日本経済に、「リーマン・ショック」級の危機が迫っている?(写真は、東京証券取引所)

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リーマン・ショック」発言をめぐり、与野党入り乱れて、言った、言わないの「大騒ぎ」が起っている。

安倍晋三首相は、消費税率の10%引き上げを再延期する「条件」として、リーマン・ショック並みの世界経済の危機、あるいは東日本大震災級の大災害の発生をあげた結果、「リーマン・ショック」発言だけが「ひとり歩き」してきたが、政府がなにを増税再延期の根拠としているのか、ますます曖昧になってきた。

リーマン・ショック前に『似ている』とは言っていない」

2016年5月27日に閉幕した主要7か国首脳会議(伊勢志摩サミット)後の記者会見で、安倍首相は「われわれは、世界経済が通常の景気循環を超えて危機に陥る大きなリスクに直面しているという認識について、一致することができた」などと発言。世耕弘成官房副長官もその後の記者へのブリーフィングで、安倍首相はサミットで世界経済の現状を「リーマン・ショック前に似ている」と発言したと説明した。

このため、日本は世界にリーマン・ショック級の「大きな危機」が迫っていると認識しているかのような状況を印象づけた。

ところが、この発言に違和感を覚えた人は少なくない。

エコノミストなどからは、

「米国が利上げしようかというのに、どこがリーマン・ショック級なのかわからない」

といった声が漏れ、霞が関からも、

「景気は緩やかな回復基調が続いている、とした月例経済報告とかけ離れている」

などの声があがった。

海外メディアも、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は「世界経済が着実に成長するなか、安倍氏が説得力のない2008年との比較を持ち出したのは、安倍氏の増税延期計画を意味している」と指摘。米CNBCも「あまりに芝居がかっている」などと伝えた。

安倍首相の「(リーマン・ショックを念頭に置いた)大きなリスク」発言を、懐疑的に受けとめ、安倍首相の増税再延期の判断を正当化するための方便との見方が広がった。

そうしたなか、世耕官房副長官は5月31日の記者会見で、「リーマン・ショック前に似ている」としたサミットでの安倍首相の発言について、実際には「リーマン・ショック前に『似ている』とは言っていない。私が少し言葉足らずだった」と釈明。「首相が言ったのは『リーマン・ショック直前に洞爺湖サミットが行われたが、危機の発生を防ぐことができなかった。その轍を踏みたくない』ということ」と、弁解した。

安倍首相自身も30日の自民党役員会で、「わたしが『リーマン前に似ている』との認識を示したとの報道があるが、まったくの誤り」と指摘。党内では麻生太郎財務相や谷垣禎一幹事長らとも対立していたことから、火消しが必要と判断したことがうかがえる。

これに対してインターネットでは、

「世耕さん、なに言ってんだかさっぱりわらんけど、安倍ちゃんの代わりに泥をかぶったってことはわかったwww」
「『リーマンに似ている』と言ったことではなく、リーマンを引き合いにだして『虚構の危機』を演出した、しかもサミットでってことが問題なのだが」

などと、安倍首相への批判的な声は少なくない。

リーマン・ショック」は和製英語

一方、民進党の玉木雄一郎衆院議員は2016年5月30日付のツイッターで、

「『リーマン・ショック前に似ている』と総理が説明した4枚の資料の英語版を見て驚いた。日本語版には11か所も登場した『リーマン・ショック』という言葉が英語版には一度も出てこない。日本語版にはあるカッコ書きの説明部分もない。悪質な情報操作だ」

と痛烈に批判した。

ところが、これがインターネットで失笑を買った。

リーマン・ショックは和製英語。英語では『the financial crisis』と表現されるのですから、当然ありませんよ」
「陰謀論を口にするのであれば、それなりの材料を揃えてからにしたほうがいいですよ」
「こういうのも悪質な情報操作じゃないんですかね?」

と、呆れぎみのコメントが相次いだ。

だが、こうした声に対しても、玉木氏はツイッターで、

リーマン・ショックは和製英語で英語ではthe financial crisisではないかと指摘をいただいていますが当然認識しています。英語版にはそのthe financial crisisが6回しか出てこないのに日本語版にはリーマン・ショックが倍の12回も出てくることの不自然さです」

と当初の主張を維持して反論。 6月1日付でも、

「極秘に資料まで作成しサミットを利用して『リーマン前』の経済危機を印象づけようとしたがG7首脳の理解を得られず失敗。まずいと思って世耕副長官のせいにして発言を修正。危機にあるのは世界経済ではなく安倍内閣の意思決定プロセスではないか」

と指摘した。

リーマン・ショック」級の危機が迫っているのかどうかは国内外で見解が分かれたままだが、その言葉を使ったどうかも曖昧にしたまま、「消費増税は再び2019年10月まで延期されることになった。