みんなの党の消滅により、現在は「ひとり会派」のマイノリティとして奮闘する塩村あやか議員

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かつて東京都議会での質問時に受けた「セクハラ野次」が大きなニュースになった女性議員、塩村あやか氏が自身のキャリアや都議会の内実を綴った『女性政治家のリアル』(イースト新書)を出版した。

小池百合子知事の改革、東京五輪運営費用問題、築地市場の豊洲移転問題など都政の話題には事欠かないが、都議会ってぶっちゃけどんなところなのか?

女性かつ「ひとり会派」というマイノリティで奮闘する塩村氏に聞いた――。

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―小池知事は就任から約3ヵ月、今のところ高い評価を受けていますが、塩村さんはどう見ていますか?

塩村 化学反応というか、エネルギーを与えましたよね。これまでの知事は、自身を応援する特定の政党にとって都合の悪いことはできませんでしたが、小池知事はそれに反発して選ばれた人ですから、その点は大歓迎しています。

―小池さんが就任挨拶で議長室を訪れた時、川井重勇議長は記念撮影を拒否しましたが、定例会閉会後には満面の笑みで握手をして撮影に応じました。この豹変ぶりに「都議会って感じ悪いな」という印象を持った人も多いと思うんですが。

塩村 最初に握手や撮影を拒まなければ世論もここまで反発していなかったのでしょうが、結果的に小池さんが都議会の現状を伝えた象徴的なシーンだったと思います。ただ、どちらか一方が完全に悪で、もう一方が正義だということはありませんから、小池さんだけを手放しに称えることはできません。

都政の膿(うみ)をあぶり出して発信し問題意識を共有するという手法は効果的だと思いますが、丁寧に都政改革を進めてほしいという都民の声も一定数あります。そういった声も大事にするべきだと思います。

―塩村さんも本書で、都議会の問題点をいくつか指摘しています。例えば、質問する時、事前に「読み原稿」の提出が半強制的に求められていて、職員の答弁も「台本通り」のものしか返ってこない。これでは活発な議論ができないですよね。

塩村 私も議員になるまでは、国会と同じぐらいはやり合っているのだろうと思っていたのですが、入ってみると全然違っていました。ほとんどの人は読み原稿を渡していて、特に本会議では全てすり合わせができている状態です。

他の地方議会では提出は任意のようなので、これも都議会の特殊なシステムのひとつだと言えるでしょう。でも、中には提出していない会派もあるので、今後は私もやめようかなと思っているんですけど、そういった抵抗をすると良い回答がもらえなくなったり、意地悪されるというリスクもあります。

―特に塩村さんのようなひとり会派だと、意地悪されやすい?

塩村 大きな会派とはウィンウィンの関係で馴れ合い、小さなところはイジメてしまえという雰囲気があるんです。男性でもひとり会派は冷遇されていますから、女性となるとさらに…。セクハラ野次騒動は未だに尾を引いていて、「塩村と話しているのが都の職員に見られたら良い返事がもらえなくなるので、あまり話しているところを見られないようにしよう」という話も聞いてビックリしました。

―オトナ気ないですね…。セクハラ野次は2014年の出来事でした。不妊問題に関する質問中に「早く結婚したほうがいいんじゃないか?」「まずは自分が産んでから!」「産めないのか?」といった野次が浴びせられた。女性蔑視で、政策とは関係ない人格批判ですよね。

塩村 野次はくるだろうとは思っていましたが、まさかあんな言葉が飛んでくるとは思いもしませんでした。議長も制止することができず、みんなで野次って遊ぶという、まさに学級崩壊状態。私たち議員は都民の皆様の悩みを認識し、解決していくのが仕事です。多くの女性が晩産化で妊娠・出産への不安を抱えていることについて、全く理解のない議員があれだけいたということが浮き彫りになり、それこそが問題です。

あの騒動が報道された後、野次を飛ばした会派の議員たちは「聞こえなかった」と言いましたよね。映像にも残っていて世の中はみんな聞こえたと言っているのに、都議会では聞こえなかったというのは非常に奇妙なことです。大きな会派が「なかった」と言えば、なかったことになるのが都議会なのです。だから、あの野次はおそらく都議会にとってはいつも通りのことだったのでしょう。

