労働時間の削減だけではなく荷物量の抑制にまで踏み込んだ要求をして話題となったヤマト運輸労組は10月から10時間の勤務間インターバルの導入で合意している。同様にニトリホールディングスも10時間の規制を導入する。さらにNECは現行の10時間から11時間に拡大する。 驚いたのは「ワンオペ」によるアルバイトの苛酷な労働実態で注目された「すき家」を運営するゼンショーホールディングスが11時間のインターバルの導入で合意したことだ。同社はまず一部の店舗でスタートし、全店に拡大していく方針だ。 勤務間インターバルの導入によって従業員の定着や求職者へのアピールを狙った動きが今後も広がる可能性もある。 例えばKDDIは2015年春闘で勤務間インターバルの導入で労使合意し、7月から制度をスタートしている。同社は就業規則上の休息時間として8時間を義務化、安全衛生規程の健康配慮時間として11時間を設定している。

 安全衛生規程では「健康確保の目安として11時間の休息を確保できない日が月間11日以上あった者については産業医に対する問診表への回答や直接注意を促すなど健康配慮措置を講じる」ことにしている。 制度の運用にあたっては、休息時間がとれているかどうかを事業部別の社員ごとに毎月把握し、休息を確保できなかった社員には人事部門から問診票を産業医に提出するように指示し、セルフチェックを促している。

 また、恒常的に休息時間を確保できていない社員が多ければ要員の問題など原因について人事部が上長に問い合わせることにしている。 しかし、勤務間インターバルを導入すればそれで終わりというものではない。制度を導入しても法的強制力のない労使の自主的規制だけにどれだけ実効性を確保できるのかという課題がある。

 休息時間を確保するための厳格な労働時間管理をはじめ社員に対する周知や意識啓発などの日々の取り組みが重要になる。 それだけではなく各事業場に設置された労使の安全衛生委員会で毎月、管理職を含めた休息時間の取得状況を確認し、特定の部署が確保できていなければ改善策を労使で議論することにしている。

 個別の社員に対する注意喚起、部門・事業場ごとの数値の把握と改善努力など実際の運用においてはかなりの労力を必要とする。 11時間の休息が月11日以上取得できない場合に注意喚起が行われるが「9時始業だと深夜10時を超えると11時間の休息が取れない。管理職を含めて11時間を取れていない人には声をかけている。また、月の残業時間がそれほど多くなくても仕事が集中したことで11日を超える人もいるが、そうした人にも健康状態を確認するようにしている」(同社労組幹部)という制度上の効果も出ている。

 実はKDDI労組は今年の春闘で11時間の勤務間インターバル規制を就業規則に入れることを要求。労使協議の結果、現行の8時間は維持し、安全衛生規程の11時間の休息を月11日以上取得するという規定を、5日以上に短縮することで妥結した。これによって健康配慮措置の対象者がこれまで以上に広がることになった。 だが、同社のケースを見ても休息時間を10時間、11時間と設定しても実効性を確保するには厳格な運用がカギを握っている。

 「所属長から上がってきた勤務時間記録を見て、個別に休息が取れているかどうかをチェックし、取れていない人に次の勤務の開始時間やどのようして休息をとらせたのかを確認するなど労力を伴う大変な作業ではあるが、惜しんでいては実効性を持たせることができない。また休息時間は管理職を含めて取る必要がある。非管理職だけだと部下を早く帰らせてその仕事を管理職が担うことになりかねない。健康を維持し、パフォーマンスを上げるには休息を取ることが大事だということを職場全体が共有しないとうまくいかないだろう」(労組幹部) 同社の勤務間インターバルの範囲が裁量労働制対象者や管理職も含まれる点も重要だろう。なぜなら管理職や裁量労働制の対象者は法的には労働時間管理が比較的に緩くなっている。