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●協業関係にあるウエスタンデジタルの「横槍」

東芝の半導体事業売却にイエローシグナルが灯り始めた。

米ウエスタンデジタルが、東芝の半導体事業の分社化、および分社化した会社の株式を第三者に譲渡することに対し、国際商業会議所に仲裁の申し立てを行ったからだ。

これに対して、東芝では、「ウエスタンデジタルが、売却プロセスを止める根拠はない」(東芝・綱川智社長)と真っ向から反論。両社の対立構造が鮮明になった。

だが、この対立構造は、半導体事業の売却に遅れを生じさせる原因になるばかりか、売却の遅れによって、2017年度中の資金調達が困難になれば、債務超過に陥っている東芝にとっては、上場廃止に陥る可能性が生まれることになる。

つまり、東芝にとっては、半導体事業売却が上場維持において、「最後の切り札」であるが、そこに協業関係にあるウエスタンデジタルが「横槍」を入れてきたともいえる構図だ。しかし、ウエスタンデジタルは、半導体事業への入札候補会社の1社と見られており、ウエスタンデジタルが、競合に比べて優位な条件を得るためには、使える手はすべて打っておきたいという思惑があるだろう。

○東芝四日市工場は東芝・ウエスタンデジタル共同運営

ウエスタンデジタルは、2015年にサンディスクを買収。それに伴い、サンディスクが東芝と共同で運営してきた東芝四日市工場での半導体生産を、東芝とウエスタンデジタルが共同で行う体制へと変更した。

四日市工場の共同運営においては、東芝が50.1%、ウエスタンデジタルが49.9%を出資した会社がそれを担っている。

ウエスタンデジタルは、米国時間の5月14日、NANDフラッシュメモリー合弁事業(Flash JV)を行う3つの会社に関連して、国際商業会議所(ICC)国際仲裁裁判所に仲裁申立書を提出した。

ここでは、東芝メモリに対する譲渡の解消を裁判所が東芝に命令することを求めるとともに、東芝がウエスタンデジタル側の同意なしに、Flash JVの持分またはFlash JVの持分を保有する関連会社の株式を譲渡することは、東芝が契約に違反するものであり、これを禁止する差し止めによる救済を求めるというものになっている。

ウエスタンデジタルのスティーブ・ミリガンCEOは、「同意なく、合弁事業の利益を関連会社にスピンアウトし、その関連会社を売却しようとする東芝の試みは、明確に禁止されている。強制力を持つ仲裁による救済を求めることは、この問題を解決しようとする我々の最初の選択肢ではなかったが、問題解決のために当社がこれまで取った他のあらゆる取り組みはいずれも功を奏さず、現時点で必要なステップは法的措置であると考えた」とコメントしている。

ここでいう「あらゆる取り組み」というのは、ウエスタンデジタルが、両社の契約に基づき、東芝の半導体事業買収を独占的に交渉する権利を要求。だが、東芝側は、独占交渉権はないとする一方、ウエスタンデジタル側の提示額が低く、これを拒否したり、20%未満の出資比率に限定したりといったことが理由となって決裂した経緯がある。

だが、ミリガンCEOは続けて、「東芝は、合弁事業の持分を子会社である東芝メモリに対して譲渡したが、東芝メモリに対する譲渡には同意しておらず、ウエスタンデジタルは、合弁事業契約の譲渡禁止条項に明らかに違反していると考えている」としている。

だが、東芝はこれに対して、強く反論している。

2017年5月15日、東京・芝浦の東芝本社で行われた2016年度(2016年4〜2017年3月)連結業績見通しの席上、東芝の綱川智社長は、「東芝は、メモリ事業の分社化と、分社した事業のマジョリティの譲渡を、正当に実施していると考えている。ジョイントベンチャー契約に抵触するような事実はなく、ウエスタンデジタルがこのプロセスを止める根拠はない」と語る。

東芝がこう言い切る理由としてあげるのが、「ウエスタンデジタルが、サンディスクを買収した際にも、東芝の同意は必要なかった」という点だ。「持分譲渡を含めて、同意はいらない契約内容になっている。われわれは、このあたりを主張している」と綱川社長は述べた。

●平行線のままなら入札期限への影響も

○平行線両社の行方が東芝の未来を握る

東芝とウエスタンデジタルの意見は平行線のままだ。

綱川社長は、ウエスタンデジタルのスティーブ・ミリガンCEOと面談したが、その内容については、「決裂したわけではない。先方も話し合いを続けていくという姿勢である。また会える時期があると思う。なるべく早い時期にあって話し合いをしたい」と語るが、ウエスタンデジタルが打った一手は、その結論が出るまでに時間を要する事柄でもあり、東芝にとっては再建計画に大きなダメージを及ぼす可能性がある。

ひとつは、入札候補会社への影響だ。

ウエスタンデジタルが「横槍」を入れたことで、他の入札候補会社が懸念の色を見せ始めているのも事実だ。

また、5月19日に設定されている二次入札の期限への影響も気になる。

綱川社長は、「二次入札の期限には変更はない」、「入札候補者には、東芝の主張の正当性を説明して、懸念を払拭するように対応する」と述べ、これまでとは変わらないことを強調してみせるが、入札候補会社は情報収集に追われているのは必至だ。

そして、入札の遅れやそれに伴う売却交渉の遅れにつながるようだと、東芝にとっては、まさに死活問題につながる。

東芝が、このほど発表した監査法人の「お墨付き」を得ていない2016年度業績見通しでは、当期純利益は4900億円減の9500億円の大幅な赤字。電機業界では過去最悪、東電に次いで史上2番目という最終赤字の規模だ。

これにより、株主資本はマイナス5400億円と、債務超過に陥ることになる。この債務超過を解消するためには、もはや、メモリ事業の売却しか残された道はない。

綱川社長も、「半導体事業への外部資本の導入により、債務超過を解消する予定している」と語る。

「マジョリティにはこだわらない」というスタンスは変えていないため、裏を返せば、完全売却だけが選択肢ではなく、50%以上の資本導入という選択肢もあるが、そこにも、ウエスタンデジタルの動きが影響する可能性もある。

仮に、ウエスタンデジタルの出資比率が高まれば、独占禁止法の審査に時間がかかるといった可能性も生まれ、これも東芝にはマイナス要素になる。

2017年度中に、払い込みが完了しない場合、東芝は2年連続での期末での債務超過に陥り、上場廃止になる。東芝にとっては、少しでも早く決着をつけたいのが本音だ。

今回の会見では、民事再生法の適用などの法的整理の可能性や、一度、非上場化し、再建後に、再上場するスキームの検討、さらには半導体事業が売却できなかった際のプランBの実行などについての質問が相次いだが、綱川社長は、これらをすべて否定。現在の取り組みを実行することにこだわった。

だが、もはや残された時間は少なく、上場維持に関しても、土俵際の状況にあるのは誰の目にも明らかだ。ウエスタンデジタルとの話し合いが決着しない限り、東芝の打つ手は、もはや八方塞がりとなる。