よりも予算を使うこと、あるいは実用化よりも「世界一」の技術水準の達成が優先されがちだ。意思決定の遅れで失敗することも多い。
その結果、日本が世界に胸を張れるようなビッグプロジェクトの成功例は新幹線くらいのものだった。JAXAが手がけるロケットもコスト高が弱点で国際競争力がない。世界のロケットビジネスに約1千社の民間企業が参入し、打ち上げ費用削減でしのぎを削っているのとは対照的だ。
アメリカでは、純粋な民間企業による宇宙旅行の予約販売が始まっており、もうすぐ実現する予定だ。火星移住計画も民間企業によって進められている。
宇宙だけではない。ニューヨーク・ワシントン間を29分で結ぶ時速1100キロ超の超高速地下交通プロジェクトも純粋な民間企業で計画されている。
一方の日本では、いまだにリニア新幹線に国の資金が投入され、東芝救済にまで産業革新機構が出資しようとしている。
インドネシアの高速鉄道計画では、日本政府による円借款(日本政府の融資)供与の提案に「こんなプロジェクトは民間の資金でやるべき」とインドネシア政府に逆提案されて大恥をかいたばかりだ。リスクがあればなんでも国が出る体質は、途上国からも見ても周回遅れ。アップル、グーグル、テスラ社など、革新的な製品やサービスを生み出し、急成長するベンチャー企業が主役のアメリカとの差は開くばかりだ。
ISTの挑戦は、そんな日本の「官主導」の風潮に一石を投じた。機体に市販の部品を流用するなど、常識破りのコスト削減で市場競争に備えている。しかもISTは国から一切の援助を受けていない。
もし、「MOMO」の打ち上げに成功すれば、それは民間企業が独力でロケットを宇宙空間に到達させた国内初のケースとなる。これに勇気づけられて同社に続く企業の動きが加速すれば、日本がロケット大国になることも夢ではない
超伝導送電システム、再生可能エネルギー、自動運転技術、ロボットなど、創意工夫次第では世界トップを狙える産業分野を日本はたくさん抱えている。
そして、IT長者もたくさんいる。ちまちまとしたことにお金を使わないで、そうした分野に堀江氏のようにどんどんリスクを取って投資してほしい。そうなれば、日本の産業界はきっとまた元気になるはずだ。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『日本中枢の狂謀』(講談社)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中