天龍源一郎「引退試合の映像はまだ観ていない」引退までの一年間「LIVE FOR TODAY」上映会

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プロレスを題材にした映画といえば、どうしても『レスラー』とか『ビヨンド・ザ・マット』とか、ある意味スキャンダラスな取り上げられ方をすることが多かったように思う。それはそれで味わい深いのだけど、全く異なる角度からジャンルを取り上げた作品が完成しています。2017年2月4日から公開されるのは『LIVE FOR TODAY-天龍源一郎』。


これは、昨年11月に現役を引退した元プロレスラー・天龍源一郎の姿を追ったドキュメンタリー映画。2015年の引退発表から、11月に行われた引退試合までの激動の日々を収めた作品になっています。


中でも見どころは、父をサポートしてきた娘であり「天龍プロジェクト」代表でもある嶋田紋奈と引退まで二人三脚で駆け抜けた姿。


普段、ファンの前では決して見せることのなかった家族の絆が克明に描かれました。

引退試合のちょうど一年後、引退までの一年を追うドキュメンタリーの試写会を開催


この映画の先行特別上映会が、昨日(11月15日)に開催されています。なぜ、昨日なのか? それは、天龍が引退したのが2015年11月15日だったから。365日が経過したこの日に、天龍源一郎と同作の川野浩司監督が完成披露舞台挨拶を行いました。


聞き手を務めるは、ライターの鈴木健氏です。
天龍 どうも、皆さん。一年ぶりになると思いますけど、お久しぶりです! 去年の今頃、両国国技館に足を運んでいただいた方もいらっしゃると思いますけど、本当にその節はお世話になり、ありがとうございました。一年間ぼけーっと過ごしてましたので、人前に出るのでは久しぶりでちょっと緊張してますけど、まぁ付き合ってください。よろしくお願いします!


──天龍さん。今回は、ご自身のドキュメンタリーが映画になりました。最初、この話を聞いた時はどういう風に思われましたか?
天龍 最初は本当に気恥ずかしくて、「なんで俺なの?」っていうのが正直なところで。監督がカメラを回して控室に入ってくる時に馴染めなくて、たぶん監督は最初「とっつきにくいレスラーだな」「なんでこんなとっつきにくい奴のことを俺は取材しなきゃいけないんだよ」という初対面だったと思います。今にして思うと、冥土の土産にいいものができたと思ってますよ。あの世に行ったら、これを馬場さんとジャンボ鶴田に伝えたいと思ってます。
(会場 笑)
──監督。今回、天龍さんのドキュメンタリーを撮影することになった経緯の方をご説明いただけますか?
川野 前々から、天龍さんと代表の紋奈さんの関係性が面白いと思ってまして「ドキュメンタリーをやりませんか?」と話を振ってた時期があったんです。それで2年前の年末に、代表の方から「あの話がまだ生きているのならば、ドキュメンタリーをやりませんか?」という話をいただきました。自分もずっとプロレスファンだったので、逆に「自分でいいのだろうか?」なんて思いつつ始めた経緯です。
──ファンであったために、すごい思い入れを持って撮影されていたと思うんですけど。
川野 映画を観たらわかると思うんですけど、最初のうちは若干距離感があるといえばあるんですね。段々と近付いていく感じも、ちょっとした見どころの一つではないかという気がしています。
天龍 僕たちはプロレスの社会ばかりにいるもんだから、部外者のことを寄せ付けないところがあって。だから最初、カメラ持って控室とか練習場所をちょろちょろしてる監督を見て「なんだよ」という感じだったんですけど、そのうちにどこに行ってもカメラ回してくれるっていうのを理解して、「俺のために一生懸命撮ってくださってるんだな」と、だんだん気持ちが近寄っていった感じですね。
──今日という日にこのイベントを迎えることになりましたが、あれから一年経って、天龍さんの中でプロレスはどのようなものとして残っていますか?
天龍 僕はもう一年前にプロレスを去って、実際に関わらないと思ったんですけど、昔の職業ということで気にもなりますし、この一年のプロレス界は盛況になりつつあるなというのは心底うれしく思いますね。

ナレーターは染谷将太が担当


ちなみに、この作品でナレーターを務めたのはプロレスファンとしても有名な俳優の染谷将太さんです。


当日は他の仕事で登壇できなかった染谷さんですが、映像コメントが会場へ寄せられています。
「プロレスラー・天龍源一郎さんという見方もそうですけど、一人の男として、一人の人間として、一人の父としての天龍さんの姿をカメラを通して観れるというのはとても豊富なものをもらったといいますか、豊富な人生を見れた気がしまして、とても満たされた気持ちになりました。天龍さんファンの方も、プロレスファンの方も、またそうでない方も、誰でも感動できる内容になっていると思います。これをきっかけに天龍さんのことはもちろん、『プロレスにこういう感動があるんだ。ここにそういう人間ドラマがあるんだ』と気付き、広めていってくれたらなと思います」(染谷さん)

また、舞台挨拶の最後には全日本プロレス、SWS、WARと天龍と時代を共有してきた北原光騎が登場!



