『やすらぎの郷』お年寄りだって、シナリオの穴には気づきますって

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帯ドラマ劇場「やすらぎの郷」(テレビ朝日 月〜金 ひる12時30分  再放送BS 朝日 朝7時40分〜)
第6週 37回 5月23日(火)放送より。 
脚本:倉本聰 演出:阿部雄一


最初の1分38秒は、昨日(36回)のおさらい。朝ドラではやらない親切構成だ。
しかも、最後には明日の予告が。シニアに対して、心をくばりまくっている。

「あんなはちゃめちゃなドタバタ劇(秀さん失踪は神隠し)を私の描いたシナリオだと思われたら、脚本家としての私のキャリアが大きく傷ついたことになる」と石坂浩二(役名・菊村栄)は面子にこだわる。けっこう面倒くさい人である。

とりあえず、朝の放送で、秀さん(藤竜也)の失踪は誤報であった、スタッフの勘違い、電気系統、コンピュータのミスだったと理事長(名高達郎)が詫びる。

この「電気系統のミス」というのが、引っかかる菊村。脚本家として、辻褄の合わない設定が許せないのであろう。

でも理事長は「ここの人たちはよくわからないから、うやむやになる」ってひどい言いよう。
もし、こんなふうなノリで、世の中のドラマの脚本も作られているとしたら・・・。
これもまた、倉本聰先生のささやかな告発なのではないかと深読みしてしまった。

ここの人たちだって、さすがにそこまでうやむやじゃない。
「電気と神隠し、どういう関係があるの」とミッキー・カーチス(役名:真野六郎 通称マロ)にツッコまれ、すべてを話す石坂浩二。
話しながら「乗せられた自分がは腹立たしく頭に来ていた」とモノローグ。ってそこまで怒ることもないだろうという気もするが、菊村は完璧主義者なのだろう。かつて、納得いかないシナリオに加担させられたことが倉本聰先生もあったのだろうかとまた深読み。最初の頃、あまりにテレビ批評をしているものだから、何もかも批評なんじゃないかと勘ぐってしまいます。

「あの人のことだから、落ち込んでいるんだろうなあ」
「こういうときの男の真理はちょっと女にはわからんだろうなあ」(そうなの? 教えて男の人!)
 とマロと大納言(山本圭)が言うので、しぶしぶ秀さんのヴィラを訪ねる石坂浩二。

女が来ないように玄関の前で見張っていた一馬(平野勇樹)までが「秀さんの失踪と電気系統のトラブルとどういう関係があるんですか」と訊ねる。
脳みそ筋肉のような一馬でさえ、理事長の誤魔化しは通用していなかった。

37話のキーワードは「(辻褄の合わない)電気系統のトラブル」だろう。

その場しのぎに適当なことを書いて、後々、いろんな人からツッコまれることほど、脚本家としては恥ずかしいものはない。←脚本家を目指している人はみならって。

さて、秀さんはベッドに頭を高くして横たわっていた。
虚無的な顔の藤竜也。こういうとこがやっぱり演技巧者だなあと思う。
土下座する菊村。何も言わない秀さん。無口だからじゃなくて、「あきらかに怒っていた」と菊村。
さりげに緊張感のある空気が漂って・・・次回に続く。
セリフ量も情報量もさほど多くはないが、なぜか保ってしまうところが、ベテランの凄さだ。
朝の放送を歯磨きながら聞いているときの山本圭(大納言)の口元の表情もなんともユーモラス。

それにしても、マロと大納言の衣裳が個性的なおしゃれ。さすが、往年の名優ってことなんだろう。
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