舛添前知事の政治資金使途問題が出た当初、前知事があれだけ尊大な態度でいられたのも与党との関係に守られていたからで、「中国服を購入したのは書道をする時に肩が張らないからだ」と言えば、「なるほど」となってしまう(笑)。問題の重さを理解していないから、火に油を注いでしまったわけです。舛添さんも、気付かないうちに都議会の巨大与党体質に慣れてしまっていたんだなって思いますね。

―都議会は、ずいぶん世間の感覚とは乖離(かいり)していますね。

塩村 来年は都議選がありますし、皆さん徐々に問題意識を持ち始めているのかなと思います。都議会のおかしなところに風穴を開けてくれたのが小池知事で、私も知事の議会改革は全面的に応援します。でも一方で、自民党の二階俊博幹事長が申し出た都連や区議との食事会を辞退したり、少しやりすぎなんじゃないか、対立を煽(あお)りすぎなんじゃないかと思う部分もあります。そういった権力闘争を見せるのではなく、本当に都民にとって一番になる解決方法を示すべきだと思います。

知事は世論を喚起して盛り上げていかないと改革は続かないと思っているのかもしれませんが、そうであれば豊洲の問題は百条委員会を立ち上げて一気に膿を出すべきです。知事に権限はなくとも、匂(にお)わすだけで一気に動くでしょう。特別委員会を開催してダメなら百条委員会で…と考えているうちに、すぐ都議選になってしまいますよ。様々な政治的判断があるのでしょうけれど、「都民ファースト」というのであれば百条委員会の設置が一番だと思うので、この動きについてはちょっと残念に思います。私は百条委員会設置の議案に賛成しました。

―都議会の127議席中、女性議員は25人しかいません。塩村さんはクオータ制(割り当て制)を導入して女性議員を増やすべきと仰っていますが、小池知事という女性リーダーの登場によってそういった気運が高まることは期待できますか?

塩村 小池さんの「希望の塾」には女性も多く、女性タレントさんも何人かいると聞いています。彼女たち自身は立候補しないにしても、小池都政に共感して入塾したのであれば、知事が推薦する候補の応援演説に入っていただきたいですね。できれば、ご自身が立候補して議員になって、女性目線で問題点をどんどん発信してほしい。古い慣習に縛られた都議会は、やっぱり男性目線なんですよ。女性議員の中にも、中身はオッサン目線の政治という方がたくさんいますから、全部入れ替わってほしいです。

―中身はオッサン目線(笑)。

塩村 都議会で長く生き残ってきた女性議員は、見た目は女性らしいけど…考え方や立ち回りはかなり男性目線ですよ。「希望の塾」からどんどん女性目線の候補を擁立して、そういった方と入れ替わってほしい。女性議員数について言えば、過半数が女性の共産党や、全員女性の都議会生活者ネットワークは別として、自民・公明・民進で女性議員が3割を超えないとダメだと私は思っています。

ただ、単純に数を増やせばいいわけではなくて、今いる女性議員のような人ばかり増えたら逆に事態は悪化します。私はタレントや放送作家をやってきて、芸能界内での足の引っ張り合いは経験していますが、女性議員同士は仲が悪くて、もっとえげつないですから。先輩女性議員が私についてのありもしないデマを週刊誌に流したこともありました。普通の感覚でおかしいことはおかしいと声を上げられる人に是非、都議会に来ていただきたいなって思いますね。

―塩村さんが政治を志すきっかけになり、現在も注力している問題のひとつに動物愛護があります。現在、年間10万頭もの犬猫が殺処分されていますが、本では某自治体の殺処分現場を視察したレポートを掲載しています。「安楽死」とは名ばかりで、狭い部屋に何頭も押し込められ、二酸化炭素ガスで数分間もがき苦しんだ末に「窒息死」させる。読んでいて、本当に胸が痛くなりました。

塩村 動物愛護は、放送作家時代から政治家に訴えに行くなどしていたのですが、あまり変わらないので自分が政治家になって変えていこうと思った課題です。動物は可愛いから大事にしましょうっていうことじゃなくて、人間の経済活動で作り出した命を、余ったから殺しましょうというのは、人間としてどうなんでしょうか。

マハトマ・ガンディーが、動物の扱いを見ればその国のレベルがわかると言っていたように、動物を大事にしている国では人権も手厚い。今、動物はコンビニのお菓子のように、余ったら闇廃棄されています。日本もまた命が粗末にされる時代が来るかもしれませんね、コレでは。