彼の登場は、天龍自身にも知らされていなかったサプライズだそうです。
「大将(天龍のこと)がさっき緊張してるって言いましたけど、僕もすごく緊張してまして、どんな映画になっているのか皆さんと一緒に楽しんで帰りたいと思います」(北原)


「この業界にカメラ持って入ってきて、なんなんだよ!? と思った」


舞台挨拶終了後、別室でマスコミ向けの囲み取材が行われました。


──やっと公開という感じですかね?
天龍 いやぁ。一年間、ずっと川野監督に付け回されていたというのは確かですけど(笑)。でも、俺の中では「天龍源一郎で大丈夫なんですか?」って、今でもそう思ってます。なんか、気恥ずかしいというのが正直なところです。
──昨年のちょうど今日に引退。そして、一年後に公開。どうですか?
天龍 監督と天龍プロジェクトの人たちが粋なはからいをしてくれて、感謝しています。
──まさか、自分がドキュメンタリーの映画になると思っていましたか?
天龍 いまだに、やっぱり気恥ずかしいです。
──やっぱり、恥ずかしいものですか?
天龍 いやぁ、恥ずかしいです(笑)。


──ところで、天龍さんにとって“映画スター”ってどんな人ですか?
天龍 僕らにとっては、やっぱり石原裕次郎さんとか渡哲也さんとか勝新太郎さんとか錦之介さんとか。
──同じスクリーンに登場されますが。
天龍 いやいやいや、何言ってるんですか!
川野 でも僕は結構、今回は映画の俳優と思って接してましたよ。
天龍 僕、だから自分の中で映像に映るということをわかってから、川野さんを「監督」って言い方に直したんですよ。「監督、監督!」って、リスペクトしてる俺がいましたよ(笑)。俺はこの人の映像の中で自由に動かされてる手駒みたいなもんですね。だから、よく撮ってもらいたいという下心があったと思うので「監督、監督!」って盛んに言ってました(笑)。
──その前までは監督だと思っていなかったんですか?
天龍 それまでは「なんでレスラーのところに来るんだよ、このオッサンは」って(笑)。だって、たけしさんが新日本プロレスに行った時も「帰れ、この野郎!」とか言った業界ですよ? その業界にカメラ持って入ってくるんだから「この人、何なんだろう?」って思いましたよ(笑)。

引退試合の映像はまだ観ていない


──引退宣言してから引退試合までの一年弱のドキュメンタリーですけど、撮られてて自分の中で思っていたことは?
天龍 引退発表をしてからは斜に構えた天龍源一郎ではなくて、真正面からぶつかって一生懸命やり通したっていう、それだけは満足しています。
──相撲からプロレスと続いた競技人生、悔いはないですか?
天龍 いや、全然ないですよ。昔の天龍源一郎だったらリングの中でヨタヨタしてるのを見せるのも嫌でしたけど、もう今日なんか「どうです? 見てください!」っていう感じです。
──引退試合はオカダ選手に敗れてしまいましたけど、最後の試合はいかがですか?
天龍 最後の試合は、いまだに映像を観てないんです。もう、負けたやつは観ることはないっていう。
──最後の引退試合、負けてしまったのは不本意だったということですか?
天龍 かもしれないですね(笑)。
──天龍さんを追っかけてきて、監督から見て天龍源一郎とはどういう男ですか?
川野 いや、一言では言い表せないですね。色んな面を見たつもりではあるんですけど。映画って2時間くらいあるじゃないですか? その中でも40年に及ぶプロレス人生を描ききることは難しいと思ったので一年に凝縮したんですけど。それでも語り尽くしたかどうかわからないと思うんですよね。なかなか一言で言い表せないから映画にしたんじゃないかなと思います。
──結構、テープは回したんですか?
川野 結構、回しましたね。ほぼ、どこかに行く時は必ず付いて行ってたんで。
──特に誰に観てもらいたいですか?
天龍 「俺なんて……」って思ってる人、結構いると思うんですね。いいにつけ、悪いにつけ、そういう人らってみんな周りから支えられながらも自分は前進させられているんだっていうことを感じてもらえればいいなと思います。要するに、みんなの存在があって自分があるんだということだと思うんですね。僕もガキの頃は「俺一人だって生きていける」って突っ張ってましたけど、やっぱりそういうわけにはいかないもんですよ(笑)。

