「べっぴんさん」31話。仕事も家庭も「中途半端はやめてや」

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連続テレビ小説「べっぴんさん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第6週「笑顔をもう一度」第31回 11月7日(月)放送より。 
脚本:渡辺千穂 演出: 新田真三


31回はこんな話


4人ではじめたベビーショップあさやだったが、戦争から夫が帰ってきて、良子(百田夏菜子)と良枝(土村芳)が辞めてしまう。ふたりも戦力が減ったなか、すみれ(芳根京子)はテーブルクロスの注文の期日までに黙々と作業する。

それぞれの事情


明美(谷村美月)は病院をクビになったことをすみれたちには隠しながら、あさやの2階に居候していた。
良子は夫に言われたと嘘をついて仕事を辞めた。
君枝は夫に仕事の話をできずにいた。
みんな黙っていることがあり、そのせいで4人の関係性がギクシャクしている。

それでも、約束の商品は完成させないといけない。
すみれは家に仕事を持ち込むが、翌朝も早く店に行く。
店に住んでいる明美は、早く来たすみれと出会ってしまい気まずい。
そこへ、少し持ち帰って手伝おうと、良子と良枝がやって来た。
ここで、わー!ありがとうー!と感動話しにならないのが「べっぴんさん」。

明美が「自分のために中途半端なことするのやめてや」「悪い思う気持ちを軽くしたいだけやないか」と
とずばり指摘。意地悪な見方だが、そういうところもあるとは思う。

お金を稼ぐこと全然わかってないという明美に「自分かて中途半端やないんですか。看護婦のしごとと片手間では」と良子が反論。
これによって明美はついに「辞めたわ」と告白することになる。

あさやのために辞めたと自分をかっこよく見せることはせず、「辞めさせられた」と正直に言う。

「いまは目の前にあるこの仕事をがんばろうと思ってる」という明美の本気を見せられて、良子たちは「責任持ってすることはできない」と躊躇する。

「そやったら帰ってよ」と明美はさらに続ける。
なんでそこまで人を追い込むんだ、明美。
闇市の根本(団時朗)に「あなたがリーダーです」と花をもたせた五十八(生瀬勝久)とは大違いである。
これが人生経験の差なんだろう。

あとは、これまで朝ドラで、仕事と家庭を簡単に両立させてきた登場人物を視聴者が批判しまくってきたことへの気遣いともとれる。
良子たちのも申し訳なさそうな表情のなかにも、夫が帰ってきたことが嬉しいと同時に、未だ帰って来ない人たちや亡くなった人や、いろいろ恵まれてない人がいるわけで。それらに思いを馳せるいろいろな立場の視聴者を慮っているような脚本だ。

未熟な4人のギクシャクはまだ続く。
テーブルクロスを届けたところに通りかかった君枝が一緒に話していると、夫・昭一(平岡祐太)に見られてしまう。
親が建てた思い出の家を外国人にとられたことをよく思ってないだ姑(いしのようこ)のことを気にかける昭一に、君枝は従うしかない。

そもそも29回で昭一が帰ってきたとき、住居に外国人が入っている姿を見たときの、昭一と姑の表情と、さらにそれを見たときの君枝の表情が微妙だった。
戦争が終わっただけでは解決しない、登場人物の抑圧されている感をよく描いていて、だからこそ、何かをやろう、踏み出そうとすることの必要性も強く伝わってくる。

土村芳、少年役を映画「弥勒」でやっていたときの透明感を失っていなくて、整ったきれいな顔に微妙な抑圧感を滲ませると目を奪われてしまう。光の反射率のいい肌と輪郭しているようで映画と相性良さそう。
(木俣冬)