ドイツなどでは「8週齢規制」があり、犬猫が生まれてから8週間は生まれた環境から離してはいけないと法制化されています。また、「飼養施設基準」を制定し、狭いところに詰め込んで飼育してはいけません。だから、日本のペットショップのように、幼齢すぎる犬猫を狭いガラスケースに入れて販売することはできないのです。

日本でも2013年に改正された動物愛護管理法で「8週齢規制」が設けられましたが、残念な「附則」が付いて骨抜きになっています。その背景には、ペットの頭数が多いほど利益の出る業界の存在があります。利権を持った企業がアライアンスを組み、愛護グループを立ち上げて「緩い自主規制」を作ろうとしているとも懸念されています。「この基準までは譲歩するから、ここらへんで勘弁してくれない?」というわけです。これでは抜け穴になってしまいます。

―政治的なトリックですね。

塩村 そこにみんな騙されちゃうんですね。これらの愛護グループが今後提案してくる基準は、動物愛護の視点からかけ離れた、先進国では動物実験レベルのものになるであろうと予想されています。だから、次の愛護法改正では、本当にその数字が動物福祉になっているのか、注意深く見極めないといけません。

―安倍政権が掲げる「女性活躍社会」については、どう評価しますか?

塩村 女性の活躍なしには日本経済はもたないことがようやくわかったから、今の安倍政権は一生懸命取り組んでいるところだと思います。女性活躍というと、「仕事もプライベートもキラキラ輝く女性」を思い浮かべる人が多いでしょうが、誰もがそんなスーパーウーマンになれるわけではありません。本当の女性活躍社会とは、出産や子育てを経験した女性が働ける環境が整っていて、非正規雇用やフリーランスにもチャンスがある社会です。

そして、女性活躍社会の実現にはイクメンの存在も求められます。現在、男性の育休取得率はわずか2%程度しかありません。その背景には、やはり「男が育休なんて…」という日本の企業風土があるのではないでしょうか?

―安倍政権は「脱モーレツ社員」とも言っていましたね。言葉のセンスはどうかと思いますけど(笑)。一方で、自民党の憲法改正草案には「家族は、互いに助けあわなければならない」という国民の義務が盛り込まれています。

塩村 改憲草案にある国家観や家族観は、むしろ経済成長の足を引っ張るものだと思います。成長というのであれば、やるべきことは成熟国家としての底上げでしょう。私は議員になって動物愛護に取り組みながら、個人の尊重や国家観などについても深く考えるようになりました。私たちが国を守るべきなのか、国が私たちを守るべきなのか、究極的にどちらなのかと考えると、私は政治家として国や自治体が個人を守っていくのが正しいと考えています。

しかし、今はそうではない考え方がネットに蔓延(はびこ)っていて、これは危険だと思います。私もセクハラ野次騒動の際、「男を謝らせた」と猛攻撃を受けたので、ネット空間の言説の危険性は理解しているつもりです(苦笑)。

―いまだにいろいろ書かれてますもんね。でも、ユニークなキャリアを持つ塩村さんは、政治という世界の中でダイバーシティの象徴なのではないでしょうか(笑)。

塩村 振り切っちゃってるダイバーシティですけど(笑)。私のような女が「政治おかしい!」と思って議員になったくらい、今の政治はおかしいんだということを理解していただきたいですね。私は政治家を目指していたわけではなく、変えたいことを解決する手段として議員になりました。だから、政策実現のためには政治の外側からの働きかけが有効だと思えば、そういった方向に行くかもしれません。

でも、しばらくはマイノリティの女性議員としてこれまで通り、下からしっかりと声を上げて、社会を少しでも良い方向に変えていきたいです。でも、今後も週刊誌やネットデマなどでボコボコにされちゃうんでしょうね(笑)。

●塩村あやか

1978年広島県生まれ。高校卒業後に上京し、非正規雇用で社会に出たロスジェネ世代。語学留学、豪州でのカレッジ留学、モデル、ライターを経て日本テレビ系「恋のから騒ぎ」に出演し、年間MVPを獲得。その経験を生かし放送作家に転身し、「シューイチ」(日本テレビ系)など多くのTV・ラジオ番組を担当。ボランティアを通じ社会の問題に気づき、2013年東京都議会議員選挙に出馬し当選。みんなの党解党後、現在は無所属のひとり会派で議会活動中



●『女性政治家のリアル』
(イースト新書 861円+税)

(取材・文/中込勇気 撮影/保高幸子)