リオデジャネイロ五輪で北朝鮮のホン・ウンジョン選手と韓国の李恩朱(イ・ウンジュ)選手が、仲良くツーショットで自撮りした画像が、世界の注目を集めている。

国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ委員長は10日、「偉大な行為」とコメント。米国の政治学者であるイアン・ブレマー氏は、「北朝鮮と韓国の体操選手が一緒に自撮り。これぞオリンピックの醍醐味だ」とツイートするなど、微笑ましいシーンに賞賛が寄せられている。

しかし、この撮影行為に対して、思わぬところから水が差された。韓国のハンギョレ新聞は、この写真に対する米AP通信の報道をめぐり、「南北関係の悲劇的な断面を見せるハプニング」と報じた。一体、どういうことか。

北朝鮮人と接触すれば罰

ハンギョレ新聞によると、AP通信は、「このような出会いが、憎悪と流血で染まった両国の長年の歴史のために、複雑化しかねない。朝鮮半島はいまだに戦争状態にある。南北の人たちの交流は許可を受けるように法で規定されている」と伝えた。

さらにAP通信は、韓国の南北交流協力法第9条の2(南北の住民接触)を持ち出しながら、「北朝鮮の人と接触した韓国人は7日以内に韓国の統一部に報告しなければならない。 韓国選手たちは、オリンピックで北朝鮮の人々に会っても、後に政府に情報と報告書を伝達する」と説明したという。

北朝鮮レストランに通う韓国人は?

南北交流協力法は制限付きで北朝鮮人との接触と認めている。しかし、韓国のスパイ防止法と言える「国家保安法」では、一般の韓国国民と北朝鮮人、また在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)のメンバーが接触することは固く禁じられている。しかし少なくとも、国家保安法のこうした規定はもはや、旧時代の遺物になりつつある。

ここ最近は韓国政府の自粛要請で、下火になりつつあるが、多くの韓国人が中国や、東南アジアの北朝鮮レストラン(通称:北レス)に観光として訪れている。熱狂的なファンも多く、各国の北レスを渡り歩いたり、通い詰め、美貌のウェイトレスを発掘してはネットに写真をアップし、話題になったケースもある。

(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発

在日コリアンである筆者も国籍は「韓国籍」だが、北レスには何度も訪れている。中朝国境でも多くの北朝鮮住民と接触しているが、事前も事後も申告したことすらなく、警告されたこともない。ハンギョレ新聞によると、大統領令で定めるやむを得ない事由に該当する場合には接触後に通報できるらしく、そこまで、杓子定規に適用されるわけではないようだ。

実際、韓国の統一部は「(二人は)五輪出場中に偶然出会ったもので、事後届出の対象にはならない」としながらAP通信に訂正を要求。ハンギョレ新聞は、AP通信の記事に対して「世界の人には理解されづらい南北関係の状況を、淋しそうに見せてくれた」と報じた。

恥をさらした金正恩氏の特使

AP通信の誤解によって水を差されたが、外連味がない行動で、清々しい感動を呼び起こした二人の行動は、五輪史にしっかりと刻み込まれただろう。

一方、北朝鮮を代表、すなわち金正恩党委員長の特使として派遣されたにもかかわらず、代表団らしかぬ振る舞いを見せたのが崔龍海(チェ・リョンヘ)国務委員会副委員長。スポーツ外交を展開するかと思いきや、ほとんどの時間を自国選手の応援や観光に費やしたあげく、北朝鮮選手たちの低調な成績に業を煮やしたのか、早期帰国したという。もともと変態性欲スキャンダルや収賄などで北朝鮮国内でも悪名高き人物だが、ホン選手とイ選手の爪の垢でも煎じて飲んだらいかがだろうか。