馬場、猪木をフォールした時は「ヤバイことをやったか?」と思った


──引退試合の後「思い出の試合はいっぱいあって言えない」っておっしゃってましたが、馬場さんと猪木さんからフォールを奪った唯一の日本人レスラーという偉業は誇れるところですか?
天龍 でも誰と闘うのも全身全霊でしたからね、同じだと思います。
──あの2人からピンフォール奪うというのは……
天龍 (遮って)いや、その時はそうは思わないんですよ。でも、色んな人から言われると「逆にヤバイことやっちゃったかな?」って、表現としてはそんな感じです(笑)。


──引退の時は、体はボロボロの状態だったんですか?
天龍 逆に言えば、40年間もやってこんな体になったからこそ「俺はプロレスで一生懸命やった」っていう自負ができると思いますね。まだ元気で引退したら「適当にやってるからそんな元気なんだよ」って言われると思うんだけど「この体を見てくれよ」って。レントゲン写真を見せてあげたいくらいです。もう今は、達者なのは口だけです(笑)。
──ただ、力士時代からこの野太い声は滑舌は悪いですね(笑)。
天龍 いや、相撲の時はもっともっと綺麗な声でした。相撲協会で映像を借りていただければわかりますけど、すごいハイトーンな声です。
──プロレスに入ってからこんな声になっちゃた?
天龍 そうですね。馬場さんのマネしててこんな声になっちゃいました(笑)。
──一年経ちましたけど、今でもトレーニングはやってるんですか?
天龍 いや、もう一切やってないです。体幹の筋力が衰えましたね。
──監督は、特にどんな人に観てもらいたいですか?
川野 まず、プロレスファンの方にはぜひ観ていただきたいですね! 今まで、プロレスの映画ってなかなか少ないと思うんですよ。その中で、自分が観たかったプロレス映画が今回自分自身で作れたなという気もしているので。当然、色んな人に観ていただきたいんですけど、言ってみれば天龍さんのことを嫌いだった人たちももしかしたらいるかもしれないですし、そういう人たちも含めて全てのプロレスファンの方に観ていただきたいなと。去年、ずっと一緒に旅をさせてもらって、それを味わってもらいたいと思って撮ってた部分もあるので、プロレスファンにこの映画は届けたいですね。
──監督自身もプロレスの大ファンなんですか?
川野 そうですね。僕もずっとプロレスファンでして、映画をやるってなった時に、天龍さんが馬場さんと猪木さんからフォールとった時みたいに「凄いことをやるんだな。本当に自分でいいのだろうか?」と思いました。
──たしかに、プロレスのドキュメンタリーって少ないですよね?
川野 スキャンダラスな面を描いた作品はあると思うんですけど、純粋に一人のプロレスラーに向き合ったプロレスのドキュメンタリー映画はなかなか無いんじゃないかな? と。
──天龍さん、もしかしたら史上初めてくらいの珍しさですよ?
天龍 その言葉が好きだから、いいですよ。「初めて」っていうのは好きです(笑)。
──映画を観てみて、どうでしたか?
天龍 不覚にも、自分のことなのに涙が出るところがあったので、そこを観てる皆さんが感じていただければいいなと思いますよ。なんかね、先ほど話したように「自分一人じゃ世の中は生きていけないんだよ、お前。どれだけ突っ張ってたって」っていうのが、僕を通してよく理解してもらえると思います(笑)。
──不覚にも涙を流した箇所があったんですか?
天龍 そうですね。普通、自分の生きざまって自分がよくわかってるわけですけど。最後に向かっていく時にみんなが励ましたり、家族みんなが一心不乱に……というところですかね。男ってほら「俺ががんばってるんだ、コノヤロー」ってつもりで生きてるけど、実際は周りの人から色んな形で支えられたというのがよくわかった気がしました。
──監督は、そこが狙いだったんですか?
川野 そうですね。プロレス映画とは言え、自分の中でのテーマは「家族」だったので。元々やりたいなと思ったのは、天龍さんと代表の紋奈さんの関係性を雑誌等で見てて面白いと思ってたところから始まりましたので。嶋田家(天龍の本名は嶋田源一郎)の話でもありますよね。でも、それって全ての父親や娘の置き換えられると思うんです。特別なことではないと思うんですよ。だけど去年、引退ということに向けてどう支え合っていくかっていうことが、実はやりたかったことではあるんですよね。
──最後に、天龍さんからPRを。
天龍 一レスラーのドキュメンタリーですけど、すごく良く仕上がっていますし、皆さんの心に響くものがあると思いますから、ぜひ劇場に足を運んでください。よろしくお願いします。
(寺西ジャジューカ)