秩父市とのフレンドリーシティ締結式【写真提供:埼玉西武ライオンズ】

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昨年から1万8000人以上も来場、愛着を増す「地域住民」と共に8年ぶりの日本一へ

 メヒア選手が放った鋭いライナーが左中間を抜けると、3万2364人のファンで埋め尽くされた西武プリンスドームから割れんばかりの大歓声がドッと沸いた。2016年開幕戦で埼玉西武ライオンズが見事サヨナラ勝ちを決め、多くのライオンズファンが酔いしれた瞬間だった。

 3月25〜27に西武プリンスドームで開催された2016年開幕シリーズ全3試合には、連日3万人を超えるファンが来場した。昨年の開幕3連戦の合計観客動員数約7万9000人と比較すると、実に1万8000人以上も多くのファンが球場に駆けつけたことになる。しかも、チケットは3試合とも前売り完売を記録し、西武プリンスドームは今までにない盛り上がりを見せた。

 まだホームゲーム3試合終了時点ではあるが、なぜライオンズはここまで観客動員数を伸ばすことができているのだろうか?

炭谷新選手会長から投げかけられたメッセージとは

 2015年シーズンオフの契約更改時、新選手会長に就任した炭谷選手から球団に「開幕シリーズは、西武プリンスドームいっぱいのライオンズファンで埋め尽くし、ファンと共に開幕ダッシュをしたい」という想いが投げかけられた。選手会長と球団が一緒に考え抜いた結果、開幕全3試合において、来場者へオリジナルグッズを配布することになった。

 第1戦目はライオンズの応援必需品である「応援フラッグ」、そして2・3戦目には、「寒さが残る春先の西武プリンスドームでファンの方に少しでも暖かい環境で応援をしてもらいたい」という炭谷選手の発案で、オリジナルフリースを配布することが決定した。

 春季キャンプ中の2月中旬には、炭谷選手会長が自ら記者会見を行い、開幕3連戦のオリジナルグッズ配布の企画を発表するとともに、「球場へ足を運んでいただき、僕たちと一緒に戦ってください」というメッセージをファンへ発信した。

 炭谷選手からメッセージが発信された直後から、多くのファンがそれに応える形でチケットを購入。例年にないチケットの売れ行きに、球団でさえもここまで反響があると想定していなかったという。もちろん、オリジナルグッズに魅力を感じたファンが多いことは事実であろうが、SNS上では「炭谷選手会長の熱い想いに応えて、球場で選手と一緒に戦いたい!」というファンからのメッセージが多く見られた。

 このファンの基盤を支えているのがファンクラブ会員組織であり、2008年からはカスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)というロイヤルカスタマープログラムも導入されている。このプログラムの導入以降、ファンクラブ会員のチームに対する帰属意識が向上し、観客動員数も年を追うごとに右肩上がりで推移している。

 昨年は2005年の実数発表以降では最高となる161万6827人の観客を動員。ロイヤルティの高いファン基盤が育ってきていたところに、シーズン前に炭谷選手から発信されたメッセージがさらに拍車をかけ、2016年開幕シリーズ全3試合は前売りでチケット完売という記録につながったと考えられる。

「フレンドリーシティ」連携の拡大による「地域住民」の愛着度向上

 さらに、開幕シリーズの大盛況の要因として、もうひとつのことが挙げられる。ファン底辺のさらなる拡大を目指して、ライオンズは昨年3月から「フレンドリーシティ」という自治体と連携した制度を開始した。これは西武プリンスドームの近隣市町村と協定を締結し、お互いが持っている資源を生かし、球団と自治体が協働して様々な事業に取り組むことを通じて、地域社会の発展、住民福祉の向上に寄与することを目的とした制度だ。

 ライオンズはパ・リーグで唯一、本拠地が県庁所在地以外にある球団であり、本拠地を置く所沢市の人口は約34万人。これはパ・リーグ6球団が本拠地を置く都市人口1位の大阪市(オリックス・バファローズ)269万人の1/8程度、5位の千葉市(千葉ロッテマリーンズ)97万人と比較しても1/3程度にしか満たない数字だ。

 フレンドリーシティ制度を導入した理由としては、地域住民にライオンズをより身近に感じてもらえる環境を整備することにより、そのマーケットを拡大することだと考えられる。制度導入からわずか1年程度で13市1町と協定を締結し、急ピッチでそのエリアを拡大している。フレンドリーシティ14市町の人口を合わせると約189万人。これはファイターズが本拠地を置く札幌市(195万人)に匹敵するマーケットとなる。

 ライオンズのフレンドリーシティ市町では、制度導入以降、市役所に「○○市は埼玉西武ライオンズを応援しています」という横断幕が掲げられたり、商店街にチームのロゴが入ったタペストリーが飾られたりするなど、ライオンズ色が街中にあふれてきた。シーズンオフには現役選手が地域イベントへ参加し、シーズン中にはOB選手、マスコットのレオ・ライナ、公式ダンスパフォーマー「bluelegends」が幼稚園、小学校、高齢者福祉施設などを積極的に訪問。地域住民との交流を図っている。

 こういった活動を通してライオンズとの接点が多くなった地域の人々は、今まで以上にチームへの愛着が増してきたであろう。結果としてここでも、炭谷選手から発されたメッセージに心を動かされ、西武プリンスドームへ足を運ぶきっかけにつながったのではないだろうか。

 2008年以来、優勝から遠ざかっている埼玉西武ライオンズ。今まで以上に帰属意識を増したロイヤルファンに加え、新たにフレンドリーシティ連携によってチームへの愛着を増した地域住民と共に、8年ぶりの日本一へ向けた快進撃を目指す。今年のライオンズから目が離せない。

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

「パ・リーグ インサイト」編集